第687話 『最善を尽くすしかないみたい』
オークの襲撃によって負傷した村人全員の治療を負えると、私達は村長を始め、村人達に襲撃してきたオークの事を再度聞いた。
数は30匹程。しかもその中には、ハイオークやオークリーダーと言ったオークの上位種もいたみたい。そんなのがいて、よくこの程度の被害で済んだものだと思う。
とりあえず詳細を聞いて、思った事を村人達へ伝えた。
オークは間違いなく、すぐにでもこのエドウィー村へまた攻め寄せてくる。
理由は、最初に追い払ったオーク達がこの村の様子を見に来た偵察部隊に過ぎなかったから。でも魔物は魔物。だから偵察ついでに畑を荒らしたり、村人を襲って食べようとした。オークは、雑食性でその性格は貪欲。あるものをなんでも食べてしまう。
だから必ずまた来ると思った訳だ。しかも気になる事もいくつかある。詳しく聞いた話では、その30匹の中にハイオークやオークリーダーが2、3匹紛れていた事。
ハイオークはその気になれば1匹で、この村の人達を皆殺しにできるほどの力を持っているし、オークリーダーは、大抵は群れで行動していて、他のオークを従えている。なのに、話を聞く限りではそのオークリーダーも誰かに使われている感じがするという。ううん、話を詳しく聞いた感じじゃ、使われていたと断言してもいい。
そこから導き出される答え。つまりオーク達にはもっと強力なボスがいて、尚且つその従えている数は30匹なんて数じゃない。もっといるはず。
貪欲で、攻撃的なオークの性格からしても、この村の事をしっかりと解った訳だし、きっと間を置かずに攻めてくる。
だから私は村長さんにデニルさんにジールさん、他の村人達にも今のこの危険な村の現状を伝えた。村長さんは私を一点に見つめて言った。
「デニルとジール、そしてバジャーデビル退治の件に重ねて、本当に申し訳と思うておるんじゃが、冒険者様達にオーク討伐……いや、オークからこの村を守って頂けるよう依頼を受けては頂けんものですかの? 助けて頂いた上に、度重ねて誠に申し訳ないんですがの……今から他に頼りになる者など到底見つける事はできんじゃろて」
うーーん、この村をオーク達の魔の手から、助けるのは当然の事だと思っている。
村が魔物に襲われようとしているのに、冒険者としても、このクラインベルト王国の王女としてもそれは見過ごせない。あと、キャンパーとしてもだよ。師匠が言っていたけど、キャンパーは、ルールを守り困っている人をさりげなくサッと助けてやるもんだって言っていたから。
だからキャンパーって名乗るような人は、だいたいいい奴なんだって。フフフ、私がもっと幼い頃にお酒を飲んでいた師匠が何気なく口にポロっと出した言葉だけど、今思い出してみると笑っちゃった。
私は他の村人たちもいる中、村長を真剣な眼差しで見つめて問うた。
「先に私の考えを述べさせてもらいますね。単刀直入に言ってしまうとまず私は、逃げるべきだと思います。相手はかなりの数のオークだと予想していますし……だから、もしかすれば最悪は、悲惨な結果になるかもしれない。だけど今すぐ村を離れて何処かへ避難すれば皆助かります」
村長が何か言おうとした所で、ジールが言った。
「それでもオーク達は、俺達を根絶やしにしようと追いかけてくるんじゃないのか?」
「ううん、村を諦めてくれるなら大丈夫。相手はオークだから、この村に備蓄してある食料や畑などそのままにして逃げればいい。家畜はちょっとかわいそうだけど……そうすれば、オーク達はそれに夢中になってきっと追いかけてはこないと思う」
「お、思うって……それじゃなぜ、大丈夫だって断言できる?」
ジールの続けての問いに、ノエルが口を挟んだ。
「餌を村に残してオーク達の気を引き、更にあたし達がこの村人達の逃げる殿を務める。だから大丈夫だと言った。そうだろ、アテナ?」
「う、うん。そうだよ」
ノエルが言ったことに私は、頷いた。しかし村人達は、ざわざわとし始める。
「嫌だ。俺はこの村に残る」
「オラもそうだ。ここにはオラの全てがある。畑も持っていく事はできねーだ」
「ワシも嫌じゃ。ここ以外で、ワシは生きていこうなどと思わん」
「私もよ。育てている作物や、家畜も心配だわ。むざむざオークの餌にだなんて……丹精込めて作り上げたものを手放すなんて絶対嫌だわ」
「私もだ。私はこの村で生を受けてそれからずっとこの場所で生きてきた。今更他へ行ってもどうしていいのか解らん」
「俺もだ。俺は、村を捨ててオークにくれちまう位なら戦う!」
村人のほとんど……というか、全員が村を捨てて逃げるのを反対した。合理性だけで考えればこれが一番確実に危険を回避できる方法なんだけど……でも村人達の言い分もよくわかる。
村長は静まれと村人達に言って聞かせると、改めて私達の方へ向きなおし、跪いた。
「ちょ、ちょっと村長さん!!」
いきなり跪く村長に私は駆け寄って、そんな事はしないでと立たせようとすると、村長はそのまま私に縋るようにして言った。
「お願いですじゃ。儂らにできる事であればなんでも致します。儂らは全員、この村を捨てたくない。でもこのままでは皆殺しにされる。どうか、この村と村人達を救ってくださらぬか。冒険者様」
これはもう、なんて言っても説得できなさそう。
「解ったわ。でも、そうするなら私は全力を尽くすけど、全てを守り切る自身はないですよ。その覚悟も出来ているのであれば、村に残ってください。私達は村に残ったあなた方を、全力で守る努力をします。ですが、安全の約束はできません」
「ありがとう……ありがとう」
村長、それにデニルにジール。村人全員が、何度も私達にお礼を言った。
命あっての物種だと思うんだけどな。でもこれはもう何を言っても仕方がない。私達は、私達にできること。最善を尽くすしかない。




