第75話 『ルキアとナジーム』 (▼ルキアpart)
――――ガンロック王国。オロゴ村。
私達は、ナジームさんに助けてもらったお礼に、ナジームさんのお手伝いをさせてもらった。その内容は、この国に生息するクルックピーという、とても足が早くて愛くるしい大きな鳥を捕獲すること。
捕獲できた鳥は、全部で11匹。ナジームさん曰く、大漁だそうだ。1匹目を捕獲後は、私もナジームさんもアテナ達と一緒に協力して捕獲しに加わったけど、アテナとルシエルは終始働いていたのでかなり疲労している様子だった。私にもっと力があれば、もっとお手伝いできたのに。
それから私達は、その鳥――クルックピーを高く買い取ってくれるという商人がいるオロゴという村にやってきている。
私達の次の目的地は、カッサスという街。アテナの愛読書『キャンプを楽しむ冒険者』という本の著者、リンド・バーロックがこのガンロック王国を旅していた時に、立ち寄った街。そこには、クルックピーのレース場があるらしく、ルシエルは凄く楽しみにしている。私もあの可愛い鳥が競って走るレースがあるというのなら凄く見てみたい。
ナジームさんのお手伝いも無事終えたので、早速カッサスの街へ向かっても良かったみたいだけど、オロゴの村から更に東に進まなければならないという事で、水や食糧の補給も兼ねて立ち寄る事になった。
「お待たせしたな! 高く買い取ってくれるとは、聞いていたが……思いのほか高値で買い取ってくれたよ。これ、少ないが受け取ってくれ」
ナジームさんは、本当にクルックピーを高く売る事ができたみたいで、上機嫌だった。ナジームさんは、お金が入っている袋をルシエルに手渡した。
「ええ! いいのか?」
「こらこら! いかんでしょ! ルシエル! ……ナジーム、クルックピーの捕獲は助けてもらったお礼なので、私達はこのお金は受け取らないから……」
「えーーーー!! けちーー、けちーー」
アテナの発言に、ルシエルの口が数字の3みたいになっちゃってる。折角綺麗な顔をしているのに、なんでいつもあんな風にするんだろう。
ナジームさんにお金を入った袋を返すと、ナジームは今度はアテナの手を掴んで、その掌にお金の入った袋を置いた。
「え⁉ ちょ……ナジーム? だから私達、お金は……」
「いいんだよ。これは、俺からの気持ちだ。3人で仲良く分けなさい。もう、この話はこれでおしまい」
「えええーーーどうしよう」
「いいじゃないか、アテナ! オレ、実はちょっと欲しいものがあってな……それで、そのお小遣い的なものをだなー」
アテナは、どうしようか困っている。ルシエルは、もうお金をもらう気だ。まったくもう、ルシエルったら。
「俺は、まだこの村にいるが……アテナ達は、カッサスに行くのか?」
「うーーーん。そうね、また途中で力尽きたくないから、食糧と水……あと何か必要な物がないかどうか、確認してからかな。それに、お店もあるみたいだし、ちょっと見て回るのもありだよね。ねーー、ルキア」
「はい。私もお店を見てみたいです」
「そうか。じゃあ、ここでお別れだな。ああ、そうそう。この村には、クルックピーのレンタルがある」
!!!!
「ええーー!! クルックピーのレンタルだとおお⁉」
クルックピーのレンタルがあると聞いて、皆驚いた。特に、ルシエルが驚いていた。ナジームさんは、続けてその事について話してくれた。
「村の中を適当に歩いて探せば、何処かにクルックピーのレンタルショップがあるはずだ。レンタルする時に、店員に確認することができるが、レンタル屋は他のレンタル屋通しで、提携して商売をしているんだ。だから、乗り捨てができる」
「乗り捨てってなんですか?」
私は、ナジームさんに聞いた。
「乗り捨てと言ったが、別に何処で乗り捨ててもいいって訳ではないんだ。そういう言い方をしているんだよ。例えばこのオロゴ村でクルックピーをレンタルして、君たちが目指すカッサスの街へ向かう。そしてそこで、レンタルの必要がなくなった場合、そのカッサスの店でクルックピーを返却できるんだよ」
私は、その話を聞いて目を丸くした。
凄い!! そんな商売の方法があるなんて。
私は、今まで自分の村を出た事がなかった。たまに村へ、行商人がやってきたりしてはいたけど……興味があったので、色々な商品を見せてもらったり質問をした。その度に、商売って面白いなって思っていた。
でも、思っていただけ。村から出て生活するなんて私には到底無理だと思っていた。だけど、あの人攫いに馬車で何処かへ連れ去られそうになって、アテナに助けてもらってからは、色々な事が起きて世界が広がった。
人攫いに村を襲われ、家族を奪われ絶望した時は、何もかもが終わりだと思ったけど、今は生きていて良かったと毎日感じている。
旅を始めてから大変な時もある。だけど、今は毎日が楽しくてドキドキしている。なにもかもが刺激的で勉強になる。
私を救ってくれただけじゃなくて、そんな経験をさせてくれて色々なものを見せてくれるアテナには、本当に感謝してもしきれない。だから私は、もっと色々な事を知ってアテナや他の皆の役にも立ちたい。
アテナとルシエルが、ナジームさんと別れの握手をした。
「最後の最後まで、親切にしてくれてありがとう。私達はもう少しまだこの村で、旅の準備をするから、ここでお別れしてもまた会うかもだけどね」
「はっはっは。確かにそうだ」
アテナが、笑いながら言うとナジームも笑った。
「じゃあまたな。ナジーム、ピッチー!」
クルルッピー!!
ここで一旦ちゃんと別れようとしていたルシエルが、ピッチーの鳴き声とクリクリした大きな目を見て、別れられなくなってしまった。本当に、ルシエルはピッチーを気に入っちゃったんだ。ピッチーの長い首にビッタリと抱き着いている。
「くっ!! だめだ、アテナ。オレ、もうちょっとだけ、ピッチーと別れを惜しみたい!」
「うんうん、いいよいいよ。じゃあ、旅立つのは、明日の朝にしよう。それまで、自由行動ね」
「やったーー!! 言ってみるもんだな! ナジーム! ピッチーに乗っていい?」
ナジームさんは、微笑んで頷いた。ナジームさんも、暫くこの村にいるみたい。
こうして私達は、ナジームさんと別れた。
「じゃー、行ってくるー」
「気をつけてね。私達も、この村の何処かにはいるから。もし、明日の朝までお互いに見つけられないような事があったらクルックピーのレンタル屋さんの前で待ち合わせで」
「りょーかい!! じゃーー! いけーピッチー!!」
クルルルッピッピーーー!!
ルシエルがアテナに手を振ると、ピッチーは大はしゃぎのエルフを乗せて、何処かへ行ってしまった。
「ルキアはどうする? 私は、これからちょっとお買い物してくるけど」
「私は…………」
私は、ナジームさんの方を見た。ナジームさんはもう何処かへ向かって歩き出している。
アテナの顔を見つめる。
「私……もう少し、ナジームさんと一緒にいてみたいです。…………ついて行ってもいいですか?」
一瞬、驚いた素振りを見せるアテナ。でも、すぐに笑顔になって、
「いいけど、ちゃんと気を付けてね」
と言った。そしてアテナは、理由をきかなかった。私だったら、きっと「どうしてですか?」って聞いちゃっているな。でも…………
「あっ! そうだ。カルビ! カルビは、ルキアにくっついていって、しっかりルキアを守ってね」
ワンッ
カルビは、ついてくる事になったみたい。
私は、アテナに行ってきますと言うとカルビと一緒に、すぐにナジームさんのあとを追いかけた。
「ナジームさん! 待ってくださーい」
「おお! ルキア……何かあったかな?」
「はあ……はあ……わ……私、もう少しの間、ナジームさんとご一緒していいですか?」
ナジームさんは、一瞬考える素振りを見せた。
「それはいいが…………俺はこれから、いくつか用事があるぞ。それでもいいのなら、一緒に行こう」
「はい! ありがとうございます!!」
私は、もう少しの間、ナジームさんと一緒に行動を共にする事になった。
横に並んで歩くと、ナジームさんは何か気が付いたような表情をしたあと、私の手を握って再び歩き出した。
私は……ナジームさんに手を握られた事で、私のお父さんの事を思い出した。
私のお父さんの手もナジームさんみたいに、大きくて温かい、優しい手だった。
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〚下記備考欄〛
〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。趣味は、旅と食事とキャンプ。二刀流使いで、魔法も使いこなす。現在は、仲間と共にガンロック王国を冒険中。早速荒野世界に足を踏み入れるも、遭難する。ナジームという行商人に出会い、助けてもらう。お礼にナジームの仕事を手伝い、その流れでオロゴ村までやってきた。目指すはカッサスの街。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。アテナと共に冒険中。早速ガンロックの荒野世界で遭難。水も食糧も無くなりピンチになった所をナジームに助けられる、ナジームの連れているピッチーを気に入り、大好きになってしまった。ピッチーと別れたくないと心底思っている。
〇ルキア 種別:獣人
Fランク冒険者。猫の獣人。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気遣いのできる優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンから特別なナイフを貰い、アテナからは魔物に関する本を貰う。文字も教えてもらう約束をして、ルキアは戦闘技術だけでなく知識もモリモリと成長していく。現在、アテナと共にガンロック王国を冒険中。自分を助けてくれたナジームに懐く。見た目はぜんぜん似ていないけれど、そのナジームから伝わる雰囲気と優しい感じから、自分のもうこの世にいない父親を重ねている。まだ、あまえたい年頃なのだ。
〇カルビ 種別:魔物
子ウルフ。アテナと別行動していたルシエルが出会った子ウルフ。ニガッタ村での騒動を経て、アテナのパーティーの正式な4人目の仲間となる。(※あえて匹ではなく4人とカウント。)ルシエルの使い魔。カルビもガンロック王国になんて来たことがないから驚いている。しかし、ガンロックの荒野にも、ウルフは生息しているので、もし一人になったとしても意外と生きていけるのかもしれない。
〇ナジーム・フムッド 種別:ヒューム
アテナがガンロック王国入国後に初めて出会った人間。ガンロック王国の厳しい環境をあまく見ていたアテナ一行は、水も失い喉の渇きに加え空腹や照り付ける太陽で、全滅を免れない事態へと陥った。そんなアテナ達を助けると、アテナ達はお礼にナジームの仕事を手伝うと申し出た。お陰でクルックピーを11羽も捕らえる事ができた。そして、捕らえたクルックピーを売る為に、アテナと共にオロゴ村にやってきた。
〇ピッチー 種別:魔物
ナジームの連れているクルックピー。とても利口で愛らしい。ナジームとは行商の良いパートナーだが、既にルシエルとも仲良し。ルシエルもピッチーが好きだし、ピッチーもルシエルが大好きなのだ。
〇クルックピー 種別:魔物
鳥の魔物で、シルエットはダチョウに似ているかも。しかし、ダチョウと比べると羽根は多くフッサフサで丸みがある。他の鳥のように羽ばたく事はできても、飛ぶ事の出来ない鳥。だけど、足は速く大きい鳥なので人が騎乗する事もできる。ガンロック王国ではクルックピーが多く生息しており、人々の移動手段として馬よりも親しまれている。そして、ガンロック王国にある村や街ではクルックピーをレンタルするレンタルクルックピー屋もあるそうだ。
〇ガンロック王国 種別:ロケーション
アテナ一行が現在、旅をする国。何処までも荒野が広がっているような国。日中は太陽が照り付けて大地を焼き、夜は急激に気温が下がる厳しい世界。まるで、砂漠。
〇オロゴ村 種別:ロケーション
ガンロック王国で、アテナ達の現在地。ナジームの仕事を手伝って野生のクルックピーを捕らえたアテナ達はそのクルックピーを売る為に、オロゴ村へ立ち寄った。村ではあるけれど、色々なお店もあって、ここへ立ち寄る旅人たちにも好評。
〇カッサスの街 種別:ロケーション
アテナの次の目的地。大きな街なので、色々何かあるに違いない。ワックワクだね。




