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第683話 『バジャーデビル その3』



 来た道を戻り、地中の洞窟を歩く。すると降りてきた大地の裂け目まで、戻ってくる事ができた。


 オレの横には、デニルとジール。そして背中には、3匹ものバジャーデビルの子供がおぶさっていた。ジールが怪訝な顔を見せる。



「本当にそれ、連れていくのか?」



 もちろんそれとは、3匹のバジャーデビルの事を言っている。あー、解るよー。


 他でもないこのオレも、実に突拍子もない自分の行動に驚いている。こいつらの親は、デニルとジールの村を襲ったり、冒険者やらを襲って殺して喰った。


 この子供もいずれは、大きくなって親と同じ事をするかもしれない。なんせ、こいつらの巣には人骨やらが山のようにあった。こいつらは、肉食で凶暴――そして魔物だ。



「ああ、連れていく事に決めた。でも村を襲ったり悪いことをしていたこいつらの親は、両方とも退治したんだ。それでいいだろ?」


「そ、そりゃあルシエルには感謝している。だけどそりゃあよー、あのバジャーデビルの子供だぞ」


「それも知っているって。他でもないオレが、巣から連れて来たんだから」


「じゃあ、なぜ殺さない。もしくは放置していけば、まだ自分達で餌を獲れないこいつらは餓死するはずだったのに」


「それは流石に可哀想だろう。だからサっと済ませるつもりだった。でも目が合っちゃって……こう……なんてーのか、じーーって見られているとな」


「ええ!? それだけの理由で、連れて来たのか?」



 驚くジールの肩を、デニルが掴んだ。



「ジール! よせ! あの凶暴なバジャーデビル2匹は、俺達だけだったら確実にやられていた。今頃は餌になっていただろう。でもルシエルが助けてくれて、しかもその俺達が退治しようとしていた奴らを見事に倒してくれた。それはお前も確認済みだろ?」


「ああ、それはそうだが……」


「それならルシエルは、俺達の恩人だ。俺達2人と村を救ってくれた恩人なんだ。その人が決めた事だ。子供のバジャーデビルをどうしようと、この人の勝手だ。あれこれととやかく言うな」


「……確かにそうだな。悪かった、もう言わない」



 デニルにそう言われ、肩を落とすジール。オレが背負っているバジャーデビルの子供をチラっと見た後、それ以降はもう何も言ってこなくなった。


 うーーん、まいったな。先にも言ったように本当はバジャーデビルの子供を見つけた時点で、始末するしかないと思ったのは確かだった。


 デニルは凄くオレに感謝していくれていて、ああ言ってくれているが、ジールの言う事が正論だと思う。だから言い返せない。


 まいった。これからアテナのもとに戻って、このバジャーデビルの子供達を見てなんて言うか……ノエルやマリンは、オレが食料調達に出た事から、この子供達を見てヨダレを垂らすかもしれない。その時は、オレがこいつらを守ってやらないとな。


 一度助けてしまったからには、その責任が俺にはあるし。まあ、責任なんてものは、無責任エルフのオレにとってかなり無縁なものなんだけどな。ウハハハハ……はあ。



「それじゃ、俺達が先にあがる」


「なんで?」


「あんたは背中に3匹も背負っているだろ? 俺達が先にあがってロープを上から垂らすから、それを使ってあがってきてくれ。その方が安全だ」


「なるほど、解った。それじゃ頼む」



 ファムの空中浮遊魔法。あれが使えれば、もっと楽にここから地上にあがれるのになと思った。そう考えるとやっぱドワーフの王国を出る時に、ミューリとファムをふん縛ってでも連れてくりゃ良かったかなと思う。


 デニルとジールが先に裂け目を上へ上がっていく。そして二人とも登りきると、シュルルルっとロープが下へ降ろしてきた。オレはそれを自分の腰に巻き付けると、軽く引っ張って合図して叫んだ。



「おおーーい!! 本当にやれんのかあああ!!」


「ああ、大丈夫だ!! 見た所、ルシエルは軽そうだからな。俺達2人がかりなら、問題なく引き上げられるだろう!! その代わり、じっとしていろよーー!!」


「ああ、解った!! 早く引き上げてくれえええ!!」


 ギュギュギュ……

 


 ロープが引っ張られ、オレの身体が宙に浮いた。そしてそのまま裂け目を地上に向けてあがっていく。こりゃいいや、かなり楽だぞ。



「はっはっはっは。らくちんらくちん。いいぞ、この調子で引き揚げてくれ」



 デニルとジールに順調だと声をかける。上にいる2人に聞こえる位の声量で言ったので、大きな声だった。するとその声で、オレに背負われて眠っている3匹のバジャーデビルのうち1匹が目を開いた。



 グルウウウゥゥ……


「よう、目が覚めたか? オレはルシエル・アルディノア。言うまでもないかもだけど、お前らの親の仇だ。お前らの親は、沢山人を殺した。だからこうなった事も、仕方のない事だと受け入れろ、いいな」


 グルウウ……ガブッ


「いってえええええ!! てんめええええ、なにすんだ!! 噛みやがったな!!」



 目を覚ましたバジャーデビルの子供は、オレの自慢の耳を噛んだ。エルフ特有の長くて尖った耳を、噛みやがった。まだ牙はしっかりと生えていないとはいえ、痛いぞ。



「おいおい、ルシエル!! 暴れるなーー!! 引き上げずらいし、落ちたらどうする!!」


「だってこいつが、オレの自慢の耳を噛んだんだ!!」


「凶暴な魔物だから仕方がない。それなら、捨ててしまえ!」


「……いやだ! それは嫌だ!」



 目を覚ましてオレの耳に容赦なく噛みついたバジャーデビルの方を振り返って、思い切り鬼の形相で怒ってみせた。



「てめええ、覚えてろよー!!」


 グルウウウ……



 そんな事をしている間にも、オレはデニルとジールによって、ロープで引き揚げられてどうにか地上に戻る事ができた。

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