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第757話 『追剥 その1』



 交易都市リベラルで、私達に話しかけてきた男――あれほど調子の良い感じだったのに、今はとても凶悪な顔をしている。


 突然現れた、仲間と思われるガラの悪い連中も同じ。同じ顔をしていて、手には短剣やら手斧やらの武器。


 私は特に恐怖する訳でもなく、毅然とした態度で御者に言った。



「あら、てっきり親切な御者だと思っていたら、追剥だったようね」


「へっへっへ。そういうこった! 察しが早くて助かるわ。でも、普通ここに連れてこられるお嬢さんは、皆泣き叫んで命乞いをするもんなんだがなー。なんとも肝がすわってやがる」



 ファーレと共に、後ろに立っているボビーに目をやる。すると彼は慌てて両手を突き出して、顔を横に忙しく振った。否定。



「待――て待て待て!! 俺は違うぜ!! 俺は違う、こいつら追剥集団の仲間じゃないぜ!!」


「あら、そう。なら良かった」



 多分、本当。ボビーがこの追剥達と仲間だったとして、今この状況で嘘をつく必要がない。むしろ、正体を現すはず。だけど油断はできない。この国は今、賊達で溢れかえる混乱状態のメルクト共和国なのだから。


 ――悪人共の、ディストピア。


 先程まで、私達の乗る馬車の御者だった男が前に進み出る。手に持つ短剣をちらつかせ、私達の方へ近づいてきたので、既に矢を装填済みのボウガンを男に向けた。



「よせよせ、こうなってしまったら、諦めた方が身のためだぜ」


「あら、それはどうかしら? この距離なら、確実にあなたの心臓を射貫けると思うのだけれど」



 私の言葉を聞いて、ピューーっと口笛を吹く男。すると、周りの仲間達も声をあげて笑った。



「お嬢さん、言うねー。本当に肝がすわってる。お嬢さんのそのボウガンの腕前は、俺は知らねえけどな。でもよ、もしも腕前が確かなもので、俺の心臓を見事に射貫いたとしよう。そしたらそのあと、どうなると思う? 周りをよく見てみろ?」



 周囲に目をやると、私とファーレ、そしてボビーを取り囲む追剥達の数は、30人以上に増えていた。つまり、男が言いたい事。私が男を殺せば、男の仲間が一斉に私達全員に襲い掛かるという事。


 今、この場にテトラやローザがいれば、問題なく応戦できるけれど……ファーレに目をやる。すると彼女は、護身用のナイフを取り出して構えた。よく見ると、少し震えている。やっぱり、戦闘能力においてファーレを当てにする事はできない。



「へっへっへ。やっと解ったかい、お嬢さん。それじゃ、早速その手に持っている物騒なものを投げ捨てて降参しろ。大人しく従えば、なにも命までは奪わないぜ。それは約束しよう。俺達の目的は金品だからな」



 そう言って、やらしい目つきで私とファーレを舐めるように見る御者。



「……いや、慰み者にもなってもらおうか。どうせ、女は売っちまうし……これだけの器量の女、なかなかお目にかかれねえしな。へっへっへ」



 それにしても、まさかリベラルを出る辺りからもう目をつけられていただなんて……見抜けなかったのは、迂闊だったのかもしれない。


 如何にも高級そうなドレスを身に着けている私達の姿は、こういう輩からすれば絶好の獲物だった。しかも護衛もいないのなら、尚更。



「セシリア……私はこんな盗賊達に身をゆだねるつもりはありません」


「解っているわ。でも、私達には大義があるわ。それにあなたに何かあったら、お姉さんのシェルミーやロドリゲスや、他の皆も悲しませるんじゃないのかしら」


「……でも、意を決して捨て身で戦えば、逃げ延びられるかもしれない」



 ファーレの考えは、あまいと思った。そう簡単には、いかない。


 ここに私達……交易都市で獲物を見つけて、ここへ連れてくる事は当初から決まっていた事。つまり、この周辺を、この賊達は縄張りにしているとみて間違いがない。なら、たとえここでどさくさに紛れて逃げたとしても、この人数を相手にすれば簡単にとらえられてしまう。


 私はファーレに、ここは任せて欲しいとサインを送った。



「一つ、聞きたい事があるのだけれど」


「おう、なんだ? お前達のことならもうどうするか決まっているぞ。まずその高価そうなドレスやアクセサリーは、全部この場で俺達に渡してもらう。だが可哀想だから、下着位は残してやる。俺達は紳士だからなー!」


『ギャハハハハ!!』


「おい、どの口が言ってんだー? ヒャッハッハ」



 笑い転げる賊達。俺は、紳士だからなーの所は、私達に向けてじゃなくて周囲にいる仲間達に向かって言っていた。それがまた無性に腹が立って、思わずボウガンの引き金を引いてしまいそうになった。



「まあ、そういうこった? 質問っていうのは、自分達がこれからどうなるかって聞きたいんだろ? だいたい皆、そう言うから解ってるぜ。お決まりのパターンってやつだ。まあ、細かな事は一度、お前達をここから俺達のアジトに連れていってから決める」


「そうじゃないわ」


「ああ?」


「私の質問は、あなた達が何者かって事」


「そりゃ見て解るだろーがよ。優しい優しい紳士的な追剥集団よ」



 男の下らないジョークに、仲間達がまた笑い声をあげる。本当に、さっきまで御者をしていた男とは思えない。また思わず引き金を引きそうになった。



「これじゃ、いつまでたっても私の知りたい事に辿り着けそうにないから、単刀直入に聞くわ。あなた達が追剥集団という事は十分に理解したけれど、それでもこの位の規模の集団って事はチームって事よね」


「何がいいたいんだ?」


「あなた達は、巨大犯罪組織『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の一団なのかしら?」



 『闇夜の群狼』。そう耳にした賊達は、静まり返る。そして御者だったヘラヘラした男は、急に私を睨みつけた。



「その答えは、ノーだ! 俺様はマクマス。盗賊団『ハイウェイドッグス』のマクマスだ!」

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