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第715話 『VSバズ・バッカス その1』



 遠くの方に馬車を見つけた。


 あれにシャノンが乗っているかどうかは確認できないけれど、荷台には正方形の檻のようなものが積まれているのがここからでも確認できる。


 つまりほぼ間違いなくあの馬車に、シャノンは乗っている。



「待ちゃーがれええ!! 狐ちゃんよおおお!!」



 虎髭の大男が物凄い剣幕で追いかけてくる。


 辺りにいる通行人や、路上に置いてある物などお構いなしに、跳ね飛ばして向かって来る。暴走。


 もしもあの男に捕まったら、私はどうなってしまうのか。そんな事が一瞬頭をよぎると、ヒヤリとした冷たい汗が背中をつたった。



「待てって言ってんじゃねーかよ!! 待ってくれよおお!! 俺様が救ってやったんだぞおお!! あのままだと、お前はさっきの橋の上にいた賊どもに捕まって、こっ酷い目にあわされていたんだぞおお!! それを俺様が救ってやったんだぜ、少しくらい感謝したっていいんじゃねえか!? ああ!?」



 バス・バッカスの言葉――何かが引っ掛かって私は、駆けながらも後ろから迫ってくるバズ・バッカスに向けて言い放った。



「べべべ、別に助けなんて求めていません!! 何処かへ行ってください!!」


「そりゃねえんじゃねえか!? 助けを求めてなかったって、あのままじゃどうせリンチされて手籠めにされていただろうぜ!! それを俺様が救ってやったんだあああ!! 感謝しろおお!!」


「じゃ、じゃあ感謝します。ありがとうございました。それではまた」


「馬鹿にしてんのかあああ、てめええええ!!」


「ばばば、馬鹿になんかしていません!!」



 追って来るバズ・バッカスは、私の後を追ってきながらも周囲にある物を掴んで、こちらに向けて投げてきた。桶、樽、木箱など。それを私は、避ける。避けられない分は、涯角槍(がいかくそう)で弾き飛ばす。



「おいおいおい、こりゃたまげたぜええ!! なかなかな腕だな。これなら確かに自分ひとりで、あの『デビルウォーズ』とか言ってやがった奴らを全て叩きのめせたかもしれねえ!! さては、何かやってやがるな、あんた!! ますます気にいったぜ、こりゃ絶対に逃がせねえなあ」


「もーーう!! 私は急いでいるのに!!」



 角を曲がる。曲がった所で、振り返って涯角槍を構えた。


 あれだけの巨体、どうみても私の方が足は速いはずだし、離れていても漂ってきていた酒の臭い……かなり飲んでいる。だから絶対に振り切れると思っていた。だけどいざ追いかけてこられると、いつの間にか会話できる程の距離に詰められていた。


 ローザが過去にやられたと言っていたけど、確かにこれは相当な相手――


 こなったら、ここで待ち構えて不意の一撃を入れて意識を絶つしかない。何より追いかけられて恐怖を感じているし、こうしないと逃げ延びられないと思った。


 涯角槍を強く握って、タイミングを合わせて振りかぶる。私と同じように角を曲がってきた所で、強打を叩きこむ。


 …………


 覚悟を決めた。決めたのに、先程まで私を捕えようと迫ってきていたバズ・バッカスは、同じように川沿いのレンガ道から、こちらの建物が並ぶ道の方へと曲がってこない。まさか、私がこっちへ曲がって入ったと同時に諦めてくれた?


 っと思ったのは、束の間――考えが甘すぎた。次の瞬間、背筋が凍るような展開が起きた。なんと涯角槍を振りかぶって、待ち構えている私の直ぐ背後から声が聞こえた。



「おいおいおい、ひっでーーなあ。卑劣な賊どもから助けてやった恩人を、その物凄い槍でブチ倒そうってんだからよー。まあ、おめえのようなお嬢ちゃんの腕力じゃ、俺様にダメージを与える事なんて、まずできねーだろうがよ。なんてったって俺様は外道山賊団の頭領、截天夜叉(せってんやしゃ)バズ・バッカス様だ」


「やあああ!!」



 振り返りざまに後方に向かって涯角槍を振った。自分でも駄目だと思った。このシチュエーションで追い詰められれば、まずするだろう単調な攻撃。それは解っていたのに、私の考えの次へ次へ行くバズ・バッカスに動揺していた。


 薙いだ涯角槍は、ブンっと音を立ててバズ・バッカスの顔面を捕えた。しかしバズ・バッカスは、それを軽々と太い左腕で防ぐと、同時に右腕で涯角槍を掴んだ。引き抜こうとしても、びくともしない。



「ウワッハッハッハ。捕まえたぞ、どうする? 今すぐこの槍から手を放して、また追いかけっこをするか? そうしてもいいが、思うにこの槍は一級品位の品物だろう。そんな宝を捨てて逃げだすのか? もちろんそうすれば、自動的にこの槍は俺様の所有物となるな。こりゃあ、儲けものだぜ、ガハハ」


「ば、馬鹿な」


「馬鹿も糞もあるかよ。名乗っただろ? 俺様は山賊だ。人から物を奪って生きている。これが俺様の生業だ」



 その通りだった。私は今、賊を相手にしている。やっぱり、ここでバズ・バッカスを倒さないと、シャノンには会えないのだろうか。直ぐ、そこにいるのに。



「さあ、どうする。どうもしないのであれば、おめえは俺様のものだあ!! グハハ、こっちこい!!」


「いやあああ!!」



 腕力勝負じゃ、話にならない。脱出するには、これしかないと思った。尻尾の力を解放する。



「うおおお、なんだ!? 尻尾が光り始めやがったぞ!! さては、何かするつもりだな!!」



 私のお尻に生えている4本の尻尾、そのうちの1本が光り輝きだした。



「てえええい!!」



 掴まれた涯角槍を思い切り押し込む。その瞬発的な力にバズ・バッカスは、体勢を少し崩した。


 今だ!! 刹那、涯角槍を引き抜いく。掴んだ涯角槍を、奪い返されたバズ・バッカスは慌ててそのまま私を拘束しようと前進してきたので、その動きに合わせてくるりと回転!! 遠心力を利用したカウンター。外角層の石突部分をバズ・バッカスの腹にめり込ませた。



「げぼおおおっ!!」



 私の得意とする槍術奥義――――方円撃(ほうえんげき)

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