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第692話 『エドウィー村防衛戦 その5』(▼ルシエルpart)



 森の中をひたすらにエドウィー村へ向けて突き進む、オークの軍団。いったい何の恨みがあって村を襲ってきているのか。それとそんな数のオークが、集まり群れになる事があるのか。


 色々と解らない事はあるけれど、それでも事実は事実で受け止めなくちゃいけない。


 つまり何としてもオレ達は、オーク共の進行を阻止する。その為には、今も攻め寄せてくるオーク軍団にこちらから打って出る事にした。


向かって来るオークの正面には、アテナとノエル。それに道案内にデニル。そしてこっちは、オレとジール。既にオーク共の軍団の後ろに回り込んでいた。



「ル、ルシエル。俺はどうすればいい?」


「ああ、心配するな。オークに突っ込むのは、オレ一人だからな。ジール、チミはそこに隠れて、オレの雄姿をしっかりとその目に焼き付けていなさい。そして見事、オークの親玉をぶっ倒して村を救った暁には、そのオレの雄姿を伝説としてエドウィー村で語り継ぎなさい」


「え? 語り継ぐとかそんな事を言われても、俺はあまりそういう何か人に語って聞かせるのは得意じゃな……」


「頼んだぜ、ジール。オレの英雄譚を老若男女、皆に聞かせてやっておくんなましよ」


「いや、ちょっと待てよ。だからそんな事言われても、誰かに話をして聞かせるとかそういうの、俺は苦手なんだよ……ってもう行っちゃってる!!」



 頼んだぜ、ジール! オレの活躍を少しでもこの世に残して、それを後世にまで語り継ぐんだ。そうすればオレはやがて超有名になり、誰にとっても英雄的人物となるわけだ。ウヘヘ。


 そしたらきっと、アテナやルキアのオレに対する態度が大きく豹変するだろう。これからは。ルシエル様とかルシエルお姉様って呼ばれてしまうな。媚を売ってくる2人のやらしい顔が、目に浮かぶぜ。ウハハのハー!


 ニヤつきながらも、オークの軍団の後方についた。まだ気づかれてはいない。オレはスっと立ち上がると、弓矢を構えて強く引き絞った。弓に添えている矢は、計3本。



「それじゃ、早速初手で3匹だ! トリプレットスナイプ!!」



 人差し指と中指、中指と薬指、薬指と小指。同時に3本の矢がオーク目掛けて飛んでいく。そして同時に3匹のオーク、それぞれの後頭部に矢が深々と突き刺さった。糸の切れた人形のように、ゴロンとその場に崩れ落ちるオーク共。


 他のオーク共は、それでやっと自分達が攻撃されていると気づいて、後方を振り返る。叫ぶ。しかし、もうそこにはオレの姿はない。


 オーク達の近くの草陰からバっと姿を現して、再び矢を放った。今度は、一本の矢を次々と連続で素早く射る。あっという間に更に5匹のオークを射貫いて倒した。どれも狙った場所は眉間。



 ブギイイイ、ブギイイイイ!!



 オークリーダーが現れた。周囲にはまだ大勢のオーク、そして傍らにはハイオークまで従えている。それに仲間を殺されて相当怒っていやがるな。いいぞいいぞ、逆上した奴はやりやすい。



 ブッギイイイ!!



 オークリーダーは、手に持っている槍を振りかざしてオレの方へ向けた。そして何やらブヒブヒと言って叫んだ。


 きっと、あいつだ! あいつを捕えろ! 殺してもかまわーん! 的な事を言っているんだと容易に想像がつく。


 オークリーダーの指示でこちらに向かって来るオーク共。ここである事に気づく。こいつら……飛び道具を持っている奴がいねえ。皆、近接武器だ。それなら……


 オレは再び弓に矢を添えて、こちらに直進してくるオークを次々と射貫いた。3匹射殺すと、そのままコロンと転がって草場に身を隠す。混乱するオーク。


 オーク共が距離を詰めてきて、オレが身を伏せた草場に、武器を突き刺したり払ったりする。だがその頃には、オレはもうそこにはいない。反対側、つまりオレの方へ向かってきていたオーク達の後方へ再び周り込んでいた。



「喰らえオーク共!! 森の守護者と呼ばれるハイエルフ相手に、森で勝負を挑んだのが間違いだったな。ってこの場合は、挑んだのはオレの方か! てへぺろ!」


 ビュンッビュンッ



 矢。3匹、4匹と続けて倒していると、もしかしたらこのままオレ一人で、オーク共を殲滅できるのではないかと思い始めた。でもアテナが言っていた事を思い出して、考えを検める。


 これは、オークを殲滅すればいいって単純な戦いではなかった。アテナは1匹でもこのオークがエドウィー村へ辿りつくことを恐れていた。


 そう、オレやアテナにとっては、ぜんぜん勝てる相手だとしても、オークという魔物は本来人々の間では恐ろしい魔物として認識されている。普通の村人からしても、オークに襲われたからまず勝負にならずに殺されてしまうだろう。


 だから、オレ達が喰いとめなければならないんだ。


 だがアテナは懸念していた。これだけの群れだ。多少は討ち漏らしがあって、そいつらが村に辿り着くかもしれないと。


 でもその為に、ルキアやカルビ、マリンも村に残って警戒してくれている。オレはオレにできる事を全力でやれば、きっと村や村人達は全員無事に乗り切れるはずだ。


 ブギギイイッ!!


 今度は、丈夫そうで大きな木製の盾を構えたオーク共が一斉に襲い掛かってきた。試しに矢を射ってみたが、とうぜん矢は盾に突き刺さりそこで止まる。



「この野郎、魔物のクセに考えやがったなあー。それならそれでいいさ」



 オレは弓を背負うと、両手を正面に突き出して精霊魔法を詠唱した。



「オーク共め!! 全部吹き飛べ!! 《竜巻発射(ウインドバスター)!!》」



 翳した両手から、竜巻を発生させてオーク共をたちどころに吹き飛ばした。オーク共は悲鳴をあげつつも、その身体を巻き上げられて周囲にある岩や木々に打ち付けられた。


 目の前には、あっという間に何十匹というオークが転がったが、同時に竜巻発射(ウインドバスター)の威力で多くの森の木々がへし折れていた。



「ま、まずい。森の守護者がこのありさまでは、まずいぞ……森を破壊したと、お、怒られるかもしれんぞなもし」



 もしもこの惨事をアテナに見られでもしたら、凄く怒られるんじゃないか……そう思うと、さっきまで戦闘で熱していた身体の熱がスッと冷めてしまった。

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