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第681話 『バジャーデビル その1』



 バジャーデビルの胸と腕に、2本同時に放った矢がそれぞれ突き刺さった。



 グアアアアアア!!



 バジャーデビルは、悲鳴をあげると自分に突き刺さった矢を乱暴に引き抜いて、オレを睨みつけた。だがその程度じゃオレは怯まない。睨み返す。



「てめえ、怒ってんのか!」


 グルルルルウウウ


「怒ってんだな! でもオレもお前に肩か腕か……もしくは、その両方を潰されかけた。それにこの夥しい数の人骨。オレだって怒ってんだぜ!」


 グルウウウウウウ



 バジャーデビルは、オレを睨んだままゆっくりと前傾姿勢になる。再び跳びかかってくる準備をしているんだ。



「いいぜ、かかってこい! お前がこれまでやった殺人に関しては、これ以上は何も言わないよ。オレだって、食べる為に魔物を狩ったりするしな。正直、食べる為に……生きる為に人を殺して喰っているんなら、お前を何も非難する事はないよな。だがな、残念ながらオレは人間側だ。お前が人間を殺すなら、オレはお前の敵という事だ」


 グオオオオオオオ!!



 言葉を理解しているのかは、解らない。カルビのように、理解できる魔物もいるが、おそらくこの魔物は人の言葉は理解できていない。いや、理解する気もないんだろう。だがオレの性分として、一応言葉で伝えておきたかった。


 バジャーデビルが、再びこちらに向かって駆けてくると、オレは弓矢を構えて連続で放った。


 1発命中し、2発目も命中。このままオレの身体を引きちぎる事のできる距離まで詰める頃には、バジャーデビルには無数の矢が突き立ってハリネズミのようになっているだろう。



「距離が空いた時点で、オレの勝ちだったようだな。まあ、オレが本気を出せば、近距離戦でもオレが勝つがな。オレはいたぶる趣味は持ち合わせてないんで、これで終わりにしよう」



 素早く弓に次の矢を添えると、オレはバジャーデビルの眉間に狙いを定めた。これで終わり。


 矢を引き絞って発射しようとした刹那、何か大きなものに後ろから抱き着かれ、物凄い力で締め上げられた。いでででで。


 どうにか振りほどけないかもがきながらも、オレの身体を締め上げている手に目をやる。黒くて毛むくじゃらの腕。



 グルウウウウウウ!!


「いでででで、この剛力強め(ごうりきつよめ)で締め上げられ続けたら、圧迫死かもしくは胴体を潰されちまう!!」


 グルウルルル……



 ま、まさかバジャーデビルが2匹いたなんてな。全く迂闊だった。少し考えれば想定できた事なのに……どう見ても、ここは巣だ。バジャーデビルが2匹いても、なんらおかしくはない。


 チラリと後ろを振り向くと、オレの胴体を締め上げる恐ろしい顔のバジャーデビルと目が合った。そしてオレを締め上げている方が、唸り声をあげるとそれを合図に、さっきオレが矢でハリネズミにしようとしていた方のバジャーデビルがこっちへ向かってきた。


 これは、このままオレを絞め殺すつもりじゃねーな。オレを拘束したまま、オレを串刺しにするか首をねじり切りか……とどめを刺すつもりだ!!

 


「うぬぬぬぬぬ!! このままやられてたまるか!! 脱出してやるうううう!!」



 力を入れるが、バジャーデビルの力には、てんで敵わない。考えてみれば最初は、熊と見間違えた。それ程の身体を持つ魔物に、ハイエルフのオレが腕力で勝てる訳もなかった。


 もしここにいるのがオレじゃなくて、剛腕ノエルならきっとあのゴリラパワーで脱出する事もできるんだろうけどな。



 ググオオオオオオオ!!



 締め上げられ、逃れられない。正面からも襲い掛かってくる。もうだめだ!! 


 だが、オレはニヤリと笑う。



「って普通の奴は、思うよな。こんな目にあっていたら。だがオレは違うぞ」



 オレはそう呟くと、2匹のバジャーデビルに襲い掛かられながらも、素早く魔法を詠唱した。



「1対2だ!! 遠慮なく、魔法を使用させてもらうぜ! 《強風結界(ウインドシールド)》!!」



 オレの周囲に風が集まり、形となす。それはドーム状になり、オレを拘束していたバジャーデビルと、正面から襲い掛かってきたバジャーデビルを弾き飛ばした。



「終わりだ!! 《風の刃(ウインドカッター)》!!」



 振り返って、オレを拘束していたバジャーデビルの首を風の刃で切り裂いた。鮮血。もう一方のバジャーデビルは、仲間が致命傷を負って倒れる姿を見ると、雄たけびをあげた。これはもしかして……



「うらあああああ!! 喰らええええ!!」


 グオオオオオオ!!



 雄たけびを上げた後、真っすぐにオレに突っ込んでくるバジャーデビル。オレは弓矢を再び構えると、我を忘れたように真っすぐに突っ込んでくるバジャーデビル目掛けて矢を連射した。


 バジャーデビルの身体に突き刺さる矢。今度は胸や腕、そして足だけでなく首や心臓にも命中させた。バジャーデビルは前のめりに倒れると、吐血して絶命した。



「ふう、やった。倒した。しかし、オレに後ろから抱き着いて、絞め殺そうとしていた奴を倒した途端に、もう一方が激高したが……この2匹はもしかしてツガイだったのか」



 ここはこいつらの巣だし、さっきの事も考えるとその可能性が高いと思った。だけど、ツガイだったからなんだというのだろうか。結果だけみれば、2匹の魔物を倒した。それだけだ。


 だがオレにとっては、それだけで片付く問題でもないような気がした。


 2匹のバジャーデビルが完全に死んでいる事を確認すると、持っていた弓を背負う。そしてこのバジャーデビルの巣のある空洞を、ぐるりと歩いて見て回る。


 すると何か、蠢くものを巣の奥に見つけた。藁や無数の木の枝、そして骨が山積みになっている個所。そこに近づいて骨をほじって掻き分ける。



「もしかしてそうなんじゃないかって、ほんのりと思ったけど……まいったなー、やっぱりそうかーー」



 バジャーデビルに潰されそうになった肩と腕を摩った後、もっと周囲の骨やらをどけた。するとその奥から、3匹のバジャーデビルが姿を見せた。


 3匹のバジャーデビルと言っても、さっきの倒した厳つい2匹のようなナリはしていない。そう、その3匹はバジャーデビルの子供(ベイビー)だった。

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