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第76話 『荒野のセレナーデ その1』







 ナジームさんが、最初に向かった場所は、アクセサリーショップだった。



「ナジームさん、ここで何か買うんですか?」


「ん? ああ。ちょっとな……」



 店内に入ると、中では色々なアクセサリーが陳列台に綺麗に並べられて売られていた。キラキラしたものや、黄金に輝いたもの。銀。宝石が散りばめられたものや、何かの魔法が付与されたものもあった。


 私は、目を輝かせた。こんな綺麗なものを見たことがない。私の村には、ジャガイモとか木の実とか麦とか、そういうのは、いっぱいあったけど…………こういった高価な装飾品などはなかったから…………


 そんな事をぐるぐると考えていたら、そういう装飾品……アクセサリーを私もかつて一度だけ見たことがある事を思い出した。


 ――――そういえば、お母さんが銀の指輪をつけていた。



「…………お母さん」



 私のお母さんは、凄く優しくとても綺麗だった。


 ………………


 そんなことを思い出して、店でいくつも並んでいるアクセサリーの中から、お母さんが身に付けていたものにそっくりな、銀の指輪を手に取った。お母さんが、身に付けていた物と似ている。それは、とても綺麗だと思った。



「こりゃっ! 獣人の小娘! 商品を触っちゃいかん!! すぐもとの場所へ戻せい!!」



 振り返ると、凄い剣幕で店主が私を睨みつけていた。私は、慌てて商品をもとの場所へ戻し、謝った。



「っひ!! す……すいません!! すぐもとの場所へ戻します!!」



 凄く怒っている。…………私も一応、お金を持ってるし、お客さんなんだけどなあ。そう思っていると、さっきの店主がまた騒ぎ出した。



「こりゃあ!! こりゃりゃ!!」



 ワンワンッ!



「こりゃーーー!! 誰じゃ、店にこんな魔物を連れ込んだのは!! 追い出してくれるわい!!」



 ガルウウウウウウ………



 カルビが荒れる。



「だめ! やめて、カルビ! お店の人に呻っちゃダメでしょ。お願いだから、大人しくして!」


「小娘の飼っているウルフか!! このやっろ! 勝手にワシの店にこんなウルフを連れ込んでからにー!! こりゃーもう、叩き出してやるわい!!」



 店主は、そう言うと店の奥から棍棒を持って戻って来た。今にもカルビを殴り倒しそうな勢いだ。



「魔物め! ぶっ叩いて、追い払ってやる!」



 ウルフに向かって棍棒を振り上げる。私は、びっくりして咄嗟に、カルビを守る。カルビに覆いかぶさって叫んだ。



「やめてーー!! 酷い事をしないでーー!! この子は、私の大切な仲間なの!!」



 ――――無情にも棍棒が振り下ろされる。刹那、ナジームさんが店主の振り上げた棍棒を、掴んで止めた。



「こりゃ!! 誰ぞ!! ワシの一撃を止める不届きな輩は!!」


「すまない。俺の連れだ。やめてくれ。そのウルフも魔物ではない。使い魔だ。傷つけられると困る。…………それより、向こうにある商品を見たいんだが」



 ナジームの言葉に店主は、キョトンとする。



「へ? お客様で? へえ、へえ、先にそれを言ってくださいよ! 旦那! お嬢ちゃんも、自由に商品を見てくれてかまわないからねー。欲しいものがあったら、遠慮なく声かけてくれい」



 ナジームさんがお客さんだと解ると、店主は豹変した。冷やかしか、泥棒とでも思っていたのだろうか。私は、その店主の光景に口を閉じるのを少しの間、忘れていた。



 ワンワンッ!



「あの、カルビ……この子なんですけど、店内ではちゃんと私が抱いてますから」


「あーあー、いいよ、いいよ。こりゃーー可愛いワンちゃんだね。へっへっへ」



 ガルウウウウウ……



 カルビは、牙を剥きだして店主にキレた。



「こら、ダメでしょ。カルビ!」



 ナジームさんが、展示されている商品の中から、ネックレスを選んで指した。



「それで、これなんだが……」


「へえ、へえ。こちらの商品ですね。大金貨3枚になりますですよ。へっへっへ。もしかして、こちらをお求めで?」



 だだだだ大金貨3枚!! 驚いて、私の耳と尻尾は、まるで上から引っ張りあげられたかのようになった。大金貨3枚って大金だよ。



「ふーむ。このネックレスだが、真ん中にあしらっている宝石は、もしかしてルビーか?」


「へえ。その通りです。旦那は本当にお目が高い! 因みに左右にある小さな宝石も本物のルビーを使用しておりまして、あとこちらのネックレスを身に付けますと、効果は小さいですが、精霊の加護が得られますぜ。へっへっへ」


「ふむ。よし、これをもらおう!」


「ヒャッヒャー!! お買い上げーー!! こりゃどうも! ありゃーがとございます!!」



 ――――買っちゃった。ナジームさんが大金貨3枚も払って、綺麗なネックレスを買っちゃった。もしかして、ナジームさんはこれを買う為に、お金が必要だったのかもしれない。私はその事に気づいた。



「それで、贈り物ですかね? 贈り物でしたら、それ用にラッピング致しますが? 銀貨1枚です。へっへっへ」



 えええ!! 綺麗な紙に包むだけで、銀貨1枚⁉



「頼む」


「ええええ!!」



 私は、驚いて大声をあげてしまった。ナジームさんと店主の顔を交互に見る。ナジームさんが、私のリアクションに気づいたので、気になっていた事を尋ねてみた。



「ナジームさん……そのネックレスは、ひょっとして誰かに…………贈り物ですか?」


「ああ。まあ、そんな感じだ」



 ナジームさんは、照れた様子で答えた。更にその次の質問をしてみたかったが、ナジームさんは恥ずかしいのか私を振り切るように、すぐに何処かへ向かって歩き出した。


 もももも……もしかして!!


 今買った、ネックレスを誰かにプレゼントするつもりじゃ!!



「まってくださーーい!!」



 ワンワンワンッ



 ――――きっとそうに違いない。


 自分の胸を触ると、ちょっとドキドキしている。


 私は、まるでそれが自分の事のように胸をときめかせた。そして、慌ててカルビと一緒にナジームさんのあとを追いかけた。

 








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アクセサリーショップのこりゃこりゃおじさん 種別:ヒューム

オロゴ村にあるアクセサリーショップの店主。金を持っていない感じのお客さんには、敵意に近いものを見せるが、この周辺には盗賊やコソ泥も出没したりするので、気が立っている。特にアクセサリーは宝石や魔石が施されているものが多く、金や銀など価値のある金属も使用されていたりするので、盗まれる対象にもなる。だから、常に目を光らせているのだ。でも、もちろんお客様であれば、揉み手でご対応致します。


〇オロゴ村アクセサリーショップ 種別:ロケーション

ガンロック王国は、何処までも延々と荒野が広がっている為、街は当然だが村にも旅人たちが食糧や水、魔物に備えて装備品などを買い込む者が多い。なので、ガンロック王国内の村は、何処もさ様々なお店があって便利。しかし、物価は高めかも。ルキアは、こういうお店に入った事が無いので、物凄く興味津々なのだ。


〇銀の指輪 種別:アクセサリー

オロゴの村のアクセサリーショップにも置いてあるが、ルキアの母も身に着けていた。銀は価値があるだけではなく、魔除けの効果があったりするので指輪など装備品としては親しまれている。もちろん、結婚指輪など親しい者に贈るプレゼントとしても、ポピュラーなアイテム。


〇ルビーのネックレス 種別:アクセサリー

ルビーが施されているネックレス。宝石は、魔力を帯びているものが多く、このルビーも例外ではない。価値があり、その美しい色や輝きは見る物を魅了する。ナジームは、このネックレスを誰か大事な人に贈るようだ。


〇棍棒 種別:武器

こりゃこりゃおじさんのメイン武器。犬の天敵と言えば、棍棒。犬も歩けば棒に当たる、ヘラクレスの持つ棍棒。こりゃこりゃおじさんがこの棍棒を振るえば、ちっさめのスライムだって一撃で致命打を与える事ができる。こりゃーーー!!





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