第767話 『血祭り』
この廃村に潜伏している盗賊団を討伐する為に、リベラルから警備団が突入してきている。
聞こえる声や伝わってくる騒ぎの大きさから、結構な人数な感じがする。ならきっと警備責任者のジラク・ドムドラもここへ来ているかもしれない。
「まずは、男を殺せ!! かかれええ、お前ら!!」
『うおおおおお!!』
追剥盗賊団『ハイウェイドッグス』の首領が叫ぶと、子分たちが一斉にボビーに襲い掛かった。私は、ファーレとハルに向かって叫んだ。
「いい、敵は一番脅威だと思っているボビーをまず先に倒しにくるわ!! だから私達は前に出ずに、できるだけ後方からボビーの援護をして戦う!! いいわね!!」
「よ、よし! 解った!」
「任せて!」
ハルはボビーの直ぐ後方につくと鎌を握って、彼を援護するべく構えた。私も同様に配置につく。せめてこれでボウガンがあれば、こんな私でも何人か敵を倒す事ができるのに。
ボビーが、襲い掛かってくる盗賊達に対して応戦する。
振ってくる剣を両手に持つ金槌で器用に跳ね上げて、相手の身体に向けて打ち付けた。盗賊は、自分の脇腹に金槌がめり込むと、苦悶に顔を歪めて蹲る。そこを見計らってボビーは、容赦なく金槌を盗賊の頭部目掛けて振り下ろした。
「おらあ!! 終わりだ!!」
「ぎゃあああ!!」
マクマスが後ずさった。
「あ、あいつ……旅をしている単なる冒険者だと思って、ついでに乗せてきたが……あんなに強かったのか……」
「ヒャッハッハ!! さあ、どうする? 俺を殺そうとしているんだ? つまり、俺もお前達を殺してもいいって事だよな!」
ボビーは、笑いながらも盗賊達を圧倒していく。金槌を振り上げては、振り下ろし盗賊達を打ち砕いてその場に転がした。
辺りは、盗賊達の血で染まった。それを見た私達は、驚いた。私達が援護などしなくても、ボビー一人でここにいる盗賊団を皆殺しにできるのではないか。
調子のいい御者を演じていたマクマスに騙されて、マクマスの仲間達のいる場所へ連れていかれて捕らわれた時も、その気になればボビーは、その場にいた盗賊達をマクマスも含めて全滅させられたのではないか。なら、なぜ捕まったのか……?
「ヒャーーハッハッハ!! ほらほら、そんなへっぴり腰じゃ、この俺を倒す事なんてできんぞ! ほら、打ち込んでこいって。でもアレだ、打ち込んでくるって事は、この俺を殺そうとしているって事だからな。って事は、俺もお前らを殺せるって事だ。まさか、人を殺そうとしておいて、自分が殺されるのは嫌だって都合のいい考えをしている訳はねーしな。もしそんな能天気な事を考えていたとしても、ぜってー許さねえからな。まあいいや、ほら、皆かかってこい。どちらにしても、皆殺しにしてやるから」
どちらが悪者か解らなくなる。ボビーは、余裕の笑みで次々と盗賊達を打ち殺していく。一方盗賊達は、ボビーに圧倒され怯んで後ずさりを始めた。
考えてみれば、規模は少し大きい感じはするけれど、この『ハイウェイドッグス』という一丁前の名前を持つ盗賊団は、追剥行為などを全般に犯して生計をたてているような賊集団。
揺るがない強い心を持っている訳でもないし、剣などを構えていてもそこに信念はない。弱い者を見つけては、獲物にしハイエナのように喰い漁る集団。自分達の命が脅かされ、危険を感じれば当然気押されて恐怖に支配される。
「ひ、ひいい!! こ、こいつ、強いし俺達を殺しにかかってきている……」
「た、単なる冒険者じゃないのか? こ、こいつには、人を殺す事にためらいはないのか?」
「お、俺達皆殺されるぞ……」
怯え始める盗賊達。ボビーはそれを見ると、とても不満げな顔をした。
「おいおいおい、待てって! ちょ待てよ。そんなしょうもない事を言うなって。どうせ、俺はお前達を許さないからな。どっちにしても、結局ここで皆死ぬんだ。だから気持ちよく、全員でかかってきて爽快に死ねばいいんだよ。な、俺を楽しませてくれ。じゃないと、わざわざ俺がお前らヘボ集団に捕まりにきた甲斐がないって……」
わざわざ捕まりに来た? 今、ボビーはわざわざ捕まりにきたと言った。それを聞き逃す私ではない。ボビーは、途中で言葉につまり……ゆっくり振り返って私の顔を見た。
…………
微笑みも不愉快さも何もしない、真顔のまま視線をボビーに向ける。それでさっきのボビーの言葉は、しっかりと聞きとったという事を彼に示した。
ファーレとハルは、ボビーの発言に動揺し、私に説明を求める。
「え? わざわざ捕まったって……今、ボビーは言いましたよね? それってもしかしてボビーって実は、リベラルの警備団か何かで、ここの盗賊団を討伐する為に探りに来ていた。そういう事でしょうか」
「うーん、もしくは冒険者って名乗ったんだから、冒険者ギルドで、シンプルにここに潜伏する盗賊団討伐の依頼を請け負ってきたとか」
ファーレもハルも、ボビーの言葉に対する説明が欲しかった。でも直接ボビーには聞かず、私に意見を求める。それはなぜか、私は知っていた。
ファーレもハルも、既にボビーの事を恐れている。盗賊達を容赦なく打ち砕き、返り血にまみれて笑みを浮かべ、まだ血を求めるその姿に、後ずさりする盗賊達と同様に恐れを覚えていた。
ボビーが私に何かしゃべろうとした所で、追剥盗賊団『ハイウェイドッグス』の頭領が、怒鳴った。
「こんな野郎に恐れをなして逃げようとする奴は、俺が許さねえ!! 全員でかかれ!! ここにいる全員でかかれば、問題ねえ、やっちまええええ!!」
頭領の周囲にいるマクマスを含める盗賊達が、ボビーに向かて雄たけびをあげて突撃する。すると更に向こうから十数人の盗賊達が、武器を振り上げてこちらに向かって駆けてきた。
形勢逆転。それを見た、『ハイウェイドッグス』の首領は、ニヤリと笑った。




