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第710話 『テトラとミルト』



「おおーー!! これはまた女神か天使か!! あなたと今日、ご一緒出来る事、このミルト・クオーン! 光栄この上ない喜びですよ!」


「は、はあ……ありがとうございます」



 ホテルに戻ると、運よく1階ロビーでミルト・クオーンと会う事ができた。そしてアーマー屋ダニエル・コマネフに会いに行きたいけれど、何処に行けばいいのか彼の居場所が解らない訪ねると、ミルト・クオーンには、ダニエル・コマネフの居場所がある程度見当がつくそうで案内してくれると言ってくれた。


 それに私は、素直にあまえる事にした。


 ミルト・クオーンは、このリベラルではコンサルタントという仕事をしているらしい。そしてこの街の十三商人の一人でもある。だから、ミルト・クオーンと行動するという事は、ダニエル・コマネフだけでなく十三商人のうち、二人を一度に調べる事ができて良いと思った。


 こんな事で、『狼』かどうか解るなんて思ってはいないけれど、それでも万に一つって言葉もあるし、もしかしたら小さくても何か手がかりを掴めるかもしれない。そういうのは、地道な事からがきっと大切だと思う。


 だけど……



「しかしーー、あれですね。昨日ラウンジでお会いした時のドレス姿もとても、女神と見紛うばかりに美しいですが、今のなんていうか……踊り子のような服も、とても刺激的でいいですね」


「え? はあ、ありがとうございます」



 そう言ってミルト・クオーンが腰に手をまわしてこようとしたので、さりげなく自然に避けた。


 リベラルグランドホテルを出て暫く道なりに歩くと、レンガ道が脇に続くとても綺麗な川に出る。その川まで歩いた所で、ミルト・クオーンは声をあげた。



「やや、あれは! テトラちゃん。少し待っていてくださいね」


「テ、テトラちゃん……」



 ミルト・クオーンは、川の脇に続くレンガ道に見えた屋台に近づいていく。そしてそこで、何かを購入するとこちらに戻ってきた。両手に何か持っている。



「それは?」


「ああ、これはフルーツジュース。美味しいよ。一つは、テトラちゃんのだからさ。試しに飲んでみて」



 ミルト・クオーンはにこりと爽やかに洗うと、片方のフルーツジュースが入った器を、私の方へ差し出してきた。私は戸惑いながらもそれを受け取ると、ゆっくりと顔に近づけて飲んでみる。



「どうかなー、美味しいでしょ!」


「ごくっごくっごく……お、おいしい! こ、これは、もしかして苺!? 苺ジュース!!」


「正解! テトラちゃんのは苺にしたんだ。テトラちゃん、なんとなく苺好きな感じがしたからだけど、それで正解だったかな?」


「は、はい! ありがとうございます! 野苺……私、昔よく苺が大好きで食べました。暫く食べていませんでしたけど……本当に美味しい」


「そう、良かった」



 フォクス村にいた頃。子供の頃はよく一人で、山に入ったり森に入ったりして遊んだ。同じ年位の子供が、焼き菓子などを食べていたのを見て、凄く羨ましかった思い出がある。


 それでどうしようもなく甘いものが欲しくなった時は、そういう山や森で果物を探して食べた。その時に、野苺はよく食べた。


 ……でもこの苺ジュース、果肉も入っていてすごく美味しいけど、私が食べた事がある自然の苺よりも物凄く甘みがある。むしろ、すっぱさが全くと言っていい程、感じられない。それが不思議で何度も器の中の苺ジュースを覗いては、一口。そしてまた覗いては一口、続けているとミルト・クオーンがにこやかに笑いながら言った。



「美味しいでしょう。リベラルの街にある果物関係は、他とはまた違うんだ。しっかりと美味しくなるように考えられて作られていて、改良もされているからね」


「改良……も、もしかしてデューティー・ヘレントさんの取り扱っている商品なんですか?」


「フフフ、気づいたね。そうなんだ、リベラルにある果実その98%が、全部デューティーちゃんが取り扱っている商品なんだ。メルクト共和国に点在する村々や街に比べて値段は少し張るけれど、味はこの通り極上なんだ」


「凄いですねー。こんなにも美味しくなるなんて」



 感心しながらもジュースを飲み切ると、ミルト・クオーンは、私から空になった器を受け取り自分の分と一緒に、また屋台の方へと歩いていき、お店の人に返した。



「それじゃ、喉の渇きも潤った所でダニエルのうちへ行こうか。今日は彼はきっと自分の家にいると思うよ」


「はい、お願いします」



 ミルト・クオーンは私の方を見る度に、顔だけでなく身体にも目をやっていた。でもそれは、仕方のない事だと理解していた。この場合は、露出の高い踊り子の衣装を身に着けている私が悪い。


 逆の立場だったら、私だって知らず知らずのうちに目がいってしまっていただろうし……逆に目のやり場に気を遣わせてしまって、申し訳ないなと思ってしまう。


 だけどいつものメイド服は、ロドリゲスさんやシェルミーと一緒にいた、ボディーガードのような人達が持って行ってしまったし……


 ううん、正確には預かって頂いているんだけれど……今は返してもらえない。



「テトラちゃん?」


「あっ、はい! すいません! ちょっとボーっとしていました。それじゃ、ダニエル・コマネフさんのお(うち)まで連れていって頂けますか?」


「もちろん。それじゃ案内するから、行こうか」



 ミルト・クオーンに従って歩いて行く。川の脇のレンガ道を二人で並んで歩いていると、ミルト・クオーンが私の方へ身体を寄せてきた。肩が触れそうなくらいの距離。


 ミルト・クオーンとは、昨日会ったばかりだし特に恋愛感情のようなものはない。まあ、正直にいうと恋愛感情と言っても、私は今まで恋をしたこともないし、好きだと言われた事もないから……そういう事は、よく解らない。


 だけど、ちょっと動揺している。すると次の瞬間、ミルト・クオーンが私の手を掴んだ。



「え?」


「フフフ、迷子にならないようにね。この交易都市リベラルは、とても大きな街だから、もしもはぐれたら再び見つけるのに大変だ」



 顔が赤くなる。


 どうすればいいのか困って、慌てて顔を背けてしまった。ミルト・クオーンの爽やかな笑い声に、耳まで赤くなっているような気がした。


 その時、顔を背けた拍子に向こう――川の向こう側を走る一台の場所に目が奪われた。


 馬車は、特殊な造りで荷台には、大きな檻が乗せられており、その中にはなんと私の知っている人が入れられていた。



「え? 嘘……嘘ですよね……そんな!?」



 私やセシリアが見慣れたクラインベルト王国の、メイド服。


 それは、シャノンだった。

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