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第707話 『マリンの考察』



「うっ! くふっ!」


「どうしたんですか、マリン?」



 ゴトゴトゴトゴト……


 気が付くと、ボクは馬車の中にいた。可愛い猫娘、ルキアがボクの顔を覗き込んでいた。



「いや、別にどうという事はないよ」


「そ、そうなんですか? 何かうなされていたようだったから、心配になって……」


「大丈夫、ちょっと悪い夢を見ていた」


「大丈夫ならいいですけど……」



 まだ不安げな顔をして、ボクの顔を見つめるルキア。そしてその隣でルキアと同じように、ボクの事を心配してくれている様子のクロエ。皆、心配性だな。だけど、ボクの事をこうして心配してくれているのだと思うと、嬉しく思う。


 ブレッドの街を離れ、途中エドウィー村によって、その村を襲おうとしていたオークの群れをやっつけた。それからその村の近くでボクは、かつて出会ったメロディ・アルジェントこと、メロとルチル・フチルという二人のマッドサイエンティストと遭遇した。


 二人は、現在ドルガンド帝国の研究員として働いていると言っていた。そしてボクを同じように、帝国の研究員……もしくは、他の何かを手伝わせる為にスカウトに来たのだった。


 ボクは、それを断った。断っただけじゃなく、禍根を残さない為に二人を始末しておこうと思った。だけどできなかった。ボクに人を殺す迷いがあった訳じゃない。邪魔が現れたのだ。


 ジーク・フリート。


 ドルガンド帝国の将軍で、SS級冒険者のヘリオス・フリートと同じファミリーネームを持つ漆黒の剣士。


 声は怪我か火傷か何かは解らないけれど、しゃがれていた。更に全身を真っ黒なフルプレートメイルで覆っていて、どんな顔をしているのかもわからなかった。せめて顔が解れば、例えばヘリオスさんに似ているとか解ったかもしれないのに。


 そうなれば、ジーク・フリートはヘリオスさんの一族である確率は、より濃厚になる。もしもジーク・フリートがヘリオスさんの兄弟であったり、息子とか甥っ子であるかもしれないと思うとゾっとする。


 なぜなら、その強さはヘリオスさん程ではないかもしれないけれど、ヘリオスさんの家系の者ならその強さは異常だと考えていた方がいい。その可能性があるからだ。


 現にボクは、あの男に一度殺された。


 うなされて起きた時、ルキアが声をかけてくれた。その少し前までボク……正確にはボクの分身体だけど、ジーク・フリートと戦っていた。


 そしてジーク・フリートがボク達を追ってこれないように食い止めよう……もしくは、始末して終わらせてしまおうとしたけれど、逆に一瞬でケリをつけられてしまった。


 何があったのか……


 ジーク・フリートを倒す為にボクは魔法詠唱をした。その刹那、踏み込んでこられて先程までボクの意識があった分身体は真っ二つにされたのだ。


 確かに分身体で、ボクの本当の力を出す事なんてできないと思ってはいたけれど、それでもボクの分身体に真っ向から向かってきて勝てるのなんて、ヘリオスさんかアテナ位のものだと思っていた。あとは……ドワーフの王国にいたノエルの祖父、デルガルド・ジュエルズ。あれには、勝てないだろう。


 ゴロゴロゴロゴロ……ギギッ


 馬車が止まった。


 馬車の中には、ボクやルキア、クロエにカルビ、ノエルがいる。そして外でルシエルが御者をしていて、その隣にアテナがいた。


 アテナが馬車の中を覗き込んできた。腕を組んで、居眠りをしていたノエルが目を覚ます。



「どうした? 問題か?」


「ううん、ちょっとここらへんで休憩でもしようかと思って」



 にっこりと笑うアテナ。青い髪に、青い瞳。そしておしゃれなオカッパヘア。


 クラインベルト王国の第二王女だという事は、もはや疑う余地もないけれど……こうして改めてみると、確かに王女である事にふさわしい、整った顔と美しい身体つきをしている。そしてこの細い身体の何処に、あれほどアグレッシブな動きができる力が隠されているのだろうかとも思う。


 そう言えばドワーフの王国でも、巨躯のリザードマンを軽々と投げ飛ばしていた。あれは、己の力ではなく相手の力やテコなどの原理を利用した技だと言っていたけれど、それもまた実に興味深い。


 ボクはこのままアテナ達とパスキア王国へ行って、欲しいものを見つけたらまたテトラとセシリアを追って、メルクト共和国に向かおうと思っている。


 だけど、少なくともアテナ達といる楽しい時間は、まだもう少し続く。だからジーク・フリートやメロなどがその間に襲ってきたら、何としてもボクが食い止めなければならない。


 アテナの言葉で、最初にカルビが馬車の外へ飛び出して行った。そのあとをルキアとクロエが、3匹のバジャーデビルを連れて続く。馬車の中には、ボクとノエルが残っていた。



「降りねーのか、マリン」


「うん、もちろん降りるよ」


「それじゃ、降りろよ」


「ノエルが先に降りていいよ」


「いや、いいよ。マリンが先に降りろって」


「いやいや、ノエルが先に降りればいいよ」


『どーぞ、どーぞ』



 なぜか、そういう空気になって二人だけしかいない馬車の中、二人でコントのような事をしていると馬車を覆っている幌が持ち上がって、そこからルシエルが顔を突っ込んできた。



「おーーい、待ってっぞ! 早く降りろってば」



 ルシエルに急かされてボクとノエルは、馬車を降りた。


 馬車の外に出ると、丁度山の中の小道の途中だった。その小道、下へ向かっている斜面とは逆側の方へ馬車を止めて、その近くでアテナとルキアとクロエが早速焚火を熾し始めていた。


 ここで一旦休憩するのだという。さては、ブレッドの街でコナリーさんからもらった珈琲で、コーヒーブレイクするつもりなのだと思った。


 砂糖とミルクは欲しいけれど、かくいうボクもすっかり珈琲好きになっていた。

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