第733話 『闘技場ドーム その1』
ビップ席に行くと、そこにはとても特徴的な男がいた。
肌は黒く、髪の毛は剣山のように逆立っていて小太りの中年――そしてその男の両脇には、なんと4人もの美女がいて男の機嫌を伺っていた。
ダニエルさんはその男の顔を見るなり、片手をあげて声をかけた。
「ボム!」
「ああ? おおー、ダニエルか。これは珍しいな、だっはっはっは、まあよく来たな! こっちに来い!!」
やっぱりあの特徴的な人がボム・キング。この闘技場ドームのオーナーで、リベラル十三商人の一人。
「さあ、ダニエル!! こっちに来い、こっちに!! そして、ここへ座れ。遠慮するな!」
ボム・キングは、両脇にいた美しい女性たちに向こうへ行けと追っ払うように言って遠ざけると、私達を直ぐ隣の席へと座らせた。ボム・キングと目が合う。
「ダニエル、今日もそのアーマー決まっているな。もしかして、外行き用のアーマーか? ダハハハハハ!!」
「そうだ、外行き用のアーマーだ。これ一着で、大切な自分の命を守れるのだとすれば、安い買い物だろう。どうだ、特別にいいのをいくつか売ってやろうか?」
「え? ううーーん、いやいい。今回は遠慮しておこう。それはそうと、一緒にいるこちらのお嬢さんたちは? ダニエル、もしかしてお前のコレかーー? なかなかの美人じゃないか」
アイシャではなく、ボム・キングは私の方を見ると小指を立ててニタニタと金歯を見せて笑った。
ダニエルさんとは、まだ会ってそれ程時も経っていないけれど、どういう人か次第に解ってきているような気がした。
特に彼の家を、訪ねた時の事。ダニエルさんは、自分の奥さんや子供達を私に合わせてくれて話をしてくれた。その時のダニエルさんの表情を見て、私はこの人を信用できると確信した。
でもきっとそんなダニエルさんの事は、交流を持っている他の十三商人も知っているはず。ダニエルさんは奥さんを失ってもなお、家族を愛し続けていた。だから、そんなダニエルさんが女を連れて来た事に対して、ボム・キングは愛人かもしれないとニタニタと笑ったのだ。
……でも私も悪い。なぜなら、こんな踊り子の衣装でいるのだから。それでダニエルさんがそういう風に見られているのなら、それは全て私のせいだ。
「あ、あの……キングさん。私はその……」
「彼女はテトラだ。私の友人だ。もちろん言うまでもない事だが、商売上のな。だからボム、君が何か誤解しているのなら早めに正しておこうと思ってな」
「ほう……そうか。テトラ、テトラね。ワシはこのリベラルで一番の興行師、ボム・キングだ。今はこの交易都市内に巨大な闘技場を造り、大成功している者だと言えば嫌味に聞こえらか、ダハハハ。わざわざダニエルと……その商売つながりの友人テトラがワシに会いに来たって事は、何もただ闘技場を観戦しに来たって事ではないのだろ?」
「まあな。そういう事だ」
「ダハハハ、やっぱりそうか。さては、儲け話だなー! じゃあ早速その話を……」
オオオオオーーーーーーー!!!!
早速その話を聞こうか? ボム・キングがそう言おうとした所で、闘技場内に歓声が鳴り響く。闘技場の中には、いかにも血に飢えた戦士という者達が何十人も入場してきた。
もしかして、これから戦いが始まる。闘技場での戦いは1対1を想像していたけど、ざっと見ても30人以上はいる。
「おおおーーー!! 始まるぞ!! これは今日一番のメインイベントだぞ!! 商談もいいが、とりあえずほら!! まずは、この試合を見てからにしよう!! 見ろ、酒も料理もある。好きにつついてくれ」
ボム・キングはそう言って、選手たちに激しい拍手を送った。
ダニエルさんと顔を合わせると、彼は頷いたので今度はアイシャを見た。するとアイシャはボム・キングが進めた料理に手を伸ばしてそれを貪り始めた。そして闘技場に集中している。
何か言われるかもしれないと思ったけど、誰もアイシャの事を気に止めようとしないので、私やダニエルさんの関係者だと思われているのだと思いホッとした。
大きな円形闘技場。そこへ30人以上の戦士たちが入場し終えると、もう一人正装をした男が入ってきて何千人っている観客へ向けて声を発した。
「レディース&ジェントルメーーン!! 皆様、今日はこの闘技場へお越し頂きまして、ありがとうございます!! このリベラル闘技場のオーナー、ボム・キング氏に代わってお礼を申し上げます」
大観衆からの拍手。そしてボム・キングを称える大勢の声と拍手。
「さて、それでは本日最高のメインイベントをこれより開催します。ここに集まった戦士たちを、ご覧ください。いずれも腕に覚えがあり、勇敢であります。本来ここで開催されている試合は1対1やチーム戦、人対魔物など、実にバラエティーにとんだ様々な心躍る試合が繰り広げられておりますが、今日この瞬間に開催されるメインイベントでは、ここにいる33人でバトルロイヤルを行ってもらいます」
物凄い歓声と声援。
「武器も自由、魔法も認められていますが、いずれも闘技場の内側だけの使用となりますので、観客席などに被害を与えた場合は失格となります。またそれによる被害総額は、それを行ってしまった戦士に直接請求されるので、それがペナルティとなります。また戦いに関しては、戦士同士組んでもいいし、何人かで一人を囲んでもいい。まさにフリーダム!! しかし勝者は一人!! 最後に立っていた者のみが勝者として認められます!」
ウオオオオオーーーー!!
また歓声と拍手。更に戦いに参加する選手たちが、両腕や片腕をあげて観客たちの声援にこたえていた。物凄い熱狂。だけど贔屓の選手を応援したり、お金を賭けていたいたりするのなら、この尋常ならざる盛り上がりにも納得ができた。
え? あれ、うそ!?
選手たちを見ていると、その中にはなんと私が探していた人がいた。
レティシア・ダルク。なんと闘技場の中に、彼女も参戦していた。私はそれを見て、あまりの事に思わず身を乗り出してしまった。




