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第769話 『きっと彼女なら』



 ボビーに強引に引っ張られて倒れこんだ私に、盗賊達が近づいてきた。ボビーは、それを許さなかった。両手の金槌を振って、接近する盗賊達を打ち倒していく。肉を叩き、骨を砕いていく。



「セシリアは渡さねえ! 俺の女にする事にしたからなあ!!」


「ふざけた事を言わないでくれる? 私は、あなたの女になんてなる気はないわ」



 ボビーは飛び散った盗賊達の鮮血を浴びながらも笑みを浮かべ、私に金槌の頭の方を向けた。



「それじゃあ、仕方がねえな。永遠に俺のものにするには、これしかないんだよなー」



 私は立ち上がると、盗賊達ではなくボビーに対して身構えた。やはり、この男は危険。するとファーレとハルも、私を助けようとこちらへ戻ってくる。



「セシリア!!」


「セシリア、直ぐ助けに行くから!!」



 ファーレは兎も角、会ったばかりのハルまで私の事を心配して戻ってくるなんて。見捨ててそのまま逃げられるのだから、そうすればいいのに……でもそうしなかった二人の気持ちは嬉しい。けれど本音を言えば、そのまま逃げ切って、直ぐそこまで来ている助けを呼んできて欲しい。


 現実的に言って、ファーレとハルが戻ってきてもドネルやボビーを倒せるかは解らない。それに……



 ギイイン!!


「おい!! ドネルとか言ったな。俺の邪魔をするなよ。これからいい所なんだからよ」


「そりゃこっちのセリフだ。女は俺達のもんだ!! この器量なら、絶対金になる!! てめえなんぞのような、みすぼらしい冒険者には、決して渡さねえ!!」



 衝突。ボビーとドネルが、激しく打ち合い始めた。


 ドネルの太い腕で振り払われる大剣を、ボビーは両手で持つ2本の金槌で同時に受け止めて、そのまま回避する。そして飛び込んで、ドネルの頭部を狙って金槌を連続で振り下ろした。でもドネルは、大剣を盾にして防いだ。


 実力は両者、拮抗している。でもドネルには、マクマスを含める数人の部下がいる分、有利かもしれない。この隙に、こちらに駆けて来る二人に向かって叫んだ。



「私はいいから、二人共さっさと逃げなさい!! 早く逃げて、ここへ警備団を呼んで!!」



 ハルはそれを聞くと、ファーレに何か言った。するとファーレは、私の顔をもう一度見つめると一度だけ頷いて、そのまま警備団が突入してきている方へと走り出した。


 残ったハルは、両手に鎌を持つとそのまま前傾姿勢になって、思い切りこちらに向かって駆けてくる。


 確かに助けを呼びに行くのは、二人でなくてもいい。だからといってハルだけ残っても、私と一緒にここで捕まるか、もしくは最悪の場合殺される。それはハル自身も理解しているはず。なのに、残るだなんて――



「たあああああ!!」



 ボビーとドネルが打ち合う。その後ろからハルが跳びかかって、両手に持つ鎌をボビーとドネル、それぞれに向かって投げた。



 フォンフォンフォン!


「はん! どういうつもりだ、この女!」


「しゃらくせえ!! だがわざわざ自分から捕まりにくるとはな」



 自分に飛んでくる鎌を二人共、つまらないもののように面倒くさそうに払い落とす。でもハルの狙いはそこにあった。一瞬でも気がそれた所をついて、ドネルとボビーの横をすり抜ける。一瞬早く反応したボビーが駆け抜けるハルに向けて金槌を振ったが、ハルは前転して上手に回避するとそのまま私の隣に転がってきた。



「ふう、戻ってきたよ」


「ふう……っじゃないでしょ!! 私はあなたに逃げなさいって言ったわよ!!」



 戻ってきた事に対して、私が歓喜の声をあげるのかと思っていたのか、ハルは物凄く嫌な顔をした。



「ええーー、だって見捨てずに戻ってきたんじゃん!! 普通、こういう時はありがとうっていうよねー!!」


「逆よ!! 良くて連れ去られ、悪くてここで殺される。なのに戻ってくるなんて、どうかしていいるとしか言いようがないわ。合理的に考えても、被害が1で済むならそちらを選ぶでしょ」


「選ばないよ」


「え、選ばない!?」


「そう! 選ばないー。きっと彼女なら、そんな損得だけでものは考えないしね。あたしだって、そこまでは薄情じゃないし」


「彼女? いったい誰の事を言っているのかしら」


「そりゃ、アテ……まあ今はそんな事はいっか」



 ファーレ。いや、違う。ハルの親しい誰かの事。アテ……まさか。



「それにあたしは、セシリアと一緒に生還する為に戻ってきたんだよ」


「それができるの?」


「ファーレは、助けを呼びにいっている。だからもうきっと数分で助けがくるはず。要はその数分耐えきればいいって事でしょ? それなら自信がある」



 ハルはそう言って空手で構えた。それを見たボビーとドネルは、馬鹿にされていると思ったのか、ハルを睨みつけた。


 でもどちらかがハルを殺そうとすれば、その隙をついてもう片方が必殺の一撃を繰り出す。それをボビーもドネルは解っていた。だからドネルは叫んだ。



「マクマス!! その女二人を捕えろ!! もう、警備団が来る!! こっちはもう決着をつけるから、そしたら直ぐ逃げ出せるように女を捕えておけ!!」


「え? あ、ああ!! りょーかい、解った任せろ!! 女を捕まえるぞ、野郎ども!!」



 ボビーとドネルは、変わらず死闘を繰り広げている。そのすぐそばで、マクマスと残った盗賊3人が、私とハルを取り囲んだ。勝ち誇った顔のマクマス。



「さあ、お嬢さん。チェックメイトだ。観念して、大人しく俺達に捕まりな」


「嫌よ、他を探してくれるかしら」


「ケッ、つれないなー」



 マクマスは、唾を吐き捨ていると、他の仲間と共に一斉に私達にかかってきた。私はナイフを構えると、マクマスに向かってブンブンとがむしゃらに振った。それでもマクマスを引き留めるには、十分だった。


 ハルには、マクマス以外の3人が一斉に襲い掛かった。だけど彼女は、転がって避けるとその際に掴んでいた砂を、思い切り盗賊達の目に向かって投げつけた。



「ぶはあっ!! 砂だ!!」


「な、なんて女だ!!」


「へっへーーんだ! これで形勢逆転!! こんな可愛い女の子相手に、大の男が数人がかりなんだから、卑怯なんて言わないよね」



 目をやられてもだえる盗賊達に、ハルは思い切り体当たりを仕掛ける。倒す。そして近くにあった石を手に取ると、ハルは天使のように微笑んで、その石で盗賊達の頭ばかりを狙って振り下ろした。


 辺りに、盗賊達の悲鳴が(こだま)した。

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