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第752話 『リベラル西門にて その3』



 ジラク・ドムドラは、窓に顔を近づけると、指をクイクイっと動かして自分の方へ顔をよせるようにといった動作をした。


 ファーレは、完全に怖がっていたので、私だけが彼に近づく。



「今一度確認するが、お前達のメルクトを救いたいという気持ちに間違いはないか?」


「ええ、ないわ。少なくとも私は、その為にこの国へやってきたのよ」


「そうか、それなら西門は通してやろう。ついでに戻ってきた時も、お前達二人に関しては、すんなりとこの門を通過できるように手配しておいてやる。他の仲間は、まだこの都市にいるのだろ。門を通る時にまた手間取るような事があれば、儂の名前を出せ。儂の名は、リベラル防衛責任者のジラク・ドムドラだ」


「ありがとうドムドラさん、助かるわ。それじゃ、もう行っていいかしら。私達がヘレントさんに会いに行くという話も、本当の事よ」


「ああ、もう行っていい。だが一つだけ。最後にもう一つだけお前達……いや、お前に言っておきたいことがある」


「なにかしら?」


「セシリア・ベルベットという名は本名か?」


「そうよ、それも嘘はついていない」


「ならば、伯爵令嬢の方が嘘っぱちか。まあ初めて見た時は、出来の良さそうなメイドにしか見えなかったがな」


「褒め言葉として、受け取っておくわ。それでなにかしら」


「お前達をヘレントさんの果樹園まで連れて行ってくれる……あそこで馬鹿面(ばかづら)して、こっちを見ている御者だがな、お前達の知り合いか?」



 ファーレと顔を合わせると、彼女は顔を左右に振った。だから私もジラク・ドムドラの方を向いて、同じように知らないと首を振った。



「そうか、それだけ確認したかった」


「……それが何か問題でも?」


「いや、別に。ただメルクト共和国は、今は賊で溢れて治安も最悪だ。首都グーリエに至っても、もう盗賊達の住処と化してしまっているらしい。だがこの儂が目を光らせている交易都市リベラルは、それでもなんぼかはマシだ」


「私達は急いでいるのだけれど……何がいいたいのか、はっきりと言って頂けないかしら」



 今日は果樹園にデューティー・ヘレントは、いるらしい。だけどそこに、ずっといるとも限らない。少しでも早くそこへ行動したかった私は、急がせるようにジラク・ドムドラに言った。すると彼には、それが十分に伝わったのか、苦笑いをされた。


 彼は頭を何度か下げて、納得したという素振りを見せると馬車からゆっくりと離れて一言。



「儂が言っておきたい事は、せいぜい気をつけろって事だ。メルクトもリベラルも、治安は最悪。油断は決してするな。リベラルですら治安は悪い。だから外はもっと……まあ、気を付けろ」


「フフフ、意外と厳しいようで優しい性格をしているのね、ドムドラ隊長。ご忠告、ありがとう。でも私達はクラインベルトから、いくつかの村を経由してここまで来たわ。その間に盗賊とも遭遇したり、交戦にもなりながらリベラルまでやってきたのよ。でもあなたの言ってくれた事は、しっかりと肝に銘じておくわ」



 頷くジラク・ドムドラ。それを見た御者が、再び私達のもとに戻ってきて慌てて馬車に飛び乗った。



「ひええええ、怖えええ!! あんたらドムドラさんと知り合いだったのか!?」


「いいえ、この街に入る時に見かけただけで、その時にお互いに記憶に残っていただけよ。あと外は危険だから、気をつけなさいって」


「なるほど……あの人、すげー怖いからな。でもお嬢さん方のようなお綺麗どころには、やっぱり優しかったりするんだな」



 ジラク・ドムドラは、気をつけろと言っていた。あと、もう一つ気になる事も……



「それじゃ、いよいよ西門から外へ出ますぜ。こう見えて俺も、少しは腕に覚えがあるんでね。ウルフやスライム程度の魔物なら、俺一人でケチョンケチョンにしてやりますから、安心して乗っていてくださいよ」


「あら、ありがとう。それじゃゆっくりさせてもらおうかしら。ね、ファーレ」


「え? あ、はい、そうですね」



 ファーレもジラク・ドムドラの事が気になっている。とても鋭い眼光をしていて、一癖も二癖もあるような守備隊長だった。


 でもジラク・ドムドラは、メルクト共和国やリベラルが平和になる事を望んでいるような感じがした。見た目は極悪人のように見えても、内面はいい人なのかもしれない。


 フフフ、だけど完全に気を許してはいけない。身内以外は疑ってかからないと。そうじゃないと、またアーサー・ポートインの時のように、いきなり後ろからドスンとやられる可能性だってある。


 馬車が動き出し、西門を通過する。そしていよいよ十三商人の一人、フルーツディーラーのデューティー・ヘレントのいる果樹園へ向けて走り出した。


 大きく馬車が揺れる。馬車がぼろいのか、悪路なのかは解らない。ファーレが言った。



「随分と馬車が揺れますね」


「そうね、でもこれで果樹園まで連れていってくれるならありがたいものだわ」


「果樹園までは、馬車で約1時間でしたっけ?」


「確か、そういう風に言っていたわね」



 ファーレとのそんな会話。それが御者にも聞こえたのか、口を挟んできた。



「1時間って思っているなら、1時間半か2時間を予定していてくださいよ」


「え? それはなぜかしら?」


「さっき西門の所にいた同業者から聞いたんですがね、果樹園までのルートの途中に、どうも魔物が出没したみたいでね。ちょいとルートを変えて、果樹園まで向かおうかなって」


「魔物?」


「へえ。確かトロルって言ってたかな」



 トロルとは、巨躯の人型の魔物で凶暴。しかも持ち前の怪力に加え、回復力に特化している。テトラやローザがいれば、それ程恐れる相手ではないけれど……



「まあ、そんな訳でちょいと少し遠回りしますね。できる事なら危険は避けた方がいいでしょう。でももしもお嬢さん方なら、トロルの群れをやっちまえるって言うのでしたら……」


「無理に決まっているでしょ。自分で言うのもアレだけど、私達は絵に描いたような箱入り娘なのだから。あなたの思う安全なルートでお願いできるかしら」


「あいよ。それじゃ、もうちょっと進んだ所で道が別れてるんで、安全な方へ行かせてもらいやすよ」



 トロルの群れ。確かにメルクト共和国でなくても別に珍しくもない事。だけど冒険者でもないのに、対処できるかと聞かれるとまた別の話になる。


 私達は御者に、果樹園までのルートを任せる事にした。

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