表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
744/1351

第744話 『セシリアのボウガン その1』



 交易都市リベラルの商業エリアに並ぶ、とある武器屋。そこに私とファーレは立ち寄った。


 お店に入るなり、まずは店内を一周見回した。店員はいない? 



「セシリア、あちらを見てください。大小様々なボウガンが吊り下げられていますよ。それにそちらにも――弓も沢山種類があります」


「そうね、でもきっと弓は使えない。それなりにスキルが必要とされる武器だから。その点、ボウガンなら矢をセットして引き金を引くだけで、強力な一撃を放つことができるわ。誰でも敵を倒す事ができる」


「そうなんですか……ボウガン。私は使った事がないですね」



 まじまじと私以上に、ボウガンを手に取り見つめるファーレ。その様子を暫く眺めていると、私の買い物をしに来ていたのだという事を思い出す。


 この後も果樹園に行くという予定がある。だから、そんなにゆっくりしていてはいけない。目の前に陳列されているボウガンを一つ一つ手に取り、重さや使いやすさなどを調べた。もちろん、ボウガンそれぞれでフォルムも違うので、その好みもある。


 そして私は好み=自分で思う使いやすさだと思っているので、それらも選ぶ重要な要素だった。


 次々と沢山あるボウガンの中から、一番気に入ったものを探し出す為に吟味していると、隣で同じように商品を見ていたファーレが可笑しな声をあげた。



「ひゃああーーん!」



 え? どうしたの!?



「だ、誰かが私のお尻を……」



 振り返ると、そこには小さなお爺さんが立っていた。



「フェッフェッフェ。ええオケツだわい。もっと触らせてくれんかのー」



 後ずさりするファーレ。私は近くにあった商品、メイスを手に取ると、それをそのお爺さん目掛けて大きく振り上げた。



「待て待て待て!! お嬢ちゃん、あんたこんなヨボヨボのお爺さんを叩き殺す気か!?」


「叩き殺す? いいえ、生ぬるいわ。すり潰してあげる」



 さっきまでいやらしい顔をしていたお爺さんの顔は、一気に青ざめて恐怖に引きつる。



「だから待て待て待て!! 待てと言うとろーが!!」


「え? なぜ?」


「そりゃそうじゃ。わしゃー、この店の店主じゃぞ。その店主をそれで叩き殺すつもりか!? たちまち、警備兵がきて、取り押さえられるぞ。それでもいいのか?」


「言ったでしょ? 叩き潰すんじゃないわ。すり潰すのよ。それが何だったのかも解らないくらいにね」



 更にメイスを振り上げると、店主は更に悲鳴をあげる。みかねたファーレが私を抑えた。



「待って、セシリア! もういいですから」


「あら? いいの?」



 メイスを下ろすと、お爺さんは大きく息を吐いてその場に崩れた。



「ふーーー、本当に恐ろしいお嬢さんじゃ。とんでもない美人さんじゃが、同じくらいに恐ろしい」


「お爺さん、あなたの方が恐ろしいわよ。勝手に、この子のお尻を触ったのだから」



 そう言ってファーレのお尻に手をやる。すると、ファーレは何かを感じたのか、さっと後ろへ避けた。当たり前だけど、この辺がテトラと違う。


 テトラは、あの大きな胸とお尻をアピールして、いついかなる時も周囲に対して挑発を繰り返している。だけどその割には、とんだ無警戒でお尻でも胸でも触り放題だから、それは駄目よといつもその身体に直接教えてあげている。



「そんなのアレじゃぞ! アレじゃ! そんな事言ったら、お嬢さん達だって、勝手にわしの店の商品を触っていじくりまわしとるじゃないか」


「それは、どれを買おうか見定めているからよ」


「わーしだってそうじゃ。お嬢さん方の、お尻の柔らかさや形を見定めておったんじゃ。こう見えてもわしはアレじゃぞ。列記としたオシリニストとして、知る人ぞ知る……」



 一度置いたメイスに再び手を伸ばすと、それを掴んで思い切り振り上げる。視線はこの店の店主。振り下ろす直前で、またファーレに止められた。



「ひいいいい!! こ、殺されるうううううう!!」


「待って、待ってください!! セシリア、本当にこのお爺さんをミンチにしてしまいそうです」


「ミンチ? あら、それいいわね。じゃあミンチにしてあげちゃおうかしら」


「待――て!! 待て待て!! 待てと言っておろうが!! お嬢ちゃん達、ここに武器を買いにきたのじゃろ? 小さな事を気にして目的を見失っちゃいかん!! それで、なんじゃ? 何を探しておるんじゃ、メイスか? 破壊力のあるメイスを探しておるのか?」



 ファーレと顔を合わせると、二人で溜息を吐いた。


 握っていたメイスをもとの場所に立てかけて、私はお爺さんに答えた。



「武器は、ボウガンを探しているの。欲しいのは、この私。このお店にいいボウガンはあるのかしら」


「ほう、ボウガンとな。確かにこの店にはご覧の通り、実に様々なボウガンを取り揃えておる……が、獲物はなんじゃ。見た所、商人か貴族のお嬢さんと言った感じじゃが、狩りか?」



 メイドである私にとって、武器は馴染みのないものでぜんぜん頭になかったけれど、そう言えばボウガンや弓なんかは、使用用途も幅広かった。何があるのかパッと考えても、冒険用、狩り用、護身用、競技用、戦で使うようなものなど様々。


 私はお爺さんの目を見つめて、はっきりと答える。



「冒険者が使うような安定性と柔軟性に優れたもので、狩りにも使えるもので、尚且つ扱いやすいものがいいわ。でもそれだと、全ての用途を含んだボウガンって事になるのかしら。だから一言で簡潔に言うわ。このお店で、極めて殺傷能力の高くて、この私でも扱えるようなボウガンはあるかしら」



 それを聞いたお爺さんの眉間に皺がよる。そして、言った。



「それならいい物があるぞい。暗殺用のボウガンじゃ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ