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第740話 『軽く食事?』(▼セシリアpart)



 交易都市リベラルで最も巨大な超高級ホテル、グランドリベラルで一泊した私は、テトラ達と一旦別れて別行動を取る。各々で『狼』に関する情報収集を行う事になった。


 テトラは、既に会う約束を取り付けていたアーマー屋、ダニエル・コマネフのもとへ。そしてローザはシェルミーと共に、その他の十三商人から情報を収集できないか調査に出かけた。


 それで私はシェルミーの妹、ファーレと共に十三商人の一人、フルーツディーラーのデューティー・ヘレントのもとへ伺おうとしていた。


 まずは、彼女に会ってみる事。会ったからといって彼女が『狼』かどうか、手がかりがつかめるかも解らない。けれど、会ってみなければ始まらない。まずは、会って話して彼女の目を見て、その内側を覗き見る事が大切だと思った。


 ホテルを出ると、共にするファーレが早速話しかけてきた。



「セシリアさん」


「何かしら、ファーレ」


「これからデューティー・ヘレントのもとへ伺いますよね」


「そうね。まずは彼女に会ってみましょう。でもその前に、軽く食事でもしましょうか」


「そうですね。では、お店はセシリアさんにお任せします」


「あら、そう。それなら、向こうに行ってみましょう。昨日の夜、自分の宿泊したホテルの部屋のバルコニーから外の夜景を眺めていたのだけれど、かなり遅い時間になっても煌々と灯りのある地域があったわ。きっとそこは商業地区。そこには、沢山のお店もあるわよ」


「流石の観察力ですね、セシリアさんは」



 セシリアさんは――それは、誰かと比べてって事なのだろうか。テトラと比べて、もしくは自分の姉シェルミーと比べて……まあ、どちらでもいいのだけれど。


 シェルミーとファーレとは、この交易都市にやってきて初めて出会った。それからメルクト共和国を、賊の魔の手から救うという共通の目的の為に、手を結んで行動を共にしている。


 でも何か気になる……テトラやローザやアローは、特に気にしていない様子だったのだけれど、私はこの姉妹を見るなり何かがつっかえているような気持になった。


 ファーレ。姉のシェルミーと同じく少しソバージュがかった髪をしていて、道を歩くと誰もが振り向きそうな程の美女。


 豪商の娘と言えば、そうかもしれないけれど……レジスタンスでもある。しかもリベラルに入った時に、ファーレやシェルミーと同行していた黒づくめのターバンを巻いた男達。身のこなしからしても、只者ではないことが解る。日頃から、訓練されている者達。使用人のロドリゲスでさえ、とても強かった。


 私は運動も得意ではないし、剣や槍もまともに使えないけれど、何年もクラインベルトの王家に王宮メイドとして仕えてきた。


 自分自身に武術が備わっていなくても、剣の達人や腕の立つ兵士、訓練された騎士達を何人も見てきている。だからそういう風格というか、そういう者がまとった特別な雰囲気などを多少は感じる事ができる。


 つまり、シェルミーやファーレの所属しているレジスタンスは、そんな猛者が何人もいる所だという事。


 もしかしたら、テトラが言っていたけれど、トリケット村でコルネウス執政官を救出する時に、一緒に行動を共にしたビルグリーノという男の一団のような規模の者達かもしれない。彼のもとにも、マルゼレータや複数の腕の立つ者がいた。


 だけど、引っ掛かる。ずっと引っ掛かっている。この姉妹を見た時から……もう少しヒントがあれば、それが何か解りそうな気もするのだけれど。



「セシリアさん」


「何かしら」


「セシリアさんの言っていた商業地区です。セシリアさんの言った通り、お店がいくつもありますね」


「そう、それは良かったわ。それじゃ、何処に入ろうから」



 見回して、入る店を探す。すると、丁度いい感じのカフェのようなお店があったので、そこに入る事にした。


 それにしても、私達はこの街を行き交う人達の目を引いている。考えてみれば私は、今日もメイド服ではなくドレスを着ていた。しかも純白のドレス。


 そして、ファーレもまた水色の可愛らしいドレスを着ていた。ピアノを弾いていた時とはまた違ったドレス。あの時はフォーマルな感じだったけれど、今は外出用なのか、ややカジュアルより。


 シェルミーは、活発な感じが目立つけれど、大人しそうで清楚な雰囲気のファーレは本当に貴族令嬢……王族にだって見えた。



 カランカランッ



「いらっしゃいませー、二名様ですか?」


「ええ」


「では、あちらのテーブル席の方におかけください」



 店員に言われて、テーブル席へと歩く。そしてファーレと向かい合う形で座った。店員がお水とメニューを持ってきたので、メニューを開くとまずファーレにそれを見せた。



「まあ、どれも美味しそうですね。どれにしようかしら」


「この時間なら、セットの方が良さそうね」


「そうね、それじゃ……すいません」



 ファーレが手を挙げて店員を呼ぶ。ピンと張った腕を見た時、やはり何かを感じた。



「ご注文は、お決まりでしょうか?」


「ええ。それじゃ、このキノコとナスと鶏肉のトマトソースパスタ。それとセットでサラダとお紅茶と、この季節の彩フルーツタルトをお願いできるかしら」


「はい、かしこまりました」



 え!? 普通に注文しているけど、ケーキも注文している。そのことに驚いた。


 確か、私達はこれから十三商人の一人に会いに行く前に、軽く食事をする……そういう流れだったのだと思っていたのだけれど。


 でもパスタとサラダ、それにドリンクに加えてケーキを注文しても、それがファーレにとって軽い食事になるのなら、別に問題はないかもしれないと思い直す。



「それじゃ、私はこのエビグラタンとロールパン、あと同じくセットで、サラダとドリンクにアイスレモンティーを頂けるかしら」


「かしこまり……」


「そうそう、あと私も折角だから、このモンブラン頂けるかしら」


「かしこまりました」



 軽く食事するというのに、結局ケーキがそれに含まれるかどうかは解らない。けれど、ファーレが注文するのなら、私も注文しない訳にはいかない。


 だって、ケーキは私にとっても大好物なのだから。

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