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第721話 『護送している者』



 女剣士と先生と呼ばれていた剣士。そして盗賊団『デビルウォーズ』と、バズ・バッカス。激しい金属音や破壊音などが聞こえ続けているけど、私は女剣士の言葉にあまえてこの場から立ち去った。



「待てー!! 逃がさねえぞ!!」というバズ・バッカスの大声が途中したけど、振り返りもせずシャノンのいる方へと駆けた。


 川沿いのレンガ道を走っていると、だんだんと馬車が停車している橋へと近づいてきた。私は、橋の上へあがると、急いで馬車に駆けよった。馬車の荷台、そこに乗せられた檻にシャノンは入れられている。



「シャ、シャノン!! シャノンじゃないですか!!」


「…………」



 私はシャノンを閉じ込めている木製の檻を両手で掴むと、彼女に声をかけた。シャノンは、はっとしてこちらを振り向くと驚いた表情を見せた。



「テ、テトラ!? テトラ、どうしてあなたがここへ……」


「セシリアや、『青い薔薇の騎士団』のローザ団長も一緒にこの街へきているんですよ!」


「セ、セシリアやローザ団長まで……なぜ、どうして!?」


「それは……ルーニ様の誘拐事件からこうなったと言えば、解ってもらえるでしょうか。私達には大事な使命があって、今は詳しい事はあまり言えませんが……ですが私達は、メルクト共和国を救いに……そしてルーニ様やルーニ様と一緒に奴隷にされて、売りとばされかけていた子供達を助ける為、悪い人達をやっつけに来たという事は言えます」



 シャノンにそういうと、彼女は大声で笑いだした。



「アッハッハッハッハ」


「な、ななな、なんですか!?」


「うるさいぞ!! 何をやっている!!」



 シャノンの笑い声で、馬車の護衛が私に気が付いた。剣や槍に手をかける。



「なんだあ? 貴様、何の用だ?」


「あ、あの、私は別に怪しい者ではないです!」


「ああ、なんだ、踊り子か。踊り子が罪人になんのようだ」



 やはり罪人扱いされている。シャノンは、この人達に捕まって護送されているのだと悟った。



「シャノンは、私のかつての同僚で……」


「そうか、そういう事か。でも悪いな。こいつは罪人だ、俺達も仕事だからな。ほら、離れろ」



 どうしよう、折角シャノンに追いつけたのに……こういう時、セシリアならもっと色々とどうすればいいか考える。ううん、いい考えを思いつく為に、しっかりと状況を観察するはず。


 俺達も仕事……シャノンを護送している男達は、そう言った。男達の服装や装備している武器、人相など観察してみると、王国兵士には見えない。もちろん騎士にも。


 シャノンが指名手配されている理由は、ルーニ様誘拐事件の計画と実行犯だから。つまり指名手配しているのは、クラインベルト王国。


 だけど、やはりこの人達はどう見てもクラインベルト王国の兵士にも騎士にも見えない。どちらかというと……冒険者か傭兵……盗賊って事はないとは思うけれど。


 つまりこの男達の正体は冒険者か傭兵で、賞金稼ぎとしてシャノンにかけられた多額の懸賞金目当てにシャノンを拘束し、護送している。


 シャノンを護送しているのは、正義の為ではなくお金の為。それなら、きっと交渉の余地はある――


 私は持っていた革袋から銀貨を数枚取り出すと、それを目前の男に差し出した。



「なんだ、これは! 何の真似だ!?」


「あ、あの……これは、私からのほんの気持ちです」


「はあ?」


「深い意味はないんです。そこにいるシャノンなんですが、実は私の同僚というだけではなくて……その……友人なんです」


「それで?」


「シャノンが罪を犯した事は既に私は知っています。それで、今護送されている事も……でもここで再会したのは偶然なんです。少しだけ……少しだけ話をさせてもらえませんか?」


「ふーーむ。少しだけねえ、俺達はこいつをさっさと然るべき場所へ届けなければならねえ。できればその間に面倒ごとは起こしたくはないんだがな」


「はい! 面倒ごとなんて、滅相もない! 少しでいいんです。少しだけ、シャノンと話ができてお別れが言えればそれで……」



 私とシャノンを護送している男との会話。それを檻の中から、無表情で聞いているシャノン。男がちらりとそんなシャノンを見て溜息を漏らした所で、向こうの方から橋を渡ってきた男が声をかけてきた。



「ど、どうもどうも、ど、どうしたのですか?」



 その男は痩せていて、目の下にはクマがありとても健康的には見えなかった。それに気弱そうな感じ……この男の人を私は知っている。



「なんだ、あんたは? あんたも俺達の仕事の邪魔をするつもりなのか?」


「いいい、いえいえ、め、滅相もないですよ。ぼ、僕はイーサン・ローグと申しますが、この交易都市リベラルで、十三商人を務めさせて頂いています」


「リ、リベラル十三商人!? 十三商人の、ローグさん!?」


「そ、そうなんです。ぼ、僕はイーサン・ローグ本人です。すす、すいません」



 男達が驚くのも無理はなかった。リベラル十三商人は、この交易都市リベラルの実質上の最高権力者なのだから。市長ですら、その力は十三商人の下に位置する。


 そして私はこの人に一度だけあっている。そう、十三商人の一人であり、情報屋でもあるリッカーの住処で――『狼』に関する情報を入手しに行った時、そこへ他の何人かの十三商人がリッカーを訪ねてきた。その中に、イーサン・ローグはいた。


 イーサン・ローグも私の事を覚えていた様子で、私の顔を見るとにこりと微笑んだ。


 顔色は良くなく、頬も少しこけているけど、彼なりに私を安心させようとして示してくれた笑顔だと思った。

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