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第764話 『テトラのいい代わり』



 殺してしまった男は、私とボビーで今隠れている家の寝室まで運び、ベッドに横たわらせて毛布を掛けた。



「すまねえ、ついうっかり殺してしまった」


「別にいいわ。殺してしまった事については、この男から情報を聞き出せなくなってしまったけれど、また代わりを探せばいい」



 私の発言に、ボビーは驚いた顔を見せる。



「おい」


「なに?」


「殺したのは、俺だけどよ。随分と淡白な性格をしているんだな、あんた」


「そうかしら。あなたが今自分で言ったけれど、この男を殺したのはあなたよ。私が何も落ち込む理由なんて、何処にもないわ」


「……でも俺に命令をしたのは、あんただ」


「私は殺せと命令した覚えはないわ。この男から情報を聞き出すつもりだった事は、告げたつもりよ。それをあなたは殺した。ただそれだけの事よ。もしも次、リベンジを考えてくれているのなら、今度は殺さずに上手にお願い」



 本心だった。盗賊になって人々を苦しめている。金品を奪い、財産を巻き上げる。そして善良な人を捕まえて、脅して言う事を聞かせ檻に閉じ込めて奴隷商に売る。


 そんな輩は死んで当然だし、それ程までの事をするのだから、死を覚悟しているものだと思っていた。


 現に、ローザが負傷し、暫くリーティック村にいた後、傷が完治して村を後にして直ぐに出くわした『爆裂盗賊団(ばくれつとうぞくだん)』。その頭領のダッガン・デッカドーと子分を、ローザは全て斬り殺したけれど、その時に私は特に何も思わなかった。


 あえて言えば……人を傷つける者のとうぜんの末路。ローザは、彼らの事をよく知っているようだったし、彼女に斬り殺される位なのだから、それに見合った罪にまみれている者達である事は明白だった。


 だから、殺すつもりはなかったけれど、ボビーが力余ってこの男を殺してしまった事は、それ程何とも思わなかった。


 どうせ、このアジトの賊を皆やっつけていく事になれば、相手を殺す。それは解っていたから。でも必要以上の死に関しては、僅かでも不快感を感じないと言えば嘘になる。


 ボビーはニタリと笑うと、何を思ったのか私の腰に手を回してきた。抱き寄せる。抗おうとしても、私の力とボビーの力では、比べ物にならない。



「なに? どういうつもり?」


「ほんと見上げた女だ、セシリア。お前、ほんとに肝がすわってやがる。それにとても美人だ。こんな女、なかなか手に入らねえ」


「手に入らない? 何を言っているのかしら。私は物ではないわ。それにこんな時に、どういうつもりなのかしら。直ぐに手を放してもらえる?」


「セシリア、お前……俺の女になれ。どうだ、いい申し出だろ?」


「は? 何がいい申し出なのか解らないのだけれど」


「いいから……どうだ?」



 顔を近づけてきた所で、ボビーの左頬に思い切り平手打ちを入れた。それでも全く怯まないボビー。逆にニヤリと笑い、盛り上がってきているようだった。



「ちょ、ちょっと、やめてくれる?」


「なんでだ? いいじゃねえか、俺達付き合おうぜ。お前はいい女だ」


「やめて!」



 ボビーの手が私の太腿に触れて、這いあがってきた。その時、私は近くにあったものを手に取りそれをボビーの喉元に突き付けた。



「な、なんだそりゃ?」


「なんだそりゃって……ロウソク台よ。嫌だって言っているでしょ、タイプじゃないのよ。今はしょうがなく協力しているだけ。直ぐにその手を引っ込めないと、このロウソク台をあなたの喉元に突き立てるわよ」


「……冗談だろ?」


「あら、本気よ。なんなら、試してみる?」


 …………



 一瞬、静寂に包まれる。でも直ぐに、それを打ち破るように声が聞こえ、誰かが寝室に入ってきた。



「セシリア。ファーレと一緒に家の中、くまなく調べたけど人はいないね。この家は大丈夫……」



 ボビーが、持っていた手斧を投げた。部屋に入ってきたのは、ハル。そのハルの鼻先を手斧はかすめて、その後ろの壁にザコッという音と共に突き刺さった。


 固まって小刻みに震える、ハル。その後ろからファーレ。



「大丈夫ですか、ハル!?」


「は、はにゃにゃにゃ……あ、危ない……もう少しで死ぬところだった。ちょっとちびっちゃったけど、助けてくれてありがとうファーレ」



 半泣きで、そうこたえるハル。見るとハルの腕をファーレが直ぐ後ろから引っ張っていたのだ。危なかった……ファーレがもしもハルの腕を引っ張っていなかったり、そのタイミングが遅れていたらハルは……


 3人の視線が、手斧を投げたボビーに集まる。



「すまねえ、今のは本当にすまねえ!! だって、今のはしょうがないだろ? てっきり盗賊が家の中に入ってきたのかと思って……つい」



 ボビーが言い訳すると、ハルはうんうんと頷いてボビーを許した。だけどなんだか歩き方がおかしい。


 もう少しで死ぬところだったのもあるけれど、さっき……お漏らししたみたいな事を言っていたので、きっとそれでだろうと思った。


  可哀想に……哀れむ目でハルを見つめると、彼女は余計に恥ずかしそうにする。それがまた私の心に火を点ける。



「ボビー、あなた……もう少し、気をつけてくれる?」


「おお、そうだな。すまねえ。でも今のは、ほんと済まなかった。猛烈に反省してるぜ」



 私に関してしたことについては、謝るつもりはないらしい。ファーレが手に持っている物を見せてきた。服。



「タンスを調べたら普通に着れそうな衣服が入っていました。ここは既に廃村ですし、住んでいるのは盗賊達ですからね。とりあえず下着でウロチョロするのも落ち着きませんし、これを着ましょう」


「ええ、そうね。下着もあればいいのだけれど」



 そう言ってハルを見ると、ハルは「もおーーー!」っと言って、ポカポカと軽く叩いてきた。フフフ、テトラとは別行動中だけど、テトラのいい代わりができたわ。そう思ってクスリと笑った。

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