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第771話 『爪弾き』



 リベラル警備責任者ジラク・ドムドラと、ファーレの護衛の槍使いが手を組んだ。


 二人は、昔から長く一緒にコンビを組んでいたかのように息の合った動きでドネルとボビーを追い込む。槍使いの槍が走ると、それに続いてジラク・ドムドラが剣を巧みに振るう。


 対してドネルとボビーは、共通の敵を前に自然と共闘している形になっているだけで、呼吸は全くといっていい程あっていない。


 ドネルとボビー、それぞれがそれぞれに戦っている。こうなると、息の合っている方が圧倒的有利。その強さは2倍以上にもなっているのだろうから。


 ドネルの大剣をまたしても槍使いが真正面から受け止めると、その後ろからジラク・ドムドラが思い切り跳躍して、ドネルの真上に飛んだ。剣。斬撃。



「これで、お前達の悪行三昧もお終いだ。大人しくするんだな」


「畜生!! ま、まさかリベラルのジラク・ドムドラまでもが、出張ってくるなんて!!」


「うりゃあああ!!」



 ジラク・ドムドラの一撃。宙から勢いをつけて振り下ろした剣が、ドネルの首を討った。


 一瞬、それを見てドネルの首が飛んだかと思ったけれど、ジラク・ドムドラはしっかりと峰打ちでドネルを打っていた。ドネルは、「がはっ!!」っと声をあげると前のめりに倒れた。



「確かに通常ならば、儂がここに出張ってくる事はなかった。お前らが勝手しまくって騒ぎを起こしていると報告が入っても、都市の外ならせいぜい部下を向かわせて終わり。儂の一番の役目は、交易都市リベラルの守備だからな。だが、今回は事情が変わった。それが貴様らにとっての不運だったな」



 ジラク・ドムドラ。まさか、こんなにも強かっただなんて、思ってもみなかった。


 街を出る時に、西門で出会った。最初、リベラルに入る時にも会った。その時の印象では、確かに気難しそうだという以外に強そうだという印象はあったけれど、年齢も重ねているし……こんなにもアクロバティックに動けるご老人だとは思ってもみなかった。


 ふと、テトラとどちらが強いだろうかと考える。通常なら、ジラク・ドムドラ……でも尻尾の力を解放すれば、テトラが勝つかも。


 いずれにせよ、武術などに弱い私には想像して楽しむだけで、どちらが強いかなど的確に判別はできない。


 ギイン、ギイン!!


 ふと気づくと、金属音が鳴り響いていた。振り返ると、そこでは残る敵であるボビーと、ファーレの護衛である槍使いが今も戦っている。ジラク・ドムドラが二人に近づいていく。



「手こずっているな。こいつも『ハイウェイドッグス』の一味か」


「違うわ。この人は、冒険者ボビー。私達は、そこで伸びている『ハイウェイドッグス』のマクマスに騙されて、馬車に乗せられて知らない森に連れていかれた。その後は、お察しの通りよ。賊に囲まれてここへ連れてこられたわ。そこまでの間に、自分は冒険者だと言って現れ、私達の馬車に相席をさせて欲しいと言ってきた男。それがあの男、ボビーよ」


「ボビー……ボビー、ボビー。マクマスは解る。なるほど、あの時の御者だ。やはりな。どうも臭いと思って、それでお嬢さん達に忠告をしたつもりだったが……」



 ジラク・ドムドラとの会話。その私達の目の前では、ボビーと槍使いの一騎打ちが続いている。



「そうね、確かにあなたは、私達に忠告してくれていた。それで直ぐに助けにきてくれたのね」


「それもある。だが状況が変わったと言っただろ」



 状況が変わった。さっきもドネルにそう言っていた。それはいったいどういう事なのか。


 その理由を聞こうとすると、ジラク・ドムドラは、はっと何かを思いだした顔をする。



「どうしたの?」


「そうだ、間違いない。思い出した。あいつ、爪弾きのボビーだ」


「つ、爪弾き!?」


「そうだ、爪弾きだ。お嬢さんらに自分は冒険者だと名乗ったらしいが、あいつは賊だ。冒険者ギルドに登録すらしていない」


「と、盗賊!?」



 そうすると、ボビーは私達を騙して近づいた。そして私達を獲物にするつもりが、たまたま声をかけた馬車が『ハイウェイドックス』の罠で、それに捕まってしまった。つまりミイラ取りがミイラになるみたいな……



「でも、その異名って言うのかしら……爪弾きってちょっと……」


「奴はピンで活動している。それで稀に他の盗賊団に加入したりもしているらしいが、ちょくちょく勝手で予想外の行動をとる男らしい」


「なるほど、それで爪弾きのボビーと呼ばれているのね」


「そうだ。だが、同時に強さでも知られている。それにとても危険な奴で、キレれば何をするか解らない。だからそれもあって爪弾きにされているんだ」



 ジラク・ドムドラは剣を強く握ると、前に出て叫んだ。



「おい、槍使い!! 手に余るようなら、変わってやる!! 交代しろ!!」



 しかし槍使いは、顔をブンブンと左右に振った。



「こいつはアチキの獲物だ!! アチキが倒す!!」


「ハッハッーー!! 本当にこの俺を倒せるつもりでいるのか? その気になれば、俺はお前を殺して、この場から颯爽と逃走できる。だがそれをしないのは、セシリアがいるからだ!! セシリアは誰にも渡さん、俺の女だ!! そう決めたんだ!!」



 誰かにこんなにも愛されるのはとても嬉しい。けれど、愛の形がとても歪んでいる。


 そうこうしていると、ジラク・ドムドラの部下達やファーレ、そしてファーレを守りながらもターバンを巻いた黒づくめの者達が、何十人もこちらに向かって駆けてきた。


 私は早速、ジラク・ドムドラとその部下達の警備団に、この廃村にある倉庫には、何人もの人達が監禁されている事を伝えた。すると直ぐに彼らの半分は、倉庫の方へと駆けて行った。

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