第709話 『メルクトからリベラル そして成すべき事』(▼テトラpart)
――メルクト共和国、北部に位置する交易都市リベラル。私達は、今そこにいる。
私達のしなくてはいけない事……現在メルクト共和国は、ヨルメニア大陸最大最凶の犯罪組織『闇夜の群狼』に、国規模で襲撃されて大混乱に陥っている。
共和国には、トップに5人の執政官がいて国を治めているそうだけど、クラインベルト王国まで助けを求めにやってきた二人の冒険者、メイベル・ストーリとディストル・トゥイオーネの話では、執政官はコルネウス・ベフォン以外は、全て賊に殺害されてしまったという。
コルネウス執政官は、トリケット村で盗賊達に拘束されていたけど私達がそこへ攻め入り、見事に救出する事ができた。
その後、コルネウス執政官はメルクト共和国首都のグーリエを奪還する為に、ボーゲンやミリスやメイベル、ビルグリーノさん達とそこへ向かっている。
私、セシリア、ローザはその間にボーゲン達とは別行動をとり、このメルクト共和国にやってきた。
理由は、この国へ多くの賊を送り込み、裏で暗躍して盗賊達に国の乗っ取りを指示しているという、『闇夜の群狼』の親玉に狙いを絞って叩いてしまおうと決めたから。その親玉が潜伏している場所というのが、交易都市リベラルだった。
親玉とは、『闇夜の群狼』の幹部の一人でこの国で暴れまわっている賊達に、色々指示を出して国を乗っ取ろうとしている張本人。私達は『狼』と呼んでいる。私達は、その『狼』を見つけ出して倒さなければならない。それでこのメルクト共和国は、一気に息を吹き返すはずなのだ。
私達はリベラルに入るなり、早速『狼』を探し出す為の手がかりを探した。その途中で、同じ目的を持つシェルミーとファーレという、可愛いくて頼りになる姉妹と出会い行動を共にする事になった。
更にこの街には、既にレティシアさんとアローが先行し、『狼』らしき人物のもとへ潜入して調査をしてくれている。
それで解った事。それは、この交易都市であり自治都市でもあるリベラルの街には、市長の他にリベラル十三商人という豪商がいる事が解った。実質、この街の最高権力者はその十三商人である事。
そしてその十三商人の中に、『狼』が潜んでいる事――
現在アローは、私達がこの街に入って最初に会いに行った十三商人の一人、情報屋のリッカーのもとにいて色々と情報を集めてくれている。
アローはボタンインコだけどその知能は、人間と変わらず人の言葉をしゃべるだけでなく、広い知識で黒魔法まで使用する事ができる。
リッカーはそんなアローの事を気に入り、ボディーガードとして雇っているのだ。アローにとっては、この街で情報を集めるのに、一番効率の良い場所に入り込めたことになる。
それからレティシアさんも、十三商人の一人、興行師ボム・キングのもとにいて、色々と探ってくれている。
つまり十三商人のうち、少なくともリッカーとボム・キングが『狼』であるかどうか、こうしている間にもレティシアさんとアローが調べてくれているという事だ。
メルクト共和国には、現在『闇夜の群狼』だけでなく、その混乱に乗じて沢山の盗賊達が入り込んできて好き勝手に暴れている。
その証拠に、コルネウス執政官を助け出す為に途中で立ち寄ったリーティック村でも、女盗賊団『アスラ』やローザと因縁のあった、『爆裂盗賊団』という者達とも遭遇し交戦した。
更に今いるこの街に入る時にも、街への出入口門でいくつかの強力そうな盗賊団を見た。
……こうしている間にも、刻一刻とこのメルクトの国民達は、悲惨な目にあっている。私達は直ぐにでも『狼』を探し出して叩かなければならない。
だから今日は、早速私達で手分けをして調査を開始する事にした。
既にセシリアやローザとは、昨日宿泊したリベラルグランドホテルを出てからは別行動をしている。
セシリアは、ファーレと一緒に昨日リベラルグランドホテルのラウンジやリッカーの住処で会った十三商人の一人、フルーツディーラーのデューティー・ヘレントのもとへ訪ねている。
ローザも同じ。シェルミーと一緒に、他の十三商人を探るそうだ。
別れる時に、ローザは一人でいいと言っていたけれど、私はペアの方がいいと言った。でもそれだと誰かが一人で行動する事になる。だから私が一人で行動すると言った。
なぜなら、正確には私は一人であって一人ではないから。私の中には、今はレティシアさんの精霊のラビッドリームがいるから。
何かあったら、念じればいい。そうすれば、きっとレティシアさんかアローが飛んできてくれて助けてくれる。確証はないけれど、そう思った。だから私が一人でいいと言って皆を説得した。
「さて、それじゃ私も目的の場所に向かわなきゃ」
私が今向かっている場所も、十三商人の一人がいる。皆が調べている者とは、また違う商人。
しかもリッカーの住処で、声をかけてくれた商人。アーマー屋のダニエル・コマネフのもとへだった。
決まれば直ぐに行動を開始しないと。
ダニエル・コマネフは、今日会ってくれるというような事を言ってはくれていたけれど、それでも確実に会えるかどうかなんて、行ってみなければ解らない。だから少しでも可能性が増えるように、もう朝のうち――つまり時間のあるうちから、行動を開始しておいた方が良いと思った。
「あれ、でも……そういえば」
ダニエル・コマネフ。彼の居場所を私は知らない。
私の中にいる兎の形をした土の精霊、ラビッドリームに問いかければ、レティシアさんが反応して教えてくれるかもしれない。
だけどまだホテルを出た所なので、私は一度ホテルに引き返す事にした。
ホテルには、昨日一日支配人を名乗っていたミルト・クオーンがいる。彼ならきっと、ダニエル・コマネフの居場所、もしくは住まいを知っているはず。
……そしてミルト・クオーン……彼もまた、リベラル十三商人の一人であった事を思い出した。




