第693話 『エドウィー村防衛戦 その6』
ブヒイイイイイ!!
襲い掛かってくるオーク共を片っ端から、射殺した。当初は100匹位いるんじゃないかって話していたけれど、実際は余裕でその100匹を超えている。
オークでなくても、こんな数の魔物が大行進してくるのは珍しい。以前にもロックブレイクで、アシッドスライムの群れと戦った事や、ドワーフの王国でもリザードマン帝国と戦いを繰り広げたが……それでもこれ程までの数の魔物が、軍団となって人間の住む村を襲うのは珍しい。
既にオレ一人で40匹程倒した。でもまだまだオークはいやがる。これは、オーク共の行く手を阻んでいるアテナの方は、こっちよりも大変かもしれないな。でもまあノエルもいるし、心配もないか。はっはっは。
そんな事を考えながらも、動きを止めずオーク共を翻弄して更に弓矢で倒していく。ここまでたった一人で倒して見せると、流石のオーク共にも恐怖や躊躇いのような感情が見えてくる。そりゃ人間でも魔物でも死にたくはないもんな。
後ずさりするオークは後回しにして、前に出てくるオーク共を倒していると、ついにオーク軍団の中から1匹の強そうなオークが姿を現した。
こいつは、明らかに他のオークと毛並みが違う。まあオーク相手に毛並みっていうのも、あれなんだけどな。兎に角違う。
まずあの身体。もともとオークは人型の豚の魔物で、基本的には肥満体の身体をしている。あいつも確かにそれはそうなんだが、他の奴よりも何と言うか、全身の筋肉がギュっとなっているっていうか……肉体が鍛え抜かれている感じがした。
あとあの鋭い目つき、強者である事を裏付けているとオレは思う。更に極めつけのあの偉そうなマント。うん、これは間違いないな。あいつはきっとこのオーク軍団のボス、オークキングだ。
そうと解れば、このまま突っ立っているのももったえない。計画通りにオレがここで大将首を獲って、一気に勝負をつけてやるぜ。
「ようようよう、こっち見やがれってんだ! オレの前に姿を現したが最後だ、覚悟しやがれー!!」
弓に矢を添える。そしてオークキングの眉間に狙いを定めようとした。刹那、オークキングは周囲にいる大盾を持ったオークに命令して自分を守らせる。くっそー、なかなかやるなー! これじゃ狙えんぞ!!
試しに1発2発と射ってみたが、守りに入ったオークの大盾に矢が突き刺さるだけ。ちくしょー、こうなったら精霊魔法でぶっ飛ばしてやる。それで仕留められなくても、崩して一気に距離を詰めれば終わりだ。
バシンッと合掌して、風の精霊魔法を詠唱する。するとそれを見越していたように、オークキングが動いた。オークキングは、思い切り跳躍して自分を盾で守ってくれていたオーク共から飛び出すと、両手に持っていた何かを思い切りこちらに向けて投げた。二本――なんだ、あれは!?
フォンフォンフォンフォン!!
「うおっ!! 危ねええ!!」
回転して飛んでくる何かを咄嗟に避けつつも、すれ違いざまに目で確認する。手斧。オークキングは手斧をオレに向かって投げてきていた。
ブヒイイイイ!!
「あんにゃろおお!! なんてもの投げてきやがるんだ!!」
なんてものって言ったのは、当たったらただじゃ済まなさそうなので言っただけだ。武器として使用する手斧は、別名トマホークと言って、投げる事も一般的な攻撃方法だ。
ってそんな悠長な事を思っている暇はなーい。オークキングに視線を向けると、オークキングは新たな手斧を両手に持ちつつも、子分のオーク共と目前まで迫ってきた。
ブッキイイ!!
「ぎょえええ!! あぶあぶ危ねえって!! ひいいいい!!」
一気に距離を詰められた。最初のオークキングの攻撃、オレの脳天に振り下ろす手斧をかわすと、すかさずそこに他のオーク2匹の攻撃がくる。
2本の槍を避けると更に別のオークの斧。転がって回避すると同時にそいつの胸に矢を放ち、更に迫ってくるオーク共の攻撃を避けながらにバスバスと矢を放ち、倒していった。
気づくと目の前にはオークキングと、4匹のオーク。
残るオーク全体の数は、まだまだいて列を作ってはいるが、こちらの様子を気にはしているもののオレ達からは完全に離れて行っている。自分達の親分、オークキングが負けるとは露程にも思わずに、エドウィー村へ向けて進行しているのだ。
オレは、オークキングとその子分達に向けて言った。言葉が通じるかは解らないが、言っている事はなんとなく伝わると思ったからだ。
「残念だが村は、襲えねえぞ。なぜならお前の子分たちは、オレの仲間に阻まれているからだ。いくらか抜けても、村にも強力な冒険者がいる。そして親分のお前は、オレの活躍によって早くもここで脱落するからだ」
5メートル程の距離にいるオークキング。その眉間に矢を撃ちこめば、それで片が付く。しかもこの距離だ、きっと外さない。弓に矢を添えようと矢筒に手を伸ばした瞬間、オークキングが先に手斧を投げた。
「うおおっ!! この野郎、矢を放つ隙を与えない気だな!」
今度はオレを四方から囲む形でオーク達が襲ってきた。これはまずい。調子に乗って弓矢を見せすぎた。もはや完全に警戒されてしまっている。
このまま距離を詰めたまま、一気に力押しでオレを仕留める気だ。しかもこのまま取っ組み合いにでもなったら、腕力勝負じゃ俺はオークにとてもかなわないだろう。
ならば、仕方がない!!
ブヒイイイ!!
1匹のオークが槍で突いてきたので、それを弓で払いつつも一連の動作で弓を背負い、帯刀している太刀『土風』を抜いた。
抜いた拍子に、槍を手に持つオークを斬った。これでオレを取り囲んでいるのは、オークキング1匹とその子分3匹。全部やって、村に進行しているオーク共の尻を狙えば、塞き止めているアテナとノエルとサンドイッチにできるって訳だ。
勝利への構図が、オレにははっきりと見えた。




