第763話 『予想外』
私、ファーレ、ハル、ボビー。4人で倉庫を出ると早速、人の気配と話声や笑い声などが聞こえてきた。
追剥共がそこらじゅうにいる。正確には解らないけれど、この廃村を根城にしている所と、私達を捕えた時に現れた人数からいっても……もしかしたら100人位はいるかもしれない。
もしもテトラやローザがいれば、100人を相手にする事もできるかもしれないけれど……とてもじゃないけど、私達だけでは難しいかもしれない……
だけど、追剥達は私達が脱走した事にまだ気づいていない。しかも逃げずに、これから攻撃をしかける。なら、それも戦い方次第。テトラやローザに頼らなくても、勝つ事だってできるはず。
声のした方から身を隠すように、4人固まって物陰に隠れる。するとハルが不安そうに言った。
「それで何処へ向かうの? 考えはあるの?」
「もちろん、あるわよ。ところでハル、あなた戦闘は本当に自信がないの?」
「え? あたしは、【シーフ】だから……といっても盗賊じゃなくて、冒険者だからね。鍵を開けたり、罠を見破ったりそういうのが専門かな。対人じゃなくて、ずばり言うとトレージャーハント専門だからね。魔物相手ならそれなりに立ち回れると思うけど……相手が人ってなるとどうかな」
「それじゃ、ボビー。あなたは?」
「俺かい? 俺は自信あるぜ。こう見えて以前、何十人って賊を一人で相手して勝った実績がある。頼りにしてくれていいぜ」
「そう、それじゃ……あそこ、あそこにいる男を倒して、向こうの草陰に引き込んでくれる?」
「え? なんで?」
「いいから。できるのか、できないのか――それだけ教えてくれないかしら。私の相方なら、簡単にできる仕事だけど……ボビー、あなたは荒事には向いてそうだと期待したのだけれど……残念だけど、宛が外れたみたい。そういうのは苦手そうね……仕方ない、他の手を考えてみるわ」
「なんだと!? そんなのは簡単だ!! ちょっとここで待っていろ!!」
ボビーはそう言って一人、物陰から物陰へ移動して私が指した、一人ポツンと煙草を吹かしてたたずんでいる男に近づいて行った。
パンツ一丁のムキムキの男が、こそこそと移動していく様はなんとも滑稽で、私好みで思わず吹き出しそうになってしまったけれど我慢した。
煙草を吹かして、佇む男。腰には剣を吊っていて、その人相から一目で賊と解る。
この盗賊達のアジトは、鬱蒼とした森の中にある廃村を利用した場所で、そう誰かにやすやすと見つからないと安心しているのか、男は目を細めて煙を吐き出し、煙草を楽しんでいる。しかも緩み切っている上に、一人。
ボビーは、その男の直ぐ近くまで近寄ると、背後から勢いよく掴みかかった。男は特に強そうには見えない。体格的にもボビーには、かなわない。これで、男からこのアジトの情報を色々と聞き出せる。私達から盗んだ物は何処にあるのか? 賊達の親玉は何処にいるのか? どんな奴なのか? 賊は全員で何人いるのか?
「だ、誰だああ、おめー!!」
「騒ぐんじゃねーぜ!! 動くな、動くな!!」
「ひいいい!! 裸!! もしかして、倉庫から逃げ出したのか!? た、助けてくれええ!!」
「大人しくしろ!! 暴れると、手加減できねーぞ!!」
ボビーはそう言って、太い腕で男を背後から締め上げた。いいわ、そのまま引きずって後ろの草陰に運び込んでしまえばいい。私とファーレとハルも物陰から飛び出して、ボビーの方へと駆けた。
「うげええ!! ほ、他にも逃げ出した奴がいるのか……お、おーーーい!! み、皆!! 脱走した奴らがここに……」
まずい……向こうから人影!!
「ボビー、後ろの草陰……いえ、こっちのこの家の中にその男を連れ込んで……そこで一旦やり過ごして、その男から情報を……」
「お、おおーーーい!! 誰か!! 倉庫から脱走者だ!! ぐえ……」
ボギイイッ!!
その男の口を塞いで――そう言おうとしたその時だった。ボビーが、捕えている男の身体と共に首を締め上げていたが、そのままへし折った。男は絶命している。
いきなりの出来事に、ファーレとハルは驚いて硬直する。
「ボ、ボビー……」
「だって、こいつは今、大声を出そうとした!! こうしなくては、見つかっていた!!」
確かに声をあげられていたら、見つかっていた。でもこの男は盗賊だと言っても、戦意は失っていた。ファーレもハルも、ボビーをじっと見ている。
「なんだ!! 声がしなかったか?」
さっき見えた人影。こちらに誰か向かって来る。
私は3人に合図して、目の前の家の扉が僅かに開いていたのを確認していたので、そこに入ってやり過ごす事にした。
ボビーが殺した男を指でさす。するとボビーは、その男を背負ってついてくると、家に入って隠れた。もしもこの家に今誰かいれば、もうここからは大乱戦になる。
「どうだ? 誰かいたか?」
「……い、いや。確かさっき、こっちで何か人の声が聞こえたような気がしたんだが……」
「きっと気のせいさ。もうすぐ見回り交代だ。そろそろ戻ろうぜ、それで酒でも飲もう」
「……そうだな」
爪の甘さが、まさに盗賊らしくて助かる。どうやら、やり過ごした。
私はファーレとハルに目配せすると、二人はそれだけで私が何を言いたいのか理解してくれて、動いてくれた。二人が今いる家の中に、他に誰かいないか調べて回る。
その間、私とボビーは、ボビーが殺した男をじっと見つめていた。




