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第726話 『ダニエル・コマネフ その2』



 ダニエル・コマネフから『狼』の情報を引き出す。でもまずはダニエル・コマネフが『狼』でないかどうかを、確かめなければならない。



「それで――セシリア嬢ではなく、テトラ。君が私に会いに来た要件とはなんだ? 本当の所を聞こう」



 ダニエル・コマネフは鋭い目で私の目を見つめた。思わず背けそうになってしまう。だけど、それは駄目。彼が『狼』であった場合……逃してしまうかもしれない。だけど私はセシリアのようには、上手に駆け引きのような事はできない。


 私にできる事。それは……



「ダニエル・コマネフさん!!」


「な、なにかね?」



 私は思わず背けそうになった目で、ダニエル・コマネフの目を見つめた。



「じ、実はいきなりですが、いくつか質問させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」



 キョトンとするダニエル・コマネフ。すると溜息を一度吐くと、目の前のアイスティーに手を伸ばして一口飲んだ。そして――



「どうやら、何かあるようだ。私もこれでもこの交易都市リベラルで、十三商人の一人をやらせてもらっているからね。リッカーを訪ねた時に、初めて君達を見てなんとなく変な感じはしていたよ」


「へ、変な感じですか……」


「ああ。何かあるってね。なるほど……だとするとベルベット家のセシリア嬢がここへきていない理由。傍使いのテトラが、たった一人でこの私に会いに来た理由。これは何か……いや、いいだろう。それで質問というのは?」


「こ、答えて頂けるんですね! あ、ありがとうございます!」


「答えるとは言っていない。もちろん、質問を聞いてからだ。それで答えられるものであれば、答えよう。その代わり、君が何者であるかも喋ってもらう」



 私は、顔を横へ振った。



「すいません。それは……」


「ほう、できないというのか? それでは……」


「コマネフさんに質問をさせてもらって、それから……それから話せると思ったら、話します。卑怯かもしれんませんし、フェアじゃないかもしれません。でも、それ位慎重な事なんです」



 そう言うと、ダニエル・コマネフはソファーから立ち上がる。もしかして、商談の話でもないから怒って部屋を出て行くかもしれない。もしくは、実は『狼』で私達が探りにきたことに気づいて……


 私やセシリアは、クラインベルト王国でバンパという『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の幹部を捕え、そのアジトを壊滅させた。


 メルクトに入ってからは、刺客にも狙われている。とうぜん、狐の獣人のメイドという情報なんて既に知れ渡っているだろうし、私達が『狼』を見つけてやっつけるよりも、先に先手を打たれる可能性も高い。だとしたら、ダニエル・コマネフが『狼』だった場合、私はここで……


 今座っているソファーの横に立てかけた涯角槍(がいかくそう)に目をやる。


 でもそうだとすれば、この屋敷に入る時に武器をお預かりしますとかそういう事を言われて、取り上げられていたはず。リッカーが『狼』かどうかは、まだ解らないけれど、彼の住処を訪れた時には武器を取り上げられた。


 でもダニエル・コマネフは、そうしていない。武器を預かるとは言わなかった。



「コマネフさん!! お願いです、どうか話だけでも!!」



 怒って部屋を出て行くと思った。だけどダニエル・コマネフは、部屋から出てはいかずに、部屋の壁側にあった棚から何かの箱を取り出して、それを開いた。


 箱の中には葉巻。それを自分の鼻につけると、物凄い勢いでニオイを嗅ぐ。そして専用のシガーカッターで端をカットすると火をつけて咥えた。思い切り煙を吐き出して、目を細める。



「フーーー。カナディア王国産の葉巻だ。美味い。他にもドルガンド産の葉巻もある。ドルガンド帝国は、武力で世界征服を狙っていて、多くの罪もない人達を虐げ悪戯に殺している。国自体は最悪だ。だが、葉巻は実に上質なんだよ」



 いきなり葉巻を吸い始めたダニエル・コマネフを目にして、思わずあっけにとられてしまった。だけど同時に、怒らせてしまったのではないと思い、ほっとしている自分もいた。



「フーーー、美味いな。実に美味いな。極上。いや、失敬。私は葉巻とアーマー、これらが大好きでな」



 ダニエル・コマネフはそう言って葉巻の入った箱をテーブルに置いてまたソファーに座り、今度は煙を吹かしながら私と対面した。



「すまんすまん、途中だった。君も葉巻を吸いたいなら、どうぞ」


「いえ、私は……」


「そうか、なら話を続けよう。言ったように、答えられるものと、答えられない……もしくは、答えたくない質問もある。はたまた、代価を要求するものもあるかもしれない。なんせ私はアーマー屋であり商人だからな。それじゃ早速、試しに質問してみればいい。聞こうじゃないか」



 お湯の沸きあがったヤカンのように、煙をモクモクと吐き出すダニエル・コマネフ。私は頭を下げて、彼に質問を投げかけた。



「それではまず、単刀直入にお聞きします。コマネフさんは、『闇夜の群狼』という巨大犯罪組織をご存じですか?」


「ほう、『闇夜の群狼』か。とうぜん知っている。人から物を奪う賊は、我々商人の天敵だからな。だが私の取り扱っているアーマーは、賊の刃では貫けん。それで、それがどうした?」



 何度も思う事だけれど、私はセシリアのようにあれこれと考えを巡らせて、相手を探ったりするという事が苦手だ。



「失礼でしたら、謝罪します。でもまずは、どうしてもはっきりとコマネフさんから聞きたいんです。ダニエル・コマネフさん。あなたは、もしかしてその『闇夜の群狼』の幹部ではないですか? もしそうだとしたら、正直に答えて頂けないかもしれない。ですが、この質問を一度あなたに投げかける事に、私は意味があると思っています」



 そう、顔つきや挙動で何かを感じる事があるかもしれない。どちらにしても、私にはこういう方法でしか探る事はできないから。


 ダニエル・コマネフの目をじっと見る。すると彼は、咥えている葉巻の煙を吐き出すと、一度その葉巻を手に持ってまたアイスティーを一口飲んだ。


 そして私に、アイスティーとスコーンを召し上がれと軽く手を差し出して進めると、私の質問に対して質問を投げ返してきた。

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