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第696話 『穏やかな警備員、マリン』(▼マリンpart)



 オークの大群がこのエドウィー村に攻めてくる事を知り、ボク達一行はそのエドウィー村の防衛の助けをする事になった。


 既にアテナやルシエルやノエルは、オーク達を迎撃するのに村の外に飛び出して行った。血の気の多い仲間達には、まさに望むところだろう。アテナもなんだかんだで武闘派だからね。戦いを楽しむところは、見ていて解っている。


 そんな訳で血に飢えた迎撃チームと、この穏やかなボクを筆頭にした、血を好まない防衛チームに分かれて村を守る作戦を決行する事になった。


 ボクは当たり前過ぎて、今更言うのもくどいかもしれないけれど、血は苦手だし争うごとも嫌だからね。平和を好む、穏やかな魔法使い、端的に言ってそれがボクだ。


 つまり村にはボク、ルキア、カルビ、クロエとやっさしーー、とてもやっさしーーチームが残ったという訳だ。プフ。



「きゃあああ!! オークよ、助けてーー!!」


「むっ、村人の悲鳴か」



 目を向けると、村の周囲に作ったバリケードのすぐ外に、2匹のオークの姿が見えた。それを見た村の娘がこちらに逃げてくる。


 ふむ、これはアレだな。アテナ達の討ち漏らしに違いない。まあ村の周囲は森だし、攻め寄せてきているオークの数も尋常じゃないと聞く。それならば、1匹2匹こうして抜けてくるのは、ごく自然な事なのだろう。もちろん僕は、こういう事になる場合の事も想定済みだった。だから迎撃に行かずに、ここに残っている。


 だがここで初めて明かすかもしれないが、ボクは極めて平和主義者なんだ。相手が魔物だからといって、理由もなく痛めつけたりはできない。そうさ、今までも魔物を倒したことはあったけれど、それには全てちゃんとした理由があったのだ。


 ボクは急いでオークのいる方へ移動すると、オークに向かって丁寧に説いた。



「これ、止めないか、オーク達よ。この村を襲うのをやめて、自分達の住処に帰るといい。そこで静かに暮らすといいだろう」


 ブヒッ!



 優しく諭すように語りかけた途端、オークはボクの言葉に耳を傾ける様子もなく、あろうことか槍を投げてきた。その槍がボクの腕をかすめる。


 ボクは、人差し指をオークに向けると躊躇することなく呟いた。



「《貫通水圧射撃(アクアレーザー)》!」


 ブッヒイ!!



 指先から高速で迸る、高圧力の水の線がオークの身体を撃ち抜いた。それを目にして逃げようとするもう1匹の背にも発射して命中させる。あっという間に2匹のオークを血祭り……いや、水祭りにしてやった。



「ふう……だから血を見るのは、嫌いだと言っているのに……」



 トボトボと歩き、先程オークを見て逃げてきた村娘に声をかける。



「大丈夫かい」


「あ、ありがとうございます、冒険者様!」


「気にしないでくれ。槍を投げられたものだから、驚いてつい反撃して殺してしまった。(ろん)せば殺さずとも退けるかもしれないと思って、試してみたんだけれど……魔物と心をかよわせるというのは、なかなか難しいものだね」


「は、はあ。そうなんですか」


「ふむ。とりあえず、外は危険だから家の中へ入っていた方がいいよ。きっと全て、片がつくまでさほど時間はかからないはずだから」


「はい、ありがとうございます」



 村娘はそう言って、自分の家へと駆けて行った。ボクはその姿を見送ると、再び村の中を巡回して回った。


 すると今度は村長の家の方から、悲鳴が聞こえた。この声はルキアの声。ボクは急いでルキアのもとへ駆けつけた。



「おおーーい、大丈夫かーーい? マリンだけど。今、ルキアの悲鳴が聞こえたので、様子を見に来たよ」



 坦々とした口調であると言われれば、特別否定はしない。だけど心配をしているというのは、本当の事だ。


 村長宅の扉をノックすると、村長の奥さんが中から顔を出した。



「あら、マリンさん」


「ルキアの悲鳴が聞こえて……ちょっと中へ入って様子を見てもいいかな?」


「それはいいけど……」


「じゃあ、ちょっと失礼します」



 ズズイっと中へ入る。するとそこには、ひっくり返って、なんだか白い液体まみれになっているルキアとクロエの姿があった。う……しかも、凄く乳臭い。この白い液体は、ボクが推測するに山羊か何かのミルクだな。



「マリン!」


「マリンさん!」



 二人ともこちらに気づく。ルキアとクロエの周囲を、常に落ち着きなく徘徊する3匹のバジャーデビルの子供。なるほど、だいたいの察しはついた。



「ルキアの悲鳴が聞こえたから、様子を見に来たんだ」


「え? 私の声、そんなに大きかったですか!?」



 大きな目をぱちくりさせながら、驚くルキア。三角の尖った耳に、可愛い尻尾。カルビもそうだけど、ルキアは、アテナチームの可愛い担当ナンバー1だな。


 そんな事を考えて目を細めていると、ルキアが床に飛び散ったミルクを指さして言った。



「見てください。バジャーデビルの子供達にミルクをあげようとして、それでクロエと準備をしました。そしていざあげようとしたら、急に暴れ出してこの始末なんですよ」



 目をやると、転がったり床や柱に、やんちゃに爪を立てたりしているバジャーデビル。3匹のうち、2匹しかいないと思って部屋を見渡すと、部屋の隅でカルビにじゃれつく残り1匹の姿があった。


 じゃれつく際に爪や牙を強く立てているようで、何度も顔を顰めるカルビ。隙を伺って脱出を試みようとすると、再び捕まって玩具にされている。今のカルビなら、本気になれば簡単に脱出はできるのだろうが……あえてしない。


 つまり、カルビはアテナチームの中で、一番の大人だという事を物語っていた。



「ふう……仕方がない。村の巡回警備もあるから、少しだけならいいよ。ミルクをあげるのをボクも手伝おう」


「ほ、本当ですか!」


「うむ。でも期待しないで欲しい。自慢じゃないが、ボクは何かにミルクとかそういうのをあげた経験がないからね。過度な期待は、禁物だよ」


「はい、大丈夫です。それじゃクロエ、そっちにいる子を捕まえて。マリンは向こうの!」


「は、はい!」


「ふう、了解した」



 ルキアがテキパキと指示を出す。ボクとクロエはそれに対してあたふたとしていただけだった。


 しかしこの3匹のバジャーデビル、こんな魔物の子供を拾ってきてしまって……ルシエルには、ちゃんとした考えがあるのだろうかと心配になった。

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