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第677話 『青い球体 その2』



「うわああああ!!」


 バシュバシュバシュッ!!



 何本もの水のビームが、オレが身を隠している岩に突き刺さって貫通した。身を屈めてやり過ごす。そして隙を見てから、オレを狙う青い球体を覗き見する。



「なんだあの青い球体は……水の精霊……って訳でもなさそうだな」



 エルフはそもそも精霊と密接な関係を築いている者が多く、生まれながらにしてその恩恵を受けている者も少なくない。


 かく言うオレも、生まれながらにして風の精霊の加護を受けていたらしい。生まれてきた時は、とうぜん赤ん坊だからぜんぜん覚えている訳もないんだけどな。それにオレが生まれたのなんざ、およそ114年前だもんな。


 つまり何が言いたいのかと言うと、エルフという生き物は、精霊に敏感なのだ。特にエルフの中でも群を抜いてその力が強いハイエルフとなれば、その力は更に強くなる。オレもハイエルフだから、例外じゃない。


 しかしあの青い球体。あれからは、精霊力を感じない。つまりあいつは水の精霊でもない。


 そうなると、考えられるのはとうぜん魔物だろうという事だ。もしくは、この洞窟……つうか作りからして結構昔に配置されたものだとは思うけど、このダンジョンに罠を張った誰かが製作した(こさえた)魔法の何か。



 バシュバシュバシュッ!!


「ったく、なんなんだよ!! あいつ、オレに風穴……もとい水穴空けるまで貫通水圧射撃(アクアレーザー)を連射してくるつもりか!! そっちがそのつもりなら、よーーーし!」



 太刀『土風(つちかぜ)』を鞘に納め、背負っていた弓矢を手に持つ。アルテミスの弓。オレの持つ最強の武器だ。



「おりゃああ!! 反撃じゃい!!」



 貫通水圧射撃(アクアレーザー)で穴だらけにされて、削られてボロボロになった岩からゴロンと転がって飛び出した。そして素早く弓矢を構えて泉の上に浮遊する青い球体目掛けて矢を放った。


 狙い定めた個所は、もちろん青い球体。間違いなく、奴の弱点だ。



 ビュンッ


 とぷっ


「あ、あれ?」



 青い球体を狙って放った矢は、真っすぐに飛んで行って球体の前で止まった。そしてフワリと浮き上がる。


 そう、青い球体は泉の水をスライムかアメーバのようにして纏っていたのだ。それを貫通しないと、球体までは届かない。だが矢があの纏っている水に接触すると、威力をたちまち殺されて水の中に取り込まれてしまう。


 放って取り込まれた矢は、身に纏う水の中を循環して落下し、ポチャンと泉に落ちた。



「くっそー! 矢が当たらねえ!」



 こうなったら、奥の手【シャイニングフェアリーアロー】かもしくは、精霊魔法をお見舞いしてやるか。


 しかしここは地中……更にこんな年期の入った洞窟の中で、あまり破壊力のある攻撃を発動したくはない。見た所、なんとなくモロそうな洞窟だし……衝撃による落盤の可能性もあるからな。



 バシュバシュバシュッ


「くそ!! まーーた撃ってきやがった! こうなったら、直接攻撃だ。そっち行って退治してやる!!」



 また弓を構えて矢を放った。今度は連続で5発。その全てがまた先程と同じように、青い球体の纏った水に阻まれてゆっくりと呑み込まれていく。


 だがオレは今度は、指を咥えてその様子をマジマジとみているような事はしなかった。弓矢は既に背負って、再び太刀『土風』を抜いて一気に駆けて距離を詰める。



「うおおおおお!! そりゃああああ!! 必殺技も精霊魔法も気が進まない上に、一番得意な矢は有効じゃないときたら、もう直接攻撃しかないだろーーっが!! いいぜ、上等だあああ!! 真っ二つにしてやんぜ!!」



 泉を目前に、思い切り踏み込んで跳躍。『土風』を思い切り振り上げて、青い球体まで飛んで勢いよく振り下ろす。



「っしゃああああ!! う、ぼふっ……」



 しかしさっき放った矢と同様に、今度はオレ自体が青い球体の纏う水に取り込まれてしまった。だがそれも、想定内だ。


 取り込まれるだろうっていうのは、織り込み済み。ここから力任せで太刀を振って、お前を真っ二つにしてやるぜ。そう、スイカ割りみたいにな。ハッハーー。



「うぎぎぎぎぎ!! ぬおおおおお!!」



 エルフだって精一杯力を込めりゃ、こんな声が出る。森の知恵者や守護者と言われてカッコつけても、出るもんも出るしオナラやゲップだって出るんだぜ。ヒャハッ。あっ、いけね。これは言っちゃ駄目なやつだっけ。こんなん聞かれたら、まーたアテナに怒られっぞ。じゃあ、今のはオフレコで! てへぺろ。


 兎に角、このままやっつけてやる!!



「うぐぐぐうおおおお!!」



 いけると思った。力任せに行けば行けると思ったけど、青い球体の纏う水は何か特殊で、本当にスライムのように弾力があって思うように太刀を振れなかった。威力を殺されて、青い球体までとても太刀を振り下ろせない。球体に刃を近づけるにつれて、その抵抗は強くなる。


 うげ……いかん!!


 考えが甘かった。力任せで奴を斬れない上に、完全に球体の纏う水にオレ自身も取り込まれてしまった。


 自由に動けない。しかもこのスライムみたいなのの正体は、水というだけあって息ができない。このままこいつに、ここで拘束されているだけで数分でオレは溺死する。


 うわああああ!! これはまいった!!



「うぐ……むぐぐ……」



 こういう時、いつもならアテナが「ルシエル! こんな所で何やってんの!」とか言って助けに来てくれるんだけどな。流石に、こんな丘の向こうの先に見つけた大地の裂け目の奥に、オレがいるなんて夢にも思ってもないだろう。よって救援の期待は薄い。



「む、むぐう……ブクブク……」



 いかん! もう、息が……


 オレは息が苦しくなりたまらなくなって、握っていた『土風』から手を離して両手で口を押えた。このままじっとしていれば、もしかしたらオレが放った矢のようにやがて下にある泉に落としてくれるかも。


 そんな期待をしてみたもの、青い球体は自身に纏ったスライムのような水の中にオレを取り込んだまま、オレを解放する気はさらさらないようだった。藻掻いてもじっとしてみても、奴は手を緩めない。


 だ、だめだ……このままじゃ、窒息する……そう思うと、意識が次第に遠くなってきた。

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