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第74話 『魔物に襲われた村』






 走った。私は、なりふり構わず全速力で廊下を走った。後ろから、恐ろしい雄叫びと共に何かが迫ってきている。



 グガアアアアオオオオオ!!!!



「はあはあはあはあ……」



 息が切れる。私はあまり運動が、得意ではないので追いつかれるかもしれないと思った。だけど、1階フロントまでは、なんとか来る事ができた。


 ここから、階段を駆け上って2階へ行けば助かる。そう思った。



 ガシャーーーンッ!!



 ――――ガラスの割れる音。


 ちょっと、噓でしょ!?


 宿屋1階、入口側の窓を破って、ウェアウルフが屋内へ飛び込んできた。さっき私に迫って来ていた魔物とはまた別の個体。



 グルルルルルルル…………



「くっ!!」



 早く逃げないと…………そう思ったが、後方からも先程のウェアウルフが迫ってきている。このままじゃ、挟み撃ちにされる。


 階段を見た。2階にはテトラがいる。ここを駆け上がれば、テトラのもとに行ける。


 …………だけど。


 だけど冷静に今の状況と自分の状態を考えてみると、解ってしまう。きっと私はこの階段を駆け上がって2階へ行く事は、もうできないだろう。息もあがっているし、心臓も爆発しそうな位に早く動いている。足も少し痙攣している。体力の限界だ。


 私は悟った。この階段を駆け上がっている最中に、この2匹のウェアウルフに捕まって、切り裂かれ喰われてしまうだろうと――――



「こんな場所で、最後を迎えるなんて……フフフ。でも、お城を出た時から覚悟なんてものは、とっくに決めているわ! 残念だけど、私の運命がここまでというのなら、それはそれでかまわない」



 ガルウウウウ!!


 

 入口側から入ってきた方のウェアウルフが、爪を振りかぶり飛び掛かって来た。私は持っていたナイフを両手で2本同時に投げた。ナイフは2本ともウェアウルフの胴に命中した。その痛みに、怯んだのが見て取れた。



「ルーニ様をお救いする為に、自分の命を捧げなければならない事があっても私は受け入れる。だけど――――使命はちゃんと果たすわ!!」



 私の使命。最後に果たせる使命。それは、このルーニ様のメッセージだけは、守らなければならないということ。守って、絶対に守り切ってテトラに渡さなければならない。このルーニ様の精一杯のメッセージをテトラに託さないと――――



 グガアアアアア!!!!



 2匹のウェアウルフが、今度は挟み撃ちの形でほぼ同時に襲い掛かってきた。私は、ナイフやスクロールを使用して応戦しようとしたが踏みとどまった。今、私が優先しなければならない事は、今持っている大切なメッセージをテトラへ確実に届ける事。それが最も大事。


 私は飛び掛かってくる2匹のウェアウルフを無視して、階段横に設置されている棚の上に飾ってある、花瓶に飛びついた。


 私が食べられる前に、このメッセージを花瓶にいれて置いておけば、メッセージは無事に残す事ができる。きっとテトラへ伝えられるだろう。


 私は花瓶を掴んだ!!


 これ以上一緒に行けなくてごめんね、テトラ。そして、ルーニ様の事は任せたから絶対に助け出して。――――私はそう強く念じながら花瓶にメッセージを詰めると共に、目を閉じた。



 グガアアアアアアアア!!!!



「あああああ!!!!」



 ――――引き裂かれたと思った。だが、まだ生きていた。


 終わりだと思った瞬間、階段上から狐の耳と4本の尻尾を生やしたメイドが、デッキブラシを片手に1階へ飛び降りてきた。



「やあああああ!!!!」


「テトラ!!」



 テトラは、飛び降りて着地するのと同時にウェアウルフの頭部を、デッキブラシで打ち込み、もう片方のウェアウルフにも数本の果物ナイフを投げた。ナイフは、ウェアウルフの顔や胸に突き刺さる。悲鳴。



 ギャアアア!!



 私は、テトラを思い切り抱きしめたいという気持ちで溢れた。だけど、そんな状況ではないのでその気持ちを押し殺す。


 1匹は、見事に倒したがデッキブラシを打ち込んだ方は、まだピンピンしている。私は、テトラに言った。



「テトラ!! いくわよ!」


「はいっ!!」



 私は、スクロールを取り出し、残るウェアウルフに向かってそれを使った。



「テトラ!! 目を瞑って!! 《閃光魔法(スタンフラッシュ)》!!」



 スクロールが開き、ウェアウルフ目がけて魔法が発動する。辺りが眩しすぎる程の強烈な光で満たされる。閃光による目潰し。ウェアウルフの両眼は、強烈な光で眩んでしまい、何も見えなくなった。チャンスとばかり、私は再度テトラに声を放った。



「テトラ!! とどめをお願い!!」


「はいっ!! 任せてください!!」



 頷く。テトラは持っていたデッキブラシを、力いっぱい床に叩きつけた。その衝撃で、デッキブラシの頭のブラシ部分が折れて宙に飛ぶ。手に握るデッキブラシの残った棒状部分の先端は、槍のように尖っていた。



「やああああああ!!!!」



 テトラは、そのデッキブラシを折って作った、尖った棒をウェアウルフの心臓の辺りに、深々と突き立てた。テトラがその棒から手を離すと、ウェアウルフは吐血して倒れた。



「テトラ……あなたのおかげで、助かったわ。ありがとう」


「1階で凄い音がしたから、私……セシリアさんに何かあったと思って!!」



 なるほどね。ルーニ様救出に、陛下がなぜこの子を選ばれたのかが、疑問だった時もあったけれども、今はその理由がはっきりと解る。



「大丈夫かーーい!! ああ! 良かった! 二人とも無事だったんだね」



 アーサーだった。今頃戻って来て…………

 

 しかも、後ろに何十人もの人がいるけど⁉ テトラが突っ込んだ。



「遅いですよ。……って、そちらの皆さんはどちら様ですか?」


「ああ。この人たちはね――――」



 アーサーが連れて来た人達は、この村の人達だった。


 昨日、村に突如ウェアウルフが現れて、村人を誰かれ構わず襲ったそうだ。この村には、自警団もおらず冒険者も数人しかいなかった。


 村の人達は何人も殺されたが、残った者は必死で逃げて、今までずっと助けを待って納屋などに隠れていたらしい。


 こういった今回ダーケ村で起きたような事件は、探せば普通にある話らしい。村は、街や城のように城壁など強固なもので守られていないので、魔物が襲ってくると、今回のような悲惨な状態になる場合があるそうだ。



「村の中を色々調査していたら、僕もウェアウルフに襲われてね。なんとか、出合頭に2匹倒したよ。そしたら、納屋から人が出てきてさー、びっくりしたよ。僕なら、魔物どもを倒せると思って出て来たそうだよ」


「なるほどね。この状況がようやく呑み込めたわ。それで、この街を襲ったウェアウルフは結局何匹だったの?」


「4匹ですじゃ」



 この村の村長が答えた。



「テトラが2匹、アーサーが2匹。じゃあ、とりあえずこの村を襲ったウェアウルフは、全部倒したことになるわね」



 そう言うと、村長が飛び上がって喜んだ。



「なんですと!! まさか……まさか、この村を救っていただけるとは……感謝致します。なんとお礼を申し上げればいいか……」


「私達は先を急ぐのでもう出発します。ですので、私たち二人は、お礼は特に結構です。あと、そう……もしかしたら他にもウェアウルフが潜んでいるかもしれないので、一応王国に助けを求められた方がいいでしょうね」


「なにからなにまで……ありがとうございます。でも、それなら……ついさっき、ウェアウルフの隙をついて、村の者を王都へ向かわせましたので、直に騎士団が到着すると思います」



 …………直に王国騎士団が来る。それならこちらにとっても、好都合だわ。



「それでしたら、良かったです。では、私達はこのへんで」


「いや……あの……待って!! お礼をさせてくださらんか!!」


「いえ、先を急ぎますので」



 そう言ったが、これから目的地までまだ距離があるので、やはりお礼だけは受け取ることにした。食糧と水……そして、テトラの新しい武器。それは、かつてこの村に来た冒険者が置いていった鉄製の槍だった。


 テトラは、ちゃんと武器らしい武器を手に入れられた事で、早速槍を振り回して嬉しそうにしている。


 私達は、ダーケ村を出発した。次の行先は、先ほどこっそりとテトラに告げた。ルーニ様から受け取ったメッセージにその場所が記されていた。陛下へも、ルーニ様が囚われていると思われる場所を記した手紙を送っておいた。


 ルーニ様が囚われている場所が確定されれば、陛下はきっと私達に増援を送ってくださるだろう。



「まってーーー!! ちょっと待ってよ―――!! 君達だけじゃ、危ないからさ、僕にお供させてよー」



 アーサーがそう言って走ってついてきた。










――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ダーケ村村長 種別:ヒューム

結構なお歳を召している。身内がいないので、次の村長を誰に任せるか決めておかなければと、考えていた所で今回の事件が起きた。家の庭には、自分で南瓜を植えて育てている。


〇鉄製の槍 種別:武器

アイアンスピアとも言われている。鉄でできた槍なので、殺傷能力も高く頑丈。もちろん、テトラの今まで使っていたモップやデッキブラシとは比べ物にならない位に立派な武器。中堅クラスの冒険者や兵士たちの間ではとてもポピュラーな武器。


閃光魔法(スタンフラッシュ) 種別:魔法

辺りに閃光を瞬時に放つ魔法。それを見た者は、一瞬にして目がくらむ。目潰しの魔法。

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