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第674話 『裂け目 その1』



 縦長の大きな裂け目。まるで、巨人がバカデカい剣を大地に突き刺して、裂いたような場所。


 広い草原の先、丘を越えた場所にそんなのがあった。


 その裂け目には、先程毛むくじゃらの大きな奴と、その魔物を追う二人の狩人風の男達が入って行った。


 これは何か面白そうな予感がする。そう思ったオレは、すぐさまその毛むくじゃらと二人の男を追って、裂け目に近づくと中へ入るべく覗き込んだ。



「ヒャ――、結構深いなあ。これは落ちたら大変だぞ」



 じーーっと目を凝らして見る。オレは人先指を立てると、火属性の魔法を唱えた。


 オレ達エルフは、精霊の力を借りて魔法を発動する事が一般的で現にそうしているが、魔法発動には魔力よりも精霊力を多く使用している。しかし、その効果は同じだった。


 つまり何が言いたいのかというと、今オレはライティング系の精霊魔法を唱えた訳だが、その効果はウィザードが使用する黒魔法となんら効果は変わらない。


 それでも違いを見つけるなら、精霊魔法の方が精霊から力を借りる分、強力な感じかな。


 指先に辺りを強く照らす火が灯ると、それを裂け目の中へ向けて中を見る。


 …………うーーーむ。何も見えんわ。


 つまりこの裂け目は、かなり深くてここを下りていくにしても、もしも足を踏み外して落下するような事があれば大怪我じゃすまないかもしれない。


 だけど毛むくじゃらだけでなく、狩人風の男二人もここを降りていったのだ。


 ……しかもロープも使わずにだ! 毛むくじゃらを見失うかもしれないからといって、ロープを使用する時間を惜しんだのかもしれないし、単純に持っていなかったのかもしれない。だが重要な事は、この裂け目を自分の身体とテクニックだけを使って下の方へ降りていけるという事だ。


 再度裂け目の中に指先を向けて、調査する。ふむ、なるほどな。よーーく解った。


 裂け目は、かなり深いが幅はそれ程でもない。それに壁面には、出っ張っている個所や窪んでいる部分が何カ所も見て取れる。これに手足をかけて下りれば、裂け目の下まで降りられるって寸法だ。



「よーーし、やってやんよ。オレもあいつらの後を追って下まで降りてやる。要は、逆クライミングみたいなもんだろ。楽勝だ」



 弓矢を背中に背負い両手をフリーにすると、オレは早速裂け目の方に背を向けてしゃがみ込み、そこから四つん這いになって右足から裂け目の中へと下ろした。そこから順々に手足を駆けて下へと降りていく。


 間違えなくさっき、この中へ毛むくじゃらと男二人が入っていった。つまり奴らは、この下にいるはずなんだ。


 暗闇。壁面に両手を駆けて降りていっているので、手が使えない。つまりライティングの魔法が使えず、下へ降りていく程に暗闇に包まれていった。まいった、これじゃ何も見えなくなるし危ないぞ。



「あっ、そうだ。いいものがあった」



 壁から片手だけ外すと、腰に差している懐中灯へ手を伸ばした。ノクタームエルドでアテナがモルト・クオーンという知り合いの行商人から購入したものだ。あれ以来、特に大洞窟が広がるノクタームエルドでは、大活躍のアイテムだった。


 懐中灯。カチリとスイッチを入れると、灯りを放った。これなら周囲の様子が解る。オレはそのまま、スイッチを入れたままの懐中灯を口に咥えると、また大きな裂け目を下へ下へと移動し始めた。


 ちょっと不思議に思ったのは、下へ降りていく程に気温が下がっていると感じた事。アテナ達と街道を歩いていたさっきまでは、暑くて汗もじっとりとかいていたけど、今は少し寒さを感じている位。


 しかも時間的には、今はまだ昼だ。つまり、この裂け目の底の温度が低いのだ。



「おっ! そろそろ底が見えてきやがったな。よーーし。とおっ!!」



 底が見えた所で一気に飛び降りた。高さがまだ結構あったので、着地した瞬間にしゃがみ込むようにべたりとなってそのまま前転した。これで衝撃を殺す。


 エルフの里時代――木に登った後に、飛び降りる時はいつもこの方法で下に降りていた。

 


「さーーて、あの毛むくじゃらと狩人二人……何処に行ったんだー?」



 周囲を照らす。裂け目の底を少し歩くと、目の前の岩壁に大きな口がポカリと空いていた。



「おおお、これは洞窟だ。ダンジョンじゃねーか」



 クラインベルト王国にある、特になんでもない草原地帯。そこにあるなんでもない丘の向こうに大きな裂け目があって、その裂け目の底には洞窟があった。


 つまり見るからに特に何もないように見えていた草原の真下には、こんなダンジョンがあったって事になる。なんとも不思議な事だ。


 とりあえず興味本位で毛むくじゃらと男二人を追ってきたけど、これはもう調査をせずにはいられんよな。懐中灯で辺りを照らし出しながらも、ポッカリと開いたダンジョンの口の中へ飛び込む。


 するとその中は、本当に洞窟になっていた。


 ふーーむ。広くはない……広くは無いし普通の洞窟に見えるが、道がいくつか分かれているな。


 それを見てまるで蟻の巣みたいだなと思い、そこからまたノクタームエルドで散々戦った蟻の魔物、ジャイアントアントの事を思い出した。


 でもまさか、またここで遭遇したりはしないだろう。もちろん、グライエント坑道で戦ったバカでかいモグラの魔物、ディグモールなら尚更こんな所にいるはずもないとはおもうが……一応、警戒っと。


 キョロキョロしながら辺りを照らし、どのルートを進めばいいか選んでいると、さっきの狩人風の男達のものと思われる悲鳴が聞こえてきた。



「ぎゃああああ!!」


「悲鳴か。あっちの穴からだな!」



 なんでも経験はしておくものだと、改めて思った。


 大洞窟が何処までも広がる世界、ノクタームエルドをその入口から、ドワーフの王国まで旅したオレにとっては、今更こんな洞窟まったく怯むべき代物ではなかった。

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