第700話 『スカウト』
「ごめんてばマリン。気を悪くしないでよね。自分とマリンの仲っしょ?」
「仲ってなんだい? それは、ボクにはよくわからない。ただ言えるのは、ボクは君に対して会った時から嫌悪感を抱いているという事だけは解るよ」
「しどい、しどいわー! そんな言い草ってしどいよー! 自分はマリンの事が大好きなのに! でもあれかな、自分がマリンの隠したーーい秘密、それをあっそれ、あっそれって掘り起こし探ろうとしているから気に食わないのかな? 図星?」
面倒くさい。思わず、この女に【貫通水圧射撃】のような、強力な殺傷魔法を放ちかけた。
いや、むしろこの場で、この女をさっさと始末しておいた方がいい。そんな感情が沸き上がってくる。
「もしかして、自分をここで殺してしまおうとか考えているんじゃないよねー? だってマリンに嫌われていても自分は、マリンの事が大好きなんだよー。殺すなんてやめちくりよーう」
「これはまた不思議な事を言うね。それならなぜ、そんなに武装させた仲間を何人も連れてきているんだい? 君の方がボクに……もしくはこの村に何かしようとしているんじゃないのかな」
目線をメロから周囲へと向けた。メロの周りには、10人の武装した者ともう一人……隠れている。武装している者達は、ボクやアテナ達のような冒険者でもなく、見るからに兵士だった。
「やーめーてーよ、そんな目で見ないでよー。はなからマリンに何かするつもりだったのなら、もう何かしているよ。でも自分はこうして姿を現しているでしょ」
「それは、ボクが警告したから姿を現したんだよね。君達は隠れて身を潜め、この村に近づいて来ていた。とうぜんこの村が今、オークの大群の襲われている事も知っているよね。そんな気の立っている中で、こうしてこっそりと接近してきているんだ。端的に言って、ボクは君達の事を悪い見方でとらえているよ」
変わらず冷たい視線でそう言うと、メロと一緒にいる兵士の一人が剣の柄に手をかけようとした。それに気づいたメロがその兵士に顔をブンブン振って、あきらかに騒ぎを起こすなといったようなしぐさをしてみせた。
そうだ、あの兵士達。ボクは思い出した。
「……思い出した。メロ、君が連れてきているその者達……ドルガンド帝国の兵士だな。ここは、クラインベルト王国領だけど……それについてもまだ白を切るのかな」
自分達の正体がバレて、血相を変える兵士達。だがメロは落ち着けという仕草をし続けた。
「解った解った、それじゃあこうしよう。兵士諸君、君達はもう帰ってくれ。ここからは、自分だけでいいからさ。ねー」
「いや、しかしそれでは」
「いいからいいから、はいはいはーーい」
一番近くにいた隊長らしき男をぎゅっと押すと、メロは兵士達全員を何処かへ行かせた。これでボクの目の前にいるのは、メロ……それともう一人。
「これでオッケーっしょ! ズバリ、自分の目的はマリン。君だよー。君をスカウトしにきたんだよー」
「スカウト? スカウトって何かな?」
メロは満面の笑みを浮かべると、一歩一歩こちらに近づいてきた。メロ自身は隙だらけだし、一緒にいた武装したドルガンド兵士隊も去った。だけどこの女に気を許すのは、どうも気が進まない。それにまだ姿を現していない隠れているもう一人も気になる。
ボクは片方の手を前に突き出すと、それ以上近づくなとメロに言った。
「そこでストップだよ。それ以上近づくなら、もはや敵とみなして攻撃する」
「えええーー、そんなあ。久しぶりに出会えたのにーい! ハグさせてーさー」
「さっき君は、ボクをスカウトに来たと言ったよね。じゃあ、ここへ来たのは偶然じゃない。それにボクの位置を掴んでいたという事は、こそこそとボクの後を誰かに付け回させていたか、そうでないとしても捜索させていたという事だ。警戒するのは、当たり前の事だと思うけれど」
「いやー、まいった! まいったよ! そうなんだ、実は君の居所を捜索させていて、見つけたと知らせがあったので、こうしてクラインベルトくんだりまで来たんだよ」
「それで?」
「お察しの通り、自分は今ドルガンド帝国で御厄介になっている身さ。でもそれは別に帝国の為に働きたいと思った訳じゃないよ。理由はお金。研究資金や研究する為の素材や施設、そういったものをドルガンド帝国のジギベル・ド・ドルガンド皇帝は約束してくださった」
「なるほど、双方に利益があるからと。それでなぜそれがボクに関係があるんだい?」
「なに言っちゃってんのーもう! おおありだよーーう! マリンは、物凄い魔法使いだし、それにその身体には、あの力も宿しちゃってるんでしょー? 見せて見せて、そんな力どうやったら自分のモノにできるのか、自分も探求者の端くれとして知りたいんだよ……え?」
気が付くと【貫通水圧射撃】を、メロに向かって放っていた。だけど高圧力の水の線は、メロを僅かに外れて彼女の顔を少しかすった程度だった。メロの頬が少し裂けて血が流れる。
メロは頬を手で触れ、おもむろに拭うと手に付着した自分の血を見てその場で腰を抜かした。
「ひ、ひいいい!! 血、血いいいい!!」
「危うく殺す所だった。ボクは自分の事を根掘り葉掘りと詮索されるのは、極めて好まない。それなのに君は、ボクのことをあれこれ詮索するだけでなく、独自に調査もしているようだ。アレを宿しているとも言ったが、それも既に調査済みのようだ。だから、既にボクはドルガンドの兵士たちを目にした時に、周囲20メートルには魔法結界を敷いている。この意味が解るかい? つまりボクがその気になれば、メロ。君とそこに隠れている者は、一瞬で殺す事が可能だ」
「はわ、はわああわわわわ」
先程までとは打って変わって取り乱し、恐怖するメロ。ボクは、更に言った。
「これっきりだよ。このままここから去れ。そして二度とボクにまとわりつかないでくれ。ボクは冒険者としての、今の生き方が気に入っているんだ。気の合う仲間もようやくできた。だから……それが嫌なら、ボクの悩みの種をここで刈り取っておく事にするけど」
そう言うと、メロはふらふらとしながらも立ち上がった。
そして信じられないという顔でボクの顔を凝視したかと思うと、大きく溜息を吐いた。すると先程まであんなに自分の血を見て取り乱していたはずなのに、今度はうって変わって冷静な表情を見せた。
この女、何処までが本当で、何処までが嘘なのか――
読者 様
当作品を読んで頂きまして、ありがとうございます。
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ありがとうございまーす!!\(^ω^)/
この作品も、ついに700話を超えました。
それでも、まだあれが書きたい、これが書きたいと頑張っております。
できるだけ皆様には、楽しんで頂ける作品を投稿できたらいいなーって思っておりますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。
(´ω`)




