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第735話 『闘技場ドーム その3』



「うおおおおお!!」


「かかってこい、このやろーー!!」



 闘技場のあちらこちらで、戦士達によって戦闘が開始された。剣や槍、斧などが重なりあい、弾けて凄まじい金属音が辺りに鳴り響く。打撃、斬撃。それと共に、観戦している者達の熱狂は爆発した。


 私も気づけば、叫んでいた。レティシアさんの名を!! 一瞬それをボム・キングにも聞かれたかと思ったけれど、振り向くと彼は私の事なんてまったく気にする様子も無く、レティシアさんが勝つ事を見込んで夢中で応援していた。


 ダニエルさんも、まじまじと試合を見ている。私の言葉に気づいたのは、一人だけだった。


 小さな可愛らしい女の子が、私の隣の席へチョコンと座る。口の周りには、色々とお菓子の食べカスがついて汚れている。私はハンカチを取り出してそれを拭いてあげた。



「もしかしてあのえらい綺麗(べっぴんさん)な女の人、テトラのお友達なんですか?」


「はい、友達というか……師匠と言ったの方が近いかもしれないです。そして、とてもお世話になった人なんです」


「へえー。それならなんとしても応援せなあきまへんねー」


「アイシャも一緒に応援してくれますか?」


「そんなん当たり前ですわ」



 にっこりと微笑むアイシャ。


 そして闘技場に目を移すと、レティシアさんもついに戦闘に突入していた。レティシアさんの周囲には4人の戦士。男達は互いに手を組んで、取り囲んできている。



「貴様、レティシア・ダルクだな。Sランク冒険者!」


「ウフフフ、どうかしら」


「もうお前は、有名人だぞ。たった一人で、モロロント山に巣くうガルーダの討伐をしたそうじゃないか」


「フフフフ、それは話に尾ひれがついているわね。私一人ではないわ」


「どちらにしても貴様がとんでもない冒険者だという事は、もう知っている。ボム・キングに気に入られて手下になっている所を見ても、十分な裏付けになるしな」


「それも違うわね。手下じゃなくて、雇われているだけよ」


「それの何処が違う!!」


「一時的に働かせてもらっているだけ。お互いに利益を得る為に、協力し合っているって言えば解るかしら。そんな事より、いい加減戦わないのかしら。ここは闘技場で、お喋りをする場所ではないのよ。それともあなた達は、ここへお茶でもしに来たのかしら。ウフフフフ」


「おのれえええ!! ほざくなああ!!」



 レティシアさんを囲んだ4人が、四方から一斉に彼女に襲い掛かる。レティシアさんの事だから、きっと大丈夫、そう確信していても心配して声が出そうになる。もしもの事があったらって。


 でも直ぐに、私の心配なんてたいしてあてにはならないと思知らせてくれる。


 レティシアさんは四方から襲い掛かられると4人の攻撃を上手くかわして、襲い掛かってきている一人の足元をすり抜けて、素早くその男の後ろに回った。しかも手には、剣の鞘が握られている。



「え? な、なに!! それは、俺の剣の鞘!! いつのまに掠め取った!?」


「ウフフフ。女一人に男4人で同時になんですもの。鞘の一つや二つくらい、貸してくれてもいいでしょ?」



 レティシアさんは、そういうと鞘を片手に持って剣のように構えた。そして4人の攻撃をたった一人で受けている。


 速い攻撃はそれ以上の速度で受けて、重い攻撃はさっと器用にかわす。男達がムキになり始めると、それを待っていたかのようにレティシアさんは素早く踏み込んで、あっと言う間にその鞘で打ち倒してしまった。



「ぐはっ!」


「ウフフフ、あまいあまい。まだまだ稽古が足りないわね。もっと精進しないと、この程度じゃあなた達100人でかかっても私はおろか、あそこで可愛い顔をしてこちらを見ているテトラちゃんにもかなわないわよ」



 レティシアさんは微笑みながらも、そのまま戦士たちが乱戦している方へ歩き始めた。レティシアさんは、直ぐに他の戦士に目をつけられる。でも襲い掛かられても微塵も同様する事なく、その度軽くあしらって打ち倒した。


 10人以上を一人で倒した所で、闘技場にいる戦士全員の目がレティシアさんに向いた。そして、その戦士たちの中にいた大男が進み出る。あれは、確かリベラルの街へ入る時に出入口門で暴れていた盗賊、カンダタ。



「この女が一番の強敵だ!! 俺様が思うに、ここはまずこの女を倒してしまってから、改めて決着をつける形の方がいいと思うんだが、どうだ?」


「いいねーー!! 賛成だ!! ざっと見た所、この闘技場で一番手ごわいのはこの女。そして次にお前だ、盗賊団『蜘蛛の糸』首領のカンダタ」


「誰かと思えば女盗賊団『アスラ』の次女、エイティーンか!! これはびっくりだぜ!! 俺様も同意見だ! あの女を倒せば、その次に俺様の脅威となるのは、デカ女……お前だな」



 あ、あれは!! 女盗賊団『アスラ』頭領の三姉妹の一人!!


 確かにリベラルは自治都市と言っても、もともとはメルクト共和国。メルクトの中に、もう一つ小さな繁栄した国があるという認識の方が正しい。だからここに、リーティック村で戦った女盗賊団『アスラ』のエイティーンがいるとしても、なんら不思議ではなかった。


 セシリアとローザも、私と合流する為にリーティック村を出発した辺りで、『アスラ』と一緒にいた爆裂盗賊団と遭遇したと言っていたし……


 それにしてもこれは凄い事になったと思った。


 エイティーンは、私も戦ったけれど散々にやられた記憶がある。セシリアにも助けられた。つまり、とんでもなく強い。

 

 でもレティシアさんも、異常な位に強いのだ。


 ……こうなってくると、まったく予想がつかない……気が付くと、私はもう周りの事が一切見えなくなっていて、闘技場を見つめながら手に汗を握って、自分自身がとても興奮している事に気づいた。

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