第7話 『薬草採取』
――――ギゼーフォの森。
キャンプで、ルシエルに食事を出してもてなした後、夕方まではまだ時間もあるので薬草採取を再開する事にした。
なんとルシエルは、食事のお礼にと薬草採取を手伝ってくれるそうだ。わーい。
ルシエルが特別なのかもしれないけれど、美しい顔立ちをした女エルフが自分の事をオレって言ったり、肉をご所望されたり想像の斜め上を行くような事もあって驚いたが、実は薬草などには詳しいらしい。
流石、エルフが森の知恵者や守護者と言われるだけの事はある。心強い。
「えっへっへー。大量、大量。ルシエルが手伝ってくれているお陰で色々な薬草が短時間で沢山採取できたわ。どうもありがとう」
「そうか。役に立てて良かった」
「色々な薬草を知っているって事は、まあ解るけど沢山見つける事ができるって言うのは……やっぱそういうのって、精霊魔法とか使っているの?」
エルフは、私達人間が一般的に使うような魔法の他に精霊魔法が使える。精霊魔法は、人間でもドルイドというクラスが使用しているので、頑張れば使う事ができるそうだが、精霊との契約が必要な分、通常の魔法より敷居が高いイメージがある。
因みにエルフは、生まれながらにして精霊と契約状態にあり誰でも少し学べば、大小はあれど精霊魔法を使う事ができるそうだ。いいなあ。私は、精霊魔法を使えない。
「そうだなー。あれだなー。薬草を探すぞ! って心の中で念じると、なんとなく薬草が何処にあるか語りかけてくる感じかな。ここだぞ! ここにいるぞ! ってな。薬草が語りかけてきやがるんだ」
「そ……そーなんだ。薬草が語りかけてきやがるんだ…………ふーーむ。薬草と会話しているみたいな感じなのかな。……でも、素晴らしい能力だよ。これから、薬草採取する時は、ルシエルに手伝ってもらおうかな」
それを聞いた途端、ルシエルは驚いた表情で頬を赤らめた。
「ほ……本当か⁉ 本当にオレにまた手伝って欲しいのか?」
「え? うん。だって、私達もう友達でしょ? 一緒にご飯も食べたし、一緒に薬草採取もしたし、ルシエルもそう思っていると思っていたけど?」
ルシエルは、とびっきりの嬉しそうな表情で「うん。勿論だ」っと答えた。
もしかして、エルフの里では友達があまりいなかったのかな。
薬草を十分に採取した上に、野草やキノコも沢山採取できたのでキャンプに戻ってきた。途中、ルシエルが栗鼠を3匹も弓矢で射貫いて狩った。見事な腕だ。
精霊魔法は使える、弓の腕も一流。全く、エルフって種族は物凄い。スペックが段違いだよね。私だってもしエルフだったら、きっともっと伝説級になっているはず……
そう思っていたら、自然にシャドーボクシングをしてしまっていたが、ルシエルの視線が気になったので、慌ててやめた。……さて、焚火の準備をしますかね。
集めて来た薪で焚火の準備をすると、ルシエルがそれに向かって魔法の詠唱を始める。火の魔法だ。
「ちょ……ルシエル、待って」
「ん? どうした?」
ルシエルは、火属性の魔法を中断した。
私は、フッフッフとニヤついて自分のザックからマッチと乾燥させたスギの葉を取り出した。
スギの葉を薪の隙間に押し込んで、マッチを擦って火をつける。スギの葉に点火すると、パチパチと音を立てて火が燃え上がった。
ルシエルは、不思議そうな顔をしている。それもそうだろう、だって魔法で火を付ける方がずっと簡単で合理的なのだから。
「私のキャンプへの……こだわりってやつかな」
「こだわり……?」
「私は、旅して冒険する事も、美味しい物を見つけて食べる事も、キャンプする事も大好きなの。
一言で言ってしまうと、趣味なんだけどね。ルシエルもそう言ったものが少しでも好きになってきたら、私のこのこだわりを理解してもらえるかも」
「キャンプする事が趣味か。…………いいな、それ」
ルシエルは、にこりと微笑んだ。
それから、取ってきた野草とキノコでスープを作り始めた。
「栗鼠もスープに入れるのか? 栗鼠は焼いた方がいいと思うが……」
「うん。いいの。3匹ともこっちへ、頂戴」
ルシエルは、切ない顔をした。
「勿論2匹は、アテナの分だ。そのつもりだよ。でも、オレも1匹は食いたいんだが……」
ルシエルの表情と、その言葉に笑ってしまう。なんて、食いしん坊エルフだ。ルシエルは、戸惑っている。
「いいから、いいから。三匹とも頂戴」
栗鼠を貰うと、慣れた手つきでナイフを使って三匹とも解体する。小さいので、作業は簡単だ。
肉だけ切り分けたら、その肉をナイフで何度も叩いてペースト状にした。
それを見て、顔をしかめるルシエル。
「栗鼠が……折角の栗鼠がグチャグチャになっちゃったよ……」
「まあまあまあ、見てて」
そのルシエル曰く、グチャグチャになった肉を器に入れて練る。そこへザックから取り出した片栗粉を入れ、塩と生姜も入れる。更にコッコバードの卵も割って入れてまた練る。葱に似た野草もあるので、刻んでそれも器へ入れる。更に練り上げる。
「栗鼠のつみれの出来上がり~」
「つみれ? つみれってなんだ?」
練り上げた物をスプーンで掬って丸い形にしたら、スープに投入。ゆで上がると、リスの肉団子……栗鼠のつみれスープの出来上がり。
「ほおーーーー。……ちょ……ちょっと味見させてくれ。……パクっ……モッチャモッチャ……これは、美味い!! とんでもなく美味いぞ!!」
ルシエルが目を丸くさせながら、掻き込むように栗鼠のつみれスープを貪る。
「うんめーー!! んぐ……ング! しかし、ング……アッ……テナは、料理上手いなあ」
ルシエルの口から、何かが勢いよく飛んでくる。
「こらこら、口に物が入っている状態で喋らない」
「うんめーー!! だって、こんなうめーー……ごふうっ!!」
「慌てない! ゆっくり、落ち着いて噛んで食べなさい。はいっ、水飲んで!」
それから暫く、食事を楽しんだ。
二人で美味しく食べていると、いきなり森の茂みから10匹以上のゴブリンが飛び出してきた。
――――しまった!!
またキャンプ設置前に聖水を撒くのを忘れていまっている。その事に気づいたがもう遅い。ゴブリン達は武器を構えて敵意むき出しの凶悪な顔でじりじりと近づいてくる。
「スープの匂いに誘われたか? 残念だがもうスープは、ないぞ。オレの腹の中だ」
「ゴブリンは、こうやって集団で旅人を襲って食べたり、荷物を奪ったりするの。ここは、私がやるから下がっていて」
そう言った時には、ルシエルは弓を掴んで矢を射っていた。
素早く、3発。矢は全てゴブリンの眉間を射貫く。
「凄い!! やるわね」
仲間がやられ逆上したゴブリンが一斉に武器を振り上げて襲い掛かってくる。
棍棒を避け、心臓にひと突き。更に、隣のゴブリンの首を刎ねる。ルシエルも、尋常ではない動きでゴブリン達を翻弄し矢で射貫いていく。
あっと言う間に、残り3匹。
破れかぶれのように剣を突き出して来たゴブリンの一撃を、かわしながら流れるように間合いに入り込み
斬り殺した。
それを見て残りの2匹が武器を放り投げて、逃げ出したがルシエルの追撃の連続して放った矢は、見事に2匹とも射貫いた。
ルシエルは、とんでもなく強い。
「最初に出会った時に、オレはアテナにあっと言う間に奇妙な技で投げられた。あの時に思ったんだが、アテナは物凄く強いな」
「ルシエルこそ。とんでもない、弓の使い手ね。でも、お互いに怪我がなくて良かった」
しかし、そう思ったのも束の間。
ゴブリン達の攻撃によって、テントの側面が破れてしまっている事に私が気付いて悲鳴をあげるのは、このすぐ後の事だった。
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〚下記備考欄〛
〇アテナ 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、物語の主人公。最近アテナの中では、薬茶作りがマイブーム。クラインベルト王国に点在する色々な森で、様々な薬草を採取しては自分好みのお茶を作るのに夢中になっている。その薬草採取の為にギゼーフォという森に訪れた際に、ルシエルというハイエルフと出会う。ルシエルに食事をご馳走すると、彼女は薬草採取を手伝ってくれると言った。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
お肌がプリプリピッチピチの114歳。長い髪の金髪美少女エルフだけど、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」。野菜より肉が好き。食事をご馳走してくれたアテナの薬草集めと言う変わった趣味を手伝ってやる事にした。とても立派な弓を所持しており、エルフお得意の精霊魔法も使いこなす事ができる。
〇ゴブリン 種別:魔物
小鬼の魔物。最も冒険者と戦っている定番の魔物。背丈は人間の子供位の大きさだが、性格は残忍冷酷。獲物をいたぶる趣味もあり、極めて醜悪。だいたいは群れで行動しているが、ゴブリンキングなどがボスとして君臨し何百何千匹となる群れもある。そうなれば、村や街を襲う危険な魔物。冒険者ギルドでも、ゴブリンの討伐依頼は常に張り出されている。
〇栗鼠 種別:動物
可愛いよね。どんぐりなど、木の実が大好物。アテナは昔、ムササビを見つけて「でっかい栗鼠がいる!!」と叫んで大騒ぎした事がある。ムササビも可愛いけどね。
〇乾いたスギの葉 種別:アイテム
森や林で入手できる。スギは油分を多く含んでいるので渇いた葉などは冒険者などが焚火をする際に着火剤として使用できる。