第702話 『パスキアへ向けて再度出発!』(▼アテナpart)
オークを殲滅した。
やっぱり決め手は、私とノエルのタッグでオークの軍団の進行を塞き止め、その後ろからルシエルに強襲してもらって挟撃を喰らわせられた事。そしてルシエルが、オーク達を率いていたオークキングの元まで突撃して討ち取ってくれたこと。
オークキングはかなりの強敵だったみたいだけど、やっぱりルシエルにはかなわなかった。あまり言うとまた調子に乗るから言わないけれど、こればっかりはルシエルを凄いと思わざる負えない。
デニルとジールも、特に傷を負う事もなく村に戻ってこれた。戻ってくるなり、大声で村の皆にオーク達を討ち倒したと叫んで回る。すると村中の家々から村人達が飛び出してきて、その勝利に喜びを表した。
私達は村長やその奥さん、そしてこのエドウィー村の人達に凄く感謝された。
そして村長をはじめとする村人達には、良ければ村で少し滞在していけばと言われた。
オークの討伐をして村を救ったお礼として、是非もっともてなしたいとの事らしい。それは、とてもありがたいし嬉しい……だけど……
ルシエルは、「ご馳走か!! 御馳走をたらふく食えるのか!!」と言って飛び跳ねて喜んだ。だけど私は、ルシエルの喜びに水をかけるように、村長たちの申し出を断った。もちろん、ルシエルはプンプンに怒る。
「嘘だろー!? まったく信じらんねーぜ!! たらふくご馳走してくれるって言ってんだぞー、こんなチャンスを棒に振るっていうのか!? しかもアレだぞー。こういう場合は、素直にありがとーって言って受け入れるのが礼儀ってもんなんだぞー!」
「だってしょうがないでしょ! 私だって一泊位……って思うけど、パスキア王国に行かなくちゃいけないんだから」
「じゃ、じゃあ一泊だけして行こうぜー! なあ、いいだろ? それなら問題ないはずだ。まだエスデララダ王妃もパスキアについてないんだろ?」
「エスメラルダ王妃ね。まだ到着していないからとか、約束した日まで余裕があるからって言っても、こんな事をしていたらその日に遅れちゃう可能性だってあるでしょ」
「えーーーー。あんなに気乗り、していなかったのにーー? エムドナルド王妃の事も嫌っているって言ってたのにーーい! それとも縁談がノリノリになってきたとか?」
「エスメラルダ王妃っつってんでしょ! それにノリノリにもなってなーい。私はまだ結婚とかそういうのは、考えてないの。今はもっと冒険とかキャンプを楽しみたいの。知っているでしょ? でもいくら嫌でも、一度交わした約束は守るべきだと思っているの。鎖鉄球騎士団、団長ゾルバ・ガゲーロは私も好きじゃないけれど、彼らが手を貸してくれなかったらドワーフの王国での死者はもっと増えていたのは事実でしょ。借りは返すべきよ」
そこまで言うと、ルシエルはニガムシを噛み潰したような顔で、腕を組んで唸った。その周囲では、ルキア達や村長たちも成り行きを見守っている。まったくもー、あとはもう再びパスキア目指して出発するだけなのに。
「しかしよー、アテナ」
「なによ?」
「もっと優しく丁寧に返事してください。オレのナイーブなグラスハートが砕けちまったらどーすんだよ、まったくよー」
「もう、面倒くさいなー。それでなんなの? ないならもう出発したいんだけど」
「解ったよ、解った。それじゃいいよ。その代わり、食料とか酒とか、あと酒や酒、あと肉とかそーいういい感じのやーつは、もらっていくんだろ? それ位はしてもらってもいいんだよな、オレ達活躍したしな。据え膳喰わぬは女の恥って言うしな」
ノエルが、後ろからルシエルの頭を軽くはたいた。
「いてっ!」
「正確には据え膳喰わぬは男の恥っていうんだ。それにそれはまた違う意味だ」
目が点になるルシエル。つぶらな瞳のまま、ノエルに詰め寄る。
「え? じゃあどういう意味なの? おせーて、おせーてよ」
「おい、離れろ! 鬱陶しい!! こ、こら、やめろって! こら、ニオイを嗅ぐな!!」
「はーーー、癒されるーー。ノエルって、なんかあまーいミルクっぽい、やっさしー匂いすんだよなー。こりゃええわい」
「やめろって、離れろって!! お、おい、こいつを引き話すのを手伝ってくれ!!」
ルシエルに襲い掛かられているノエル。そんなノエルをそっとしておいて、私は村長に別れを言った。
「それじゃ、折角の申し出なのに断ってしまって申し訳ないですが……急ぎの用もありますので、私達はもう出発します」
「ああ、ありがとう。もう出発してしまうというのは残念じゃが、また近くに寄った時は遠慮なく訪ねて来てくれ」
「はい、その時はお言葉に甘えて」
ルキアやクロエやマリンも、村人達に別れを言っている。デニルとジールも、もう行くのかと残念そうな顔をしてくれていた。
これ程までに思ってくれているのなら、ルシエルの言うように、もう一日ここに滞在してもいいかなって思った。だけどマリンから聞いた、師匠の話も気になる。そしてこの村を襲ったオークの大群。
何か魔物が活発化してきている気がするし、正直パスキア王国までの道中、何があるか解らないなと思った。
現にここはまだクランベルト領だし、パスキアに入国してからも、王都まではまだまだ距離もある。だから余裕をもって行動しておくという事に越したことはないと思った。
エスメラルダ王妃はいくら待たせてもいいとしても、相手のパスキア王国の王様達を待たせるのは絶対あってはいけないから。
村長にお願いして準備してもらった食料と、まさかの馬車。しかも馬車を引くのは馬ではなく、なんと一頭の大きな牛だった。
でも牛なら徒歩で向かうよりは早いし、疲れも溜まらない。これはとてもありがたい。
ルシエルと戯れているノエルに声をかけると、全員で村の皆から頂いた物資を馬車に積み込んで、私達はパスキア王国に向けて出発――エドウィー村をあとにした。
村長や村長の奥さん、それにデニルにジール。村の皆はずっと、私達が見えなくなるまで手を振って見送ってくれていた。




