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第718話 『女剣士 その2』



 覆面女剣士と打ち合いながら、裏通りからまた川沿いのレンガ道に移動してきていた。それは意図的に私が誘導した行動で、シャノンを乗せた馬車がまだ目で捉えられる場所にあるかどうか確認をしたかったからだ。



「貴様!! 真剣勝負の途中で、何に気を奪われている!! 貴様が今、剣を交えているこの私は、そんな他の事にうつつを抜かしている状態で討ちあえる相手ではないぞ!」


「うっ! くっ!」



 激しい打ち込み。バズ・バッカスは、物凄い圧力と腕力だったけれど、今度の相手はまた洗練された剣術と素早い無駄のない打ち込み。


 だけどやはりバズ・バッカスと違う。彼に追われている時はただただ怖くて、逃げ切りたいって気持ちだったけれど……やはり彼女とは、こうして打ち合っていると、何処までもこのまま打ち合い続けたいと思ってしまう。


 そう、有り体に言ってしまえば楽しいのだ。



「はっはっはっは! いつまでもそんな逃げ腰で、私の剣を受け続けていては絶対に勝てんぞ! いい加減、腰を据えて私と真剣に向き合え!!」


 ギイイインッ!!


 ガァァン!



 鳴り響く金属音。また私と覆面女剣士の周りに、野次馬が集まってきた。私はちらりと川沿い、向こうにまた見えた橋に目を移した。するとその橋の手前で、シャノンを乗せた馬車が停車しているのを確認する。



「馬車が……停車している!! あれなら、追いつける!!」


「何処を見ているか!! 逆賊め!!」


 ギイイイン!!



 再び金属音。覆面女騎士は大きく跳躍し、剣を頭上に振り上げると、落下の力を利用して大きな一撃を放ってきた。私は涯角槍(がいかくそう)を横に倒すと、両手でしっかりと握り彼女の重い一撃を受け止めた。



「むむむ、やるな! 獣人!! この私の連撃を全て凌いで見せるだけでなく、この渾身の一撃を一歩も引くこともなく受け止めるとは!! 逆賊の分際でここまでやる者がいるとは、正直驚いた」


「わわ、私は逆賊なんかじゃありません!! あなたこそ、なんなんですか、わわわ、私達の邪魔ばかりして!!」



 覆面越しにも、女剣士がニヤリと笑ったのが解った。それが意味する事。背筋を冷たい汗がつたう。



「やはり貴様は、危険人物に認定だ!! 特別警戒しなければならないのは、ビルグリーノやマルゼレータ達と思っていたが……考えを改めよう。よってここで仕留めさせてもらう」


「ししし、仕留めるって……」


「五月蝿い、喰らえ!! 雷鳴剣(らいめいけん)!!」



 覆面女剣士の剣は、振り降ろされたまま私の涯角槍と接触したままになっていた。そして覆面女剣士が大声で雷鳴剣と叫ぶと、彼女が持つ剣が激しく光り、辺りへ放電する。


次の瞬間、稲光とともに雷鳴剣から雷撃が迸る。涯角槍。稲光。雷が凄まじい勢いで伝わってくると、私はそのまま強烈な衝撃に撃たれた。



「きゃああああ!!!!」


「悪いな。見た目は可愛らしい娘だが……逆賊なら仕方がない。己の悪事を呪って後悔しろ」


「うぐぐぐぐぐううう!!」



 激しい雷撃。感電した衝撃と痛みで私は、そのまま仰向けにドサリと倒れた。これは……凄い威力……だけどバズ・バッカスが受けたのは、もっと強力だったような気もする。一瞬にして黒焦げになったのだから。だとすれば、私が女だからなのか……この覆面女剣士は、手加減をしてくれた……



「ほう、槍は握ったままか。雷に撃たれて尚、闘志を失わないその不屈の精神。やはり疑問に思えるな。貴様のような美しい武術を身につけた者が逆賊だなんて」



 涯角槍は、握ったまま。でもそれは、彼女が言った不屈の精神ではない。雷の衝撃でそのまま固まってしまって、手が開かないだけ。


 でも、意外だった。彼女も私の事を武芸者だと思ってくれていたようだ。しかも賊が武芸を身に着けるのかと疑問に思っている。『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の一員に、逆賊めと罵られることに対しても、心に引っ掛かりを覚えていた。


 ……この人は、本当に賊なのだろうか?


 覆面女剣士は、持っている剣を私に向けた。とどめを刺すという意思表示を見せる。


 だけど私は不思議と今回に限っては、殺されるかもしれないというような恐怖をあまり感じてはいなかった。それよりも仰向けに倒れたまま、川が続く向こうの方にある橋に目をやる。停車している馬車――それに意識がいっていた。


 なぜ私はシャノンに対して、これほどまでの感情を抱いているのだろうか……きっとそれは私がセシリアとまだ旅にでる前、王宮メイドとしていた頃に彼女とは仲の良い同僚であり、今のセシリアと同様に友人のような存在だと思っていたからかもしれない。


 じっと遠くの馬車を見つめている私に、覆面女剣士は怪訝な顔を見せる。そして私につきつけていた剣を引いた。



「先程からなんだ貴様。橋の方ばかりを注目しているようだが、そこに貴様の仲間がいるのか?」


「はい、以前……同僚で友人だった人です」


「同僚? なるほど、貴様ら逆賊の仲間か」


「私は逆賊じゃありません!! さっきからそう言っています!!」


「貴様は逆賊だ!! ビルグリーノを討とうとした時に、奴らに手を貸して我らを阻んだだろう。コルネウス執政官の時もそうだ。貴様らはコルネウスを取り返しに来た。そのどちらにも貴様の姿があり、私と戦ったではないか!!」


「え? え?」



 確かにそうだ。確かにそうだけど……何かおかしい。



「も、もも」


「桃?」


「違います! も、もしかしてあなたは、『闇夜の群狼』ではなかったりしますか?」



 ふと思った。私の唐突の問いに、覆面女剣士は目を丸くする。演技で無いのは私にも解った。



「『闇夜の群狼』は、貴様らだろうが!! まったく、我々の邪魔ばかりして!!」



 少なくとも私には、彼女が本心を言っているように見えた。でも、どうして……


 そう言えばマルゼレータさんも含めて、ビルグリーノさん達は以前は盗賊だったという話を言っていた。それでボーゲンとも険悪になっていた。


 もしかしたら、ビルグリーノさんやメイベル達、私に覆面女剣士……全員とんでもない勘違いをしているのではないか――そんな考えが頭に浮かんだ。

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