第672話 『考察するルシエル』
ブレッドの街にいた時は、ずっとぐずついた天気で、なんと霧まで発生していた。それも、少し先がまるで見えなくなる位の濃い霧。
なのにブレッドの街を出発し、パスキア王国に向けて旅をし始めると天気は快晴。とても気持ちがいい……っていうか、容赦のない日差しでむしろ暑い位だった。
そう言えば、ブレッドの街を出る時。バーンが言っていた事を思い出したので、冒険者ギルドに寄ってから出発した。ギルドに寄った理由は二つ。
まず一つ目は、オレ達の冒険者ランクの確認。バーンは、ノクタームエルドにあるドワーフの王国を救った件で、オレ達の冒険者ランクがあがっていると言っていた。
まあ、Aランクのアテナは変わらないと言っていたけど。オレやルキアは、当然その確認をしておきたかったのだ。
結果は次の通りだった。
<冒険者ランク>
アテナ A
ルシエル B → A
ルキア F → C
カルビ 冒険者ギルドに使い魔として登録をしているが、冒険者ではない。
マリン B
ノエル A
クロエ 冒険者ではない。
しかし、こうしてちゃんと調べてみるとあれだな。
ついに……ついに、このオレもアテナに追いついてしまった。
冒険者経験はアテナの方が長いが、これで同格になった訳だ。フヘヘヘ。あと、驚くべき事は、ルキアだった。Fランクだったのに、一気にCまで跳ね上がっている。
Cランクと言えば中級冒険者だ。もう列記とした冒険者。こんなにランクアップしてしまうなんて、やっぱりドワーフの王国を救ったという事が、どれほど大きい事だったのかという事かが解る。まあ一国の危機を救ったんだもんなー、当たり前と言えば当たり前かー。
だが、まあこれでようやくオレもAまで来た。Sランクだって、あともうちょっとだ。そしたらバーンとも、同格になれる。
Sランク冒険者ってのは、かなり特別な存在だからな。長く冒険者を務めていれば、いずれなれるというものでもないし、コツコツコツコツと依頼をこなしても成れるものでもない。
また王国一つを救ったり、ドラゴンを討伐位すればSにも手が届くはずだ。何はともあれ、改めて自分を含めて皆の冒険者ランクが再確認できてよかった。
そして街を出る前に冒険者ギルドに寄った、二つ目の理由。
それは、アテナの冒険者ギルドでの登録内容の変更だった。
最初、アテナは城を飛び出して大好きなキャンプを思う依存分楽しむために、キャンプをするのにめちゃくちゃ都合のいい職業である冒険者になった。
その時、登録を済ませる為に冒険者ギルドで登録をしたのだが、アテナはまだ登録する事について簡単に考えていたようだ。
それで登録名は本名そのままで、アテナ・クラインベルト。
そんな名前で冒険者をやってたら、特に自国の者達は、その名を聞いてギョってしていただろう。だってクラインベルト王国の第二王女と同じなのだから。
しかもそのお転婆王女のトレードマークともいうべき青い髪と青い瞳、そしてシャレオツなオカッパヘア。知っている者に出会うと、混乱を招く。
いい加減、やっとそのことに気づいたそそっかしい王女、アテナはそれでついに登録名、つまり冒険者ギルドに登録している名前を変更する事に決めたのだ。
そう、アテナ・フリートと!!
…………
「って! アテナって名前は、そのまま残すんかいっ!!」
ズビシッ
オレはそう言いながら街道を歩くアテナの背中にチョップを入れた。
「もう! 危ない! 急になに?」
「え? ああ、いや……ちょっと考え事してて。それでなんとなく」
「もう、なんだかなあ」
つまりこれからアテナは、王女となっている時はアテナ・クラインベルトと名乗り、冒険者として行動する時はアテナ・フリートと名乗るそうだ。なんて、忙しい奴なんだろう。
因みにフリートってファミリーネームは、アテナが大尊敬している師匠ヘリオス・フリートから勝手に拝借したそうだ。まったくアテナは……
でもアテナの師匠に対する話を聞くと、フリートって名前にしたのも納得ができる。なんせヘリオス・フリートという冒険者は、SSランクの伝説級冒険者だそうだからな。
アテナのあの反則技……じゃなくて、組技とか変わった素手による技や、二刀流やらの小賢しさは全て、ヘリオスから伝授されたものらしいから。
それに伝説級というのも、だてじゃないって話だ。今、オレの後ろをノエルと並んで、一緒にずっと眠たげな顔で歩いているマリンが、そのヘリオス・フリートとノクタームエルドのロックブレイクで出会った時に勝負を挑んだらしいが、軽くあしらわれたって言っていた。
ふむう。これはきっと、そのヘリオス・フリートという男、オレに近い力を持っているに違いない。
そう考えれば、アテナが冒険者として行動する為の新たな名前を何にすればいいか考えた結果、師匠の名前を拝借するというのも頷けるってもんだ。
うん。それなら照れずに頼めば、オレのアルディノアの名を名乗る権利をやっても良かったんだがな。
「さあて、そろそろここらへんで、ちょっと休憩にしようか」
アテナがそう言って、手を挙げつつも振り返って言った。全員それに対して、『はーい』と良い返事をする。
今いる街道は、周囲が草原に囲まれている。だけど今いる場所から少しそれると、木々がはえている場所がある。
うん、あそこがいいな。オレは指をさした。
「アテナ、休憩するならあそこがいいんじゃないか?」
「え、あそこって何処? あ、本当だ。いいね。それにそろそろお昼になりそうだし、そこでお昼ご飯も食べようか」
お昼ご飯? そう言えば、もうそんな時間か……
でも……ブレッドの街を出る時に、皆朝ご飯は食べてきたけども、他に食べ物なんて買ってきただろうか? それをアテナに問うと、アテナは「あっ!」っていう間の抜けたような顔をした。
ほら、やっぱりな。アテナは、本当におっちょこちょいだからなー。
ふう、やれやれ。これはオレの出番だな。
オレは冒険者だけでなく、狩人ととしても一流であることを、新メンバーであるノエルやマリン、そしてクロエに見せてやらねばなるまい。そう思った。




