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第759話 『追剥 その3』



 ――――追剥盗賊団『ハイウェイドッグス』のアジト。


 廃村を利用した賊達の住処で、そこに私達は捕らわれている。


 どうやら盗賊達の目的は、私達の身ぐるみを剥いでお金にするだけではなくて、私とファーレも何処かへ売り飛ばすつもりらしい。


 ルーニ様がドルガンド帝国のたくらみで、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』やシャノンによって誘拐されて、私とテトラの旅が始まった。


 そしてルーニ様を無事に見つけ出して、救いだす事ができた。


 その時に、カルミア村のリアや他にも沢山の幼い子供達が、トゥターン砦で繋がれていて奴隷として売り飛ばされようとしているのを目撃した。カルミア村近くの、『闇夜の群狼』のアジトでも同じ。


 バンパという幹部が仕切っていて、組織内で奴隷売買を担当していたそうだけれど、テトラやバーンさんの活躍によって捕らえられて、今はクラインベルト城の地下牢に投獄されている。


 あれから、テトラは大きく変わった。対して私は、そんな子供達がいる事を知ったとしても、可哀想とは思っていても何をする事も思わなかった。行動しようと、思わなかった。


 でも、私もそんなテトラに影響を受けて変わった。


 フフフ、いえ、違うわね。私はただ単に、テトラにちょっかいを出して困らせて、その可愛らしいリアクションを見たいだけ。だから私本来の大切な王宮メイドの役目があるにもかかわらず、お暇を頂いてテトラに同行しているだけね。


 でもそれにしても……今度は私がその人身売買の商品として捕らわれるなんて、人生何があるか解らないと思うわ。フフフ。


 まあ、このままここに捕らわれておくつもりもないし、どうにもできなかったとしても、直にファーレの護衛がここへ助けにきてくれるでしょうね。



「セシリア、ここから脱出しないといけません」


「そうね、ただここで助けを待つとしても、無様に両手足も縛られたまま、こんな埃っぽい所で転がされているのも我慢ならないし」


「確かにそうですね……」


「それで、ファーレは何かいい方法を思いついたのかしら? 何か魔法が使えるようだけれど、それでこの手や足を縛っている縄を解いてもらえると助かるわ」


「は、はい。一応その努力はしているつもりなんですが……」



 ファーレはそう言って、自分の首を見せた。首輪……だけど、単なる首輪でない事は理解できる。きっと魔法を発動させないための、魔法封じの首輪。


 捕らえられた時に、ファーレが魔法を使える事を見られてしまったから、これは仕方のないこと。


 用心して同じものが私の首にも装着させられているけれど、私は魔法を使う事ができないから無意味。


 ……あっ。


 そう言えば、買ったばかりのボウガン二挺の他に、魔法の使えない私でも、魔法を使用する事ができるスクロール。その全てを賊に奪い取られてしまった。


 スクロールに関しては、とても高価なものだし、何処でも売っているものでもない。そしてこれからこの国を救う為にも、その後旅を続ける事になったとしても絶対必要なもの。


 売り払うつもりなら、使用はされていないはず。なら取り返せばいいだけだけれど……あの頭の悪そうな賊の顔を思い浮かべると、スクロールの価値なんて考えずに馬鹿みたいに使ってしまっているかもしれない。


 もしも今使用されていたらと考えると……やはり、悠長にこのまま助けを待ってはいられない。



「ううううーー!! むぐぐぐ!!」


「ど、どうしたのですか、セシリア!! いきなり縄に噛みついて!!」


「ううううーー!! 幸い、さるぐつわは、されてはいないわ。だから縄を歯で噛み千切るのよ。両手が自由になれば、後はこっちのものよ」


「で、でも……っぷ!!」



 またファーレに笑われた。

 

 そう、ファーレもそうなのだけれど、私達は檻の中で転がされ、両手を後ろ手にきつく縛られている。


 当然だけど、とても両手を縛っている縄がある腰の辺りまで首は届かないし、伸びもしない。それでも藻掻いている私を見て、ファーレは吹き出したのだ。


 滑稽に思われるかもしれないけれど、それほどスクロールは貴重なもの!! じっとはしていられない。無駄だと解っていても、できる事をしながら良策を考える。芋虫みたいになって、のたうち回ってもかまわない。


 だけど少し冷静になると、ボビーが捕らわれている檻の方からも、激しい音がする事に気づく。彼はずっと藻掻いていて、どうにかしようとしている。芋虫のように這いずって、のたうち回って……


 ボビーのそういう悲しい姿を思い浮かべると、それと同レベルかもしれないと少し恥ずかしくも思って少し思い止まった。


 本来ならこういう役柄はテトラの役で、私はそれをあざ笑うかのように見下ろして眺め、動けなくてどうしようもなく芋虫のようになっているテトラに、チャンスとばかりにお仕置きをして楽しむ側なのに……


 益々追剥達が許せない。


 それからも脱出を試みてみたけれど、5分もせずに私は力尽きて動けなくなってしまった。


 そもそも大した体力もない私が、こんなあられもない状態で、藻掻いていられるのなんてせいぜい1分か数十秒。これでもテトラと旅を始めて、いくらか体力がついた。だけど、もう無理、動けない。


 ぜえぜえと激しい息を吐いて、全く動けなくなってしまった私を、ファーレは哀れな顔で見つめている。フフフ、笑いたければ笑えばいいわ。私にはひょっとすると人を笑わせる才能があるみたいだから、もしもこの先に王宮メイドの仕事をクビになるような事があれば、次はコメディアンにでもなろうかしら。


 このまま暫く、他に縄を切る方法がないか手を考えて、また暫くして回復したら脱出の為の再トライをする。そう決めた所で、思いもよらない事が起きた。


 ギイイイッ


 ファーレとは、反対側の檻の扉がいきなり開いた。唐突な出来事。そう言えば薄暗くて辺り全てを見えないけれど、他の人の声や咳払い、物音など先程からしていた。


 つまり、私達と同じく追剥盗賊団に捕らえられた人達が、ここには捕らわれている。その中の誰かが、どうやったのか、今私達の目の前で檻から脱出して出てきたのだ。

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