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第725話 『ダニエル・コマネフ その1』



 交易都市リベラルの中にある、工業地区。そこに彼の屋敷はあった。ダニエル・コマネフ。この都市で最大の権力を持つ十三商人の一人。


 彼とは、昨日初めて会って、今日会う約束をしていた。時間までは決めていなかったけれど、それを彼から切り出さなかった事を考えると、ダニエル・コマネフは今日は一日中、自分の屋敷にいるのだと思った。



「こ、ここがダニエル・コマネフの家……」



 大きな屋敷。そして入口は、鉄板で作られた扉。確か、ダニエル・コマネフはアーマーの販売を生業にしていた事を思い出す。


 私は鉄板で作られている門を叩く。ゴンゴンっと最初に二回。そして間をおいて三回叩くと、扉が開いてダニエル・コマネフ本人が顔を出した。



「ほう、来たか」



 髪の毛は薄く、肥満体の身体。とても失礼だけど、盗賊にこういう人をよく見かける。だけど低くて太い、とてもダンディーな声は魅力的だと思う。



「テトラ・ナインテールです。きょ、今日はお時間を頂きありがとうございます。す、少しお話を伺えればいいなと思いまして」


「テトラと呼んでも?」


「ええ」


「てっきり……テトラ……君の主人であるセシリア嬢がいらっしゃるのかと思っていたが……君一人でやってきたのか」


「は、はい。駄目だったのでしょうか?」


「いや、駄目だという事はないが……」



 少し怪訝な表情を見せるダニエル・コマネフ。それもそのはず。ダニエル・コマネフは、このリベラルのトップの一人。その一人がクラインベルト王国の貴族令嬢と、時間を作って話をする。これについては、誰もが納得する事かもしれないけれど、その貴族令嬢の使用人……もしくは護衛人と何の話をするのか……普通は、首を傾げるだろう。


 でも私は引き下がる訳にはいかなかった。ダニエル・コマネフが『狼』であるかどうか、そしてそうじゃなかったとしても、何か『狼』に関する手掛かりが掴めないか調査しなければならない。


 ミルトやイーサン・ローグもこの場にいてくれれば、手をかしてもらえるかもしれないのになと弱気になる。


 ダニエル・コマネフは、踊り子衣装の私の姿を頭の先からつま先まで見ると、扉を更に開いて手招きをした。



「まあ、いいだろう。さあ、中へ入って」


「は、はい。ありがとうございます」



 ダニエル・コマネフに手招きされて屋敷の奥へと進む。廊下には、所々にアーマーが配置されていて壁に飾っている絵も、アーマーが描かれていた。よく見ると、ダニエル・コマネフも何か特殊なアーマーを着込んでいる。


 キョロキョロとしていると、ダニエル・コマネフが振り返り言った。



「この家は、アーマーだらけだと思うかい?」


「は、はい。沢山のアーマーが飾られていますね。これは全てコマネフさんの取り扱っている商品なんですか?」


「そうだ。全て、私の取り扱っている商品だ。アーマーは冒険者や兵士だけでなく、最近は旅人にもよく売れる。行商人とかね」


「は、はい」


「盗賊や魔物に襲われた時、アーマーを着込んでいて助かったという話はよく聞こえてくる。この街でもアーマーは、よく売れるんだ」


「そ、そうなんですか。凄いですねアーマーって」


「アーマーは偉大だ。テトラ、君のその姿。踊り子の姿だが、肌が露出しすぎていて防御力にかける」


「でで、でもこの衣装にアーマーを着こんだりなんかすれば、かなり目立つ感じになってしまいますし……」


「はっはっは。確かにそうだ。アーマーは偉大だが、踊り子の衣装と組み合わせれば、目も当てられない不格好な感じになってしまうな。だがアーマーは、やはり偉大だ。テトラ、君の今着ている踊り子の衣装にも似合うアーマーもうちでは取り扱っている。試しに着てみるかね」


「え? あ、はい。でもその……」


「そう言えば、何か重要な話があるんだったな。セシリア嬢であれば、クラインベルトには強力な騎士団が揃っているし、上手くいけば大量にアーマーが売り込める。とうぜん商売の話をとも思っていたが……まあ、いいだろう。こっちへどうぞ」



 ダニエル・コマネフはそう言って、廊下を進んだ奥――客間に私を案内してくれた。



「さあ座って……誰か!」



 ソファーに座ると、ダニエル・コマネフは誰かに向かって声をあげた。すると私達が入室した扉とは違う扉が開いて、メイドが入ってきた。


 私は自分の本来の仕事がメイドなので、自然と他のメイドを注意深く見てしまう。すると早速、おかしな……というか、驚くべき事に気づいてしまった。呼ばれて入室してきたメイドは、なんとメイド服の上にアーマーを着込んでいた。軽量のライトアーマー。



「アイスティーを頼む。テトラ、君のそれでいいかね」


「え? あ、はい。ありがとうございます」



 メイドがアイスティーを運んでくると、続けて別のメイドが何か美味しそうなものを運んできた。焼き菓子。なんと、スコーンだった。


 スコーンはとても美味しそう。だけどもう一人のメイドもアイスティーを運んできたメイドと同様の、軽量のアーマーを着込んでいたので、それが気になってしまって見とれてしまっていた。



「気になるかね」


「え? あ、はい。い、いえ!」


「はっはっは、正直に言ってくれて結構。これも商いの一環だ。私はアーマーの販売の他、より優れたアーマーの開発も行っていてね。見て解るように、自分も含め、常日頃からアーマーを着込んでその性能を試している。アーマーと一言に言っても、剣や矢を防げればいいだけじゃない。耐熱や耐寒使用のものもあるし、そこのメイドが身に着けているが、いかなる作業にも支障をきたさない、機動力重視のものもある」


「な、なるほど。凄いですね」



 アーマーと一言に言っても、色々あるのだなと思った。


 アーマーではないけれど、私がゲラルド様から頂いた一級品の槍、涯角槍(がいかくそう)。これも物凄い鍛冶職人がいて、まだ私は完全には使いこなせてはいないけれど、色々な工夫が考えられていて、沢山の拘りが詰め込められているのだろうなと思った。

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