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第731話 『ドーム状の建物の入口にて』



 交易都市リベラルにも、王都のスラムのような場所はあった。だけどクラインベルト王国のスラムと圧倒的に違いを感じるのは、その活気だった。


 王都のスラムは荒んでいて、暗い雰囲気だった。だけどこの場所は、大勢の人が行きかい、辺り一帯から話声が聞こえ、笑い声も聞こえる。商売をしている者も、沢山いる。



「テトラ、あれを見ろ。あそこにボム・キングはいる」



 目をやると大きなドーム状の建物があった。入口にはガラの悪い者達が立っている。あのゴロツキのような人達は、ボム・キングの手下で建物に入る者をチェックしているのだ。


 ダニエルさんについて行くと、そのまま建物の入口までたどり着いた。目の前のゴロツキに止められる。



「ちょーーっと待ちやがれ。おーおー、これはべっぴんの踊り子だな」


「すいません、中へ通してもらえますか?」


「待て待て待て、狐の可愛い姉ちゃん。あんた、踊り子なんだろ? まずはここで踊ってもらおうか、なあ。それから中へ入れてやれるか、改めて検討してやろう」


「え? そ、そんな事……」


「嫌ならいいんだぜ、帰んな。それとこの中へ入るには、入場料も必要になるんだぜ。でもーまあ、俺の機嫌を良くしてくれたらその辺も、どうにかなるかもしれねーなあ。どうする?」


「ど、どうするっていったって……そ、そんな」



 そう言えばもう一つ、王都のスラムとここの違いがあった。


 王都は、クラインベルト王国のおひざ元。いくらスラムだからといっても、本当に何かあれば騎士団がやってきて治安維持に努める。だけどここには、そう言った者はいない。街の出入口門にも門番がいたけど、十三商人のような力のある商人たちの組合があり、警備や治安維持に対してお金を払っている。


 だから治安維持だと言っても、基本的にはお金を持っている人や、商人を守る為にあるものなのだ。正義だとか、平和の為のものではない。商人達の利益の為にあるもの。



「どうすんだ? 姉ちゃんの顔はしっかり覚えたからよ。俺の機嫌をとらねえと、絶対に中へは通してやんねーからな」


「そそそ、そ、そんなあーー」



 どうすればいいだろう。本当に通してくれるなら、ちょっと踊るだけならいいかもしれない。でもこれだけの人がいる中でそれは、いくらなんでも目立つし恥ずかしい。


 一人で困っていると、ダニエルさんが私の手を掴んでそのままズカズカと建物の入口へ歩いて行く。そして中へ入ろうとした所で、さっきの男に肩を掴まれた。



「おい、おっさん!! 勝手に通るな!!」


「金を払えばいいんだな?」


「駄目だ!! その女は俺のものだ。だから、女をおいていけば通してやろう。言っておくが、金も支払えよ」



 男の無茶な言葉に、他の見張りの男達が大笑いする。だけどダニエルさんの表情は変わらない。



「それはできない。この娘は私のものだ。私の所有物に手を出すなら、あとで巨額の代金を君に請求するぞ。それでもいいのか?」



 それを聞いて、また大笑いする男達。



「いいか、ハゲのおっさん!! 俺達に歯向かうなよ。俺達はボム・キング様の配下のものだ。俺達を怒らせると、ボム・キング様を怒らせる事になるぞ。いいのか」


「かまわない。怒らせたければ、怒らせればいい。なんなら、私が直接ボム・キングにこのやり取りを伝えてやろうか?」


「て、てめえ!!」

 


 男はダニエルさんを睨みつけると、思い切り拳を握り込み、彼の腹をえぐるようにパンチを入れた。悲鳴。ダニエルさんではなく、先程から絡んできている男の悲鳴。



「ぎゃあああああ!! いってええええ!! 拳が、俺の拳があああ!!」


「ダ、ダニエルさん!! 大丈夫ですか!?」


「はっはっは。アーマーを着込んでいたからね。彼位のパンチじゃとてもじゃないが、傷すらつけられないよ。なんせこのアーマーは、剣や槍でついてもその刃を通さない上に、衝撃も吸収する使用になっている。私の商品のアーマーを、甘く見てもらっては困るよ。アーマーだけにあーまーく……はっはっはっは!!」



 ダジャレを言って自分で笑っているダニエルさんを見て、ホッとする。でも良かった、無事で。


 でもホッとする私とは正反対に、倒れている男の仲間達は、顔を真っ青にしていた。



「ア、アーマーって……今、アーマーって……」


「それだけじゃない。この狐の女、さっきこのハゲ……じゃない、男の事をダニエルと……」



 ざわつく男達。その中の一人がおそるおそるダニエルさんに近づき、上目遣いで聞いた。



「も、もしかして、あなたはダニエル・コマネフさんですか?」


「いかにも。アーマー屋のダニエル・コマネフだ」


「じゅ、十三商人の一人であらせられます、あのダニエル・コマネフさんですか?」


「そうだ、その通りだ。他に誰がいる?」


「ヒ、ヒイイイイ!! もももも、申し訳ありませんでしたあああ!! どどっど、どうかお許しを!! このことはボム・キング様には……どうか、ご内密に!!」


「それは……そうしてもいいが……しかし君達の態度次第なんじゃないか? 私もいくら自慢のアーマーの上からだといっても、手を挙げられている訳だしな」


「は、はひいい!! も、申し訳ありません!! おい、皆!! 頭を下げろ!!」


『へ、へえ!!』


「それとこの娘にも謝罪してもらおう。この娘は私のものだと言ったが、正確には客人だ」


「も、もちろんです!! 解りましたですーはいー!! ほんと、すいやせんでした!!」


『す、すいやせんでしたーー!!』



 こうしてダニエルさんのお陰で、私はボム・キングのいるという建物の中へと侵入する事ができた。ここにはボム・キングの他に、きっとレティシアさんもいる。


 日数にしたらそれ程ではないかもしれないけれど、私にとってはもう何年も彼女に会ってないような気がする。だから早くレティシアさんの顔を見たかった。

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