第690話 『エドウィー村防衛戦 その3』
デニルかジール、どちらかと二人で向かおうとしたけれど、ルシエルがジールと二人で行くと言ってさっさと行ってしまった。
まったくもう、ルシエルは。凄くアクティブなのは、いい事なんだけどね。
そんな訳で、私はノエルとデニルの3人で、オークの軍団が向かって来るという方へ急ぎ向かった。
ロンダリ村の周囲には、多くの木々がありいくつもの森に囲まれている。奇襲には、向いている地形かな。
とりあえず私達は、オークの進軍を阻む形で正面から向かう。それでもって意気揚々と進軍してくるオーク達の出鼻をくじいた後に、できるだけ注意を引き付けて可能な限り喰い止める。そしてルシエルには、背後から突いてもらって敵を混乱させて、それに乗じて親玉を討てるようなら討ってもらう。
うん、我ながら完璧な作戦。
デニルに道案内をしてもらい、森の中を駆ける。考えてみればノクタームエルドでは、かなり名の売れている冒険者なのだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど、ノエルも遅れずちゃんとしっかりついてきていた。
「もう少しだ。もう少しで、村へ向かってきているオークに遭遇するはずだ」
デニルがそう言うと、ノエルは鼻息を荒くした。
「オーク共を、ボッコボコにしてもいいんだよな」
「いいよ。敵はオークだから、おそらくその可能性は低いと思うけど、逃げ出す魔物まで追って行ってやっつけなくてもいいからね」
「え? それだと禍根を残すんじゃないか。後で仕返しに来るんじゃねーか?」
「うーーん、どうだろう。ゴブリン相手ならそうかもだけど、オークはどうかなー。戦意喪失しているものまで息の根を止めるというのは、あまり気が進まないけれど……ノエルが正しいと思う行動をしてくれればいいよ」
「……うーーん。難しい事を言うな、アテナは。それはアレか、道徳的な考えって奴か?」
「あはは、どうだろう? 私は別に道徳とかそこまで考えてないけど。単に、後悔して逃げているものまで追い詰めなくてもいいかなって。それは人間でも魔物でもね」
「ふーーん。まあ、解った。でも向かって来る奴は、ボコボコにしてもいいんだろ?」
「うん、もちろんボコボコにしていいよ。村を襲おうとしているオークに遠慮はいらないから」
そう言うとノエルはなぜか嬉しそうな顔をして、ニヤリと歯を見せて笑うと、拳をパンパンっと打ち鳴らした。これは頼もしい。
「おい! 皆、屈め!」
デニルが小さく放った言葉に反応して、私とノエルは身を低くした。そしてデニルに近づく。
「どうしたの? オーク?」
「ああ、そうだ。だがもう少し先だと思っていた」
森。木々に身を隠しながら覗き見ると、確かに6匹のオークがいた。手には斧やら槍やら持っている。ノエルがまたニヤつく。
「どうしたの、ノエル?」
「丁度偶数でいい感じじゃねえか」
ノエルのその言葉に、デニルは驚いた。
「ままま、待て待て! 相手はオークだぞ! しかも6匹もいる。いくら、腕が立つと言ってもあんたらまだ年端もいかない女の子だろ? 俺にいい考えがある。まずここから俺がボウガンで2匹……いや3匹は片づけてみせる! そうすれば、3対3だ」
デニルの考えを聞いて、私が何か言おうとした所で、先にノエルが慌てて言った。
「よせよせ!! そんなのやめてくれ!!」
「え、なんでだ? こう見えて俺は狩人で生業を立てている。いくらオークでも、眉間や首など急所を狙えば一撃で仕留められる。その自信もある」
「いや、だからそういう話じゃないんだ……ふう、アテナ」
「うん、なに?」
「あれ、全部あたしに譲れ。駄目か?」
「いや、駄目とかじゃそういう話じゃないと思うけど」
「ならこれならどうだ? あたしの姿を見ろ。どう見える?」
何が言いたいか、何となくノエルの意図は解る。でも折角デニルにも解ってもらう為にノエルが言っているので、答える事にした。
褐色の少女――実際は私より年上らしいけど、ルキアやクロエ位の年齢にも見えるし、髪の毛をサイドテールに結っているせいもあってか、もっと幼くも見える。だけどそれはきっとノエルの望んでいる答えじゃない。
「普通の女の子に見えるわね」
「だろ? そう言う事だ」
「そ、そういう事ってどういう事なんだ?」
余計に険しい顔を見せるデニルをよそに、ノエルはいそいそとオークの方へ向かって歩き始めた。ノエル一人、6匹のオークに近づいていく姿を見てデニルは慌てた。
「おおおお、おい!! 止めなくていいのか? このままじゃ殺されちまう!!」
「まあ、いいから。大丈夫だから。ノエルには、ちゃんと考えがあるんだよ。あのオーク達はきっと斥候なんだと思う。ノエルは警戒されないように、一人で近づいて行って全て倒すつもりなんだよ。あんな女の子一人現れても、きっとオークは微塵も恐怖なんてしないと思うから」
「け、警戒されないようにか!? で、でも無茶だろ、あんな小さな女の子一人でオーク6匹は!!」
「ああ見えて、あの子Aランク冒険者なんだよ。ほら、見て」
ノエルは、オークの前に姿を見せた。ノエルの読み通り、オーク達は警戒などしていない。むしろ、美味しそうな餌が目の前に現れたとニタニタと笑っている。
ノエルがオーク達の前で止まると、1匹のオークがノエルの腕を掴もうとしてきた。瞬間、ノエルはオークが伸ばしてきた腕を掴んで、引っ張りこんでオークの豚鼻に強烈な頭突きを喰らわせる。ノエルの額がめり込む。血。ブヒーーっという悲鳴と共に、鼻血が噴き出したオークは仰向けに倒れた。
「ハッハー、さあ来い! 特別にあたし一人で相手をしてやる!!」
いけいけ、ゴーゴー、ノエル!!
残った5匹のオークは、武器を構えてノエルを取り囲んだ。




