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第723話 『友達 その2』



 木製の格子越しに、シャノンとの会話を続けた。シャノンは、私から目を背けると、自分の手の爪を眺めながらに語った。



「……私がルーニ様を誘拐した理由、それ位は話してあげるわ。それは、私がスラム育ちで貧乏だからよ。王宮で働いていると言っても、下級メイドでお給金は知れたもの。でも私は、ある日一獲千金の話を手に入れたわ。同時に『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』のメンバーにも入れてもらえるという話で、ルーニ様誘拐の計画を成功させた暁には幹部候補にもしてもらえるとの話だった」


「闇夜の群狼の幹部候補……」


「あんたもそうだと思うけれど、私はもともとスラム育ち。盗みもやったことはあるし、物乞いだってある。今更盗賊に抵抗なんてありもしないし、王宮メイドは単なる食べていく為の働き口だった。だから、あの巨大犯罪組織に入れるなんてチャンス、むざむざ棒になんて振りたくはなかった訳だ」


「それが、シャノン……あなたが『闇夜の群狼』やドルガンド帝国に手を貸して、ルーニ様を誘拐した理由なのですね」



 頷くシャノン。口元は少し笑っている。



「それで、どうなの? 納得したの?」


「は、はい。シャノンがどうしてそんな行動をとったかについては、ちゃんと理解しました」


「そう。じゃあ、もう私に用はないわね。それとも、私に騙された復讐でもする? 私はこの通り、手枷に足枷までされて自由には動けないわ。殴るなり蹴るなり、あなたのし放題よ」


「そんな事、私はしません!! それよりもシャノン、あなたを助けたいです」


「はあ? なんで?」


「そ、それは……それは私があなたを友人だと思っているからです」



 きょとんとするシャノン。そして次の瞬間、のたうつように笑い転げた。



「な、なんなんですか!!」


「アッハッハッハ!! 何処までもおめでたい狐ちゃんね! 人にいいように利用されて、お漏らしまでして」


「お、お漏らしは関係ありません!!」


「アッハッハッハ、お漏らしお漏らしー」


「っもう!! やめてください!!」


「それで、肝心の私はあなたの事を友達だなんて思ってないんだけど……はっきり言って、いいように利用できる便利でおつむの弱い子。それ位に思っているわ。それでも私を助けたいというの?」


「はい! そうです!」



 セシリアとこんなにも仲良くなる、それよりも前――少なくとも私は、シャノンを気の合う友人と思っていた。シャノンは、私の事をそうは思っていなかったというけれど……心のうちはどうであれ、シャノンが私に気さくに話しかけてくれて、親切にしてくれた事実は曲げられない。


 人とどう関わればいいか、辺境の地の村から王都に出てきて、しかも王宮のメイドとしてどうすればいいのか心細かった私に声をかけてくれて、色々と助けてくれた。それだって、間違いなく真実。本当にあった事。


 シャノンの運命は、このままいくと間違いなくクラインベルト王国に身柄を引き渡されて、尋問……もしくは拷問をされてその果てに処刑される。


 私はどうしてもそのシャノンの運命を、受け入れられなかった。


 クラインベルトの王宮メイドであり、陛下にお仕えする私が、王国が現在指名手配しているシャノンをどうにか助けようとしているなんて、王国に弓を引く行為に等しいかもしれない。だけど……だけど……


 橋の下でしゃがみ込んで、煙草を吹かしているシャノンを護送している男達に目をやる。護送についている者は御者を合わせて全員で5人。その全てが冒険者か傭兵を生業としている者。


 ここでは人目につきすぎて無理だけど、私一人でも倒そうと思えば倒せる。そうすれば、あの中にシャノンの手枷足枷、そして檻の鍵を持っている者がいるはずだから、それを奪えば問題なくシャノンを逃がすことができる。



「テトラ」


「は、はい。なんですかシャノン」


「私はもう終わりだ。仮にここで力づくで逃げ出せたとしても、私はメルクト共和国でもこの自治都市リベラルでも指名手配されている。クラインベルト王国の力は、強い。だから今、この檻から逃げ出せたとしても、都市から出る事もなくまた捕まるだろう」



 方法があるとすれば、この街に隠れ潜む『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の幹部である『狼』に助けを求める事。


 シャノンの事をもしかしたら知っているかもしれないし、ルーニ様誘拐事件に関しては、『闇夜の群狼』なら知らない者などいない。『狼』にシャノンが接触できれば、あるいはシャノンを匿ってくれてここから無事逃がしてくれるかもしれない。


 だけどそれは無理だと思った。なぜなら、『狼』は私達が倒すから。そして色々な悪事に手を染める犯罪組織とシャノンを、これ以上は接触させたくないから。


 だから他に手を考えないといけない。



「それでどうする? 私を助けられるのか? そしてその価値があると思うのか? ほら、タイムリミットだよ」



 シャノンはそう言って、向こうを見た。橋の下で休憩をしていた、シャノンの護送をしていた男達が煙草を投げ捨てこっちに上がってくる。


 私はシャノンの目を見つめた。



「いいですか、シャノン。私はあなたを助けたいって気持ちは変わりありません。その結果、また敵対する結果となっても……喧嘩する事になったとしても、私はそうしたいから。だから何か手を考えます。それまでシャノンも決してあきらめないでください」


「本当におめでたいね、テトラは」


「もう時間がないです。シャノンを護送している男の人達ですけど、何処へシャノンを連れていくとか言っていましたか?」


「ッフ」


「いいから、教えてください!!」


「私をメルクト共和国と、クラインベルト王国の国境付近まで護送し、そこで王国騎士団に引き渡す手はずだったようだけど……変更があったみたいで、どうやらこの街で私を引き渡すみたい」


「え? 王国騎士団がこのリベラルに着ているって事ですか?」


「解らない。解らないし、私を護送している連中は金で動く。私と同じ。だから何かイレギュラーな事がおきているのかもしれない」



 イレギュラーな事。兎に角、この場ではシャノンは助けられない。チャンスがあるとすれば、この後。


 それにしても『狼』の情報を掴む為に、アーマー屋ダニエル・コマネフにも会わなくてはならないのに、ホテルを出てから大変な事にあってばかりだと思った。


 でもシャノンと再会できた事は幸運だった。

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