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第728話 『ダニエル・コマネフ その4』



 ダニエル・コマネフはソファーから立ち上がると、奥の扉の方へ移動した。そして私に向かって手招きする。



「テトラ・ナインテール。踊り子の姿をしているが、君もクラインベルト王国のメイドだそうだな。しかも、武芸達者のようだ」


「な、なぜそこまで知っているんですか? あああ、あなたは何者なのですか?」



 ダニエル・コマネフはまたニヤリと笑うと、また手招きした。



「私はリベラル十三商人の一人、アーマー屋のダニエル・コマネフだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「で、でも!!」


「考えてみろ。君達はリッカーを訪ねて、問題を起こした。リッカ―といえば、この街最大の情報屋だ。あんな騒動を起こせば、直ぐに調べられる」



 確かにそうだった。リッカーは、情報屋。だから十三商人のうち、最初に会う事をシェルミーは考えた。


 でも逆に調べられることまでは、考えていなかった。既にセシリアがその役になり切って名乗っていたし、私達の事なんて誰も知らないと思っていたから。


 ううん、違う。ローグ・ウォリアーとビースト・ウォリアー。リア達のカルミア村を襲ったバンパを倒した私やセシリア、そしてマリンは『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』に狙われている。


 つまりこの街にいる『狼』も、私達に気づいている。きっと私達がバンパを倒し、メルクト共和国を救うべくこの国へ、メイベル達とやってきた事も知っているはず。



「もう一度言っておくが、私はその『狼』ではない。私がリッカーのもとへ、他の仲間と共に訪ねた時にテトラ。君とも出会ったから既に知っているだろう。私はリッカーとも、普段取引をしている関係だ。だから君達の事を調べてもらう事もしてもらえる」


「じゃ、じゃあリッカーは私達の事を……」


「既に知っている。君達がリッカーのもとを出た時から、つけられていたんだよ。それと、私も君達の正体を彼に聞かされている。いや、正確には興味があったので私から聞いたんだがな。ローザ・ディフェインは有名人だったようで、直ぐに特定できたようだ。シェルミー、彼女もかなりの大物のようだが……それについての情報は、リッカーはもったいぶって教えてくれなくてな。私の方でも調べさせてもらっている。できれば彼女についての事も、今のうちに正直に聞いておきたいが……」



 私は言った。正直に答えた。彼女とはこの街に入る時に知り合ったと。それで街に入る手助けをしてくれたこと。シェルミーがレジスタンスであるだろう事は、言わなかった。そのまま私達に親切で手を貸してくれている、豪商の娘。


 私は、嘘はついていない。それが伝わったからなのか、ダニエル・コマネフは納得したようだった。



「だいたいつかめてきた。心配するな、私はテトラ……君達の敵ではない。それだけは、私の取り扱っているアーマーにかけて断言しよう。しかし私を欺く事があれば、どうなるかは解らない。さて、それじゃいい加減こっちへ来てくれるか」


「は、はい。でも何処へ」



 奥の扉を通ると、また通路があった。そこを歩いた先に、また扉。ダニエル・コマネフに誘導されて、その扉を開けて中へ入る。すると、なんと屋敷の外に出てしまった。ここは……



「中庭だよ。さあ、こっちへ。君を連れていきたい場所は、直ぐそこだ」



 ダニエル・コマネフに連れられて中庭を歩いていくと、沢山の白い花が咲いている場所に出た。とても綺麗な美しい花々。花壇かと思いきや、そこには3つの墓石が建てられていた。


 墓石には、それぞれ名前が刻まれている。


 スザンヌ、トマス、シェレイ。



「スザンヌは妻だ。トマスは息子でシェレイは娘。皆、ここで眠っている。リベラルには墓地もあるが、どうしても家族と離れられなくてな。中庭に作った」



 これは……ダニエル・コマネフの家族。皆、もう……私は思い切って、聞いた。



「コマネフさんのご家族に何があったんですか?」


「これは私が『闇夜の群狼』ではないという証拠だよ。それをテトラ、君に見せた」


「ど、どういう事ですか?」


「私の家族は、盗賊共に殺された。まだ十三商人になる以前の話だよ。私はアーマーではなくババン・バレンバンのような武器商人だった。彼や今の私と違ってもっと、小さな規模の商人だったがね。それである日、盗賊共に襲撃されて商品だけでなく、私の家族も奪われた。つまりそういう事だ、解ってくれたかね」


「……は、はい」



 ダニエル・コマネフの言っている事。それは自分自身よりも大切なものを奪った相手に、力を貸す訳がない。そういう事だった。



「コマネフさん」


「ダニエルでいい。テトラ、君はこの国に救う賊どもをやっつけにきたのだろ? それなら私と同じだ。私は無慈悲な賊に家族を奪われた後、武器商人である事をやめると同時に、自分の大切なものを奪った奴らが何者か調べる事にした。許せないからだ」


「……当然だと思います」


「それで交易都市リベラルにやってきて、私はアーマー屋を始めて、徐々にのし上がっていった。しかしリベラルは当時、ここまで大きく繁栄した街ではなかった。メルクト共和国の一都市であったしな。それを我々十人の商人が、リベラルを大きな交易都市にし、やがては自治都市にした」


「十人? 十三商人ではなくてですか?」


「当時は十人しかいなくて、後に十三人になった。ミルト・クオーン、イーサン・ローグ、そしてキラウという男。その三人が新たに大商人としての力が認められ、十三商人に加わったんだ」


「ダニエルさん。私達はその十三商人の中に、『狼』が潜んでいると思っています。そしてそれはあなたかもしれない。だけど、私はあなたを信じたいです。だから……」


「だから協力してほしい、そういう事だな。実は私の家族の命を奪ったのは、『闇夜の群狼』だという事はこれまでの調査で解った。私も決して、奴らを捨て置けない。だからテトラ、君には全面的に協力をしたいと思っている」



 したいと思っている。


 この言葉には、まだ続きがある。そう思ったけど、私はダニエルさんを信じる事に決めた。


 ダニエルさんが力になってくれれば、きっと『狼』は見つかる。ミルトさんやローグさんも、シャノンの事で助けてくれた。2人もダニエルさんの事のように信じられれば、残る十三商人は残り十人となる。


 セシリア達やレティシアさんも、探ってくれているからそうなれば直に『狼』は見つかると思った。

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