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第751話 『リベラル西門にて その2』



 私達の乗る馬車、御者の男がこちらに気づいて駆けてきた。



「旦那、俺の馬車に何か問題でもありやしたかね?」


「お前の馬車、それと客か?」



 頭を下げる男。するとジラク・ドムドラは、男に向こうに行っていろと手で払う仕草を見せた。男は訳を聞こうとするが、ジラク・ドムドラの眉間に皺が入ると、男は慌てて苦笑いで馬車から離れた。



「降りて、話をしましょうか?」


「いらん。それよりも何点か聞きたい事がある」


「そうすれば、ここを通してもらえるのかしら」



 小さく頷く、ジラク・ドムドラ。



「いいわ、プライベートな質問については答えかねるかもしれないけれど、この街の治安維持の協力と思ってできるだけこたえるわ」


「それなら、まずは単刀直入に聞く。お前達は何処からやってきた? クラインベルト王国とか言っていたが?」


「私はセシリア・ベルベット。ベルベット家の者よ。こう見えて伯爵令嬢なのだけれど」


「こっちの娘も、もしかして伯爵令嬢か何かか?」



 ファーレは、頷く。それを見たジラク・ドムドラはニヤリと不敵に笑った。



「なるほど。今日日の伯爵令嬢は、メイド服なども着ておるのだな」


 !!!!



 この言葉には流石に驚いた。もしかして……っと言うか、もうそれしかない。私達がこの街に入る時に、出入口門であった盗賊達と警備兵の騒動。あの時、あの場所には私やテトラ達、それにファーレはいなかったけれどシェルミーがいて、騒動を収める為にジラク・ドムドラも現れた。


 つまりあの時に、ジラク・ドムドラは私達の姿を捉えて記憶していたという事。あの場所には何百人って人がいた。だけど考えてみれば、私やテトラの着ていたメイド服は、他の者の目を引いていたのかもしれない。


 どちらにしても、ジラク・ドムドラは私の事を覚えていた。それで不審に思って声をかけてきた。



「どうだ、伯爵令嬢というのは、メイド服を着たりもするものなのか、なあ? しかもあのメイド服は、クラインベルト王国のメイド服だ」


「それをなぜ、あなたが知っているの?」


「それはこの街に今、クラインベルト王国の要人がいらしているからだよ。お前と一緒にいた娘が着ていたメイド服、それをその要人と一緒にいたメイドも着ていた」



 クラインベルト王国の要人!? それはおかしい。


 メルクト共和国を救うと決めた旅の始まり。それは、メルクト共和国を中心に活動しているという冒険者メイベル・ストーリとディストル・トゥイオーネが、コルネウス執政官からの頼みでメルクトを救うべく私達のいるクラインベルト王国へ助けを求めにやってきた所からだった。


 その時にメイベルとディストルは、私達がその時にいたエスカルテの街にやってきた。他にも、リオリヨンの街でミリス達に助力の依頼を求め、王都にも出向いてセシル陛下にも救援を求めている。


 それで、国王陛下直轄の『青い薔薇の騎士団』の団長ローザが、私達と共にメルクトへ行くことになった。


 だから陛下は今、メルクト共和国が巨大犯罪組織『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』によってどれ程酷い事になっていて、それに乗じた賊達の略奪などが多発していて、混乱が渦巻き無法地帯になっているかご存じのはず。


 それなのに、クラインベルト王国の要人がここにいらっしゃっているなんて……考えがつかない。



「そう、でも急にそんな事を言われても納得できないわね。そのクラインベルト王国の要人というのは、誰なのかしら。それが本当なら、答えられるはずでしょ? いったい誰なの?」



 ジラク・ドムドラにそう言うと、彼はまた不敵にニヤリと笑う。



「それは答えられない」


「なぜ? 本当の事なら答えられると思うのだけれど」


「儂がわざわざお前たちのような怪しい娘達に、今この都市にいらっしゃっている要人の名前を口にできると思うか?」


「私達が怪しい? それは随分と心外ね」


「心外なものか。出入口門でお前の姿は目立っていた。少なくとも儂にはな。それから不審に思い、少しつけさせてもらった。するとどうだ、お前と一緒にいた奴らは姿を変えた。お前と一緒にいた狐の獣人の娘は、メイド服から踊り子の格好になっていたぞ。その後、お前達はかなり怪しげな場所へと足を踏み入れて行ったな。情報屋リッカーのアジトへだ」


「…………」



 確かに、つけられていた。ジラク・ドムドラが自ら私達の後をつけてきていたわけではないかもしれないけれど、後をつけて調べる事に特化した部下を使った事は間違いがない。



「それで……どうするの? この場で拘束して尋問でもするつもりかしら?」


「…………尋問ではなく、拷問だ。そうして欲しければそうするが……その前にもう一つ、真実を答えろ。嘘をつけば、この場でお前達二人を拘束し、拷問にかける事になる。その結果……」


「言わなくていいわ、解るから。それでその質問はなにかしら?」


「何度も聞いている事だ。お前達は、この街に何をしにきた? 簡潔に答えてくれればそれでいい。それでこの場は納得してやろう。その代わり、真実を話せ。嘘をつけば終わりだ」



 ジラク・ドムドラの目は更に鋭いものになっていた。ファーレは、明らかに動揺をしている。


 私は真っすぐにジラク・ドムドラの目を見つめると簡潔に真実を言った。



「私達は、このメルクト共和国を救う為にやってきたわ」


「それは、一緒にいる者達もか?」


「そうよ」



 短く答える。だけどジラク・ドムドラが言ったように、これが私達のこの国にいる目的。ジラク・ドムドラは、私達の乗っている馬車に更に近づくと窓に手をかけた。


 私はそれを見て、武器屋で購入したばかりの『ワスプショット』へ手を伸ばした。

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