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第670話 『夢中の情報交換』



 レティシアさんが連れているという土の精霊、ラビッドリーム。兎の姿をしている精霊で、現実とも思える程の夢を見せる。


 そう言えば、ラビッドリームはまだ私の中にいるのだと思った。同時に、またフォクス村に連れて行かれるのではと不安になる。


 今は、セシリアもローザもこの部屋にはいない。再びラビッドリームに、フォクス村に連れて行かれたりしたら、私一人の力で現実世界へ脱出する事なんてできるのだろうか。


 そんな事を考えていると、ラビッドリームが動いた。真っ白で、ただただ眩しい位の光に包まれているこの空間にポツンといたラビッドリームが、ピョンピョンと跳びはねながらもこちらに向かってくる。


 私の直ぐ目の前まで来ると、ピタリと止まりそのルビーのような赤い目でじっと私を見つめた。ヒクヒクと動く鼻。こんな状況に陥っているのに、それがたまらなく可愛らしいと思ってしまった。



「か、可愛い……」


「……ありがとう。テトラちゃん」


 !!!!


「えええ!! う、兎が喋った⁉」



 愛らしい姿に思わず可愛いと呟いた刹那、なんとラビッドリームが喋った。そして気づいた。この声は、聞き覚えのある女の人の声。しかも今度は暗闇の中で呼ばれた時よりもより鮮明で、それが誰かはっきりと解った。その人の名を呼び返す。



「ええ!! ももも、もしかしてレティシアさんですか⁉」


「ウフフフフ。そうよ、よく解ったわねテトラちゃん。ご褒美に再会したら、しっかりといい子いい子してあげないといけないわね」


「え? いい子いい子⁉」



 彼女らしいセリフを聞いて、間違いなくレティシアさんなんだと確信するも、心の何処かでレティシアさんが言った、いい子いい子ってどんな事をしてもらえるんだろうって、ちょっと期待してしまっている自分がいて慌てて煩悩を振り払った。


 レティシアさんと別れてからまだ僅かしか経っていないのに、私は彼女の声を聞いてちょっとだけ舞い上がってしまっていた。嬉しい。夢の中だとは、ちゃんと理解はしているけど……でも声が聞けて嬉しい。



「そ、それはそうと、ここは夢の中なんですよね? どうして私ここへ……ここは、いったい? それにレティシアさんの声がなぜ、ラビッドリームから聞こえて来るんですか?」


「ウフフフフ。私の声がラビッドリームから聞こえてくるって言うのとは少し違うわね。もっと近づいてよく見てみて」



 レティシアさんの言った通りに、ラビッドリームにもっと近づいてみる。逃げる気配がなかったので、そのまま両手を伸ばしてラビッドリームに触れて、そのまま抱き上げた。



「あら、まあまあ。抱っこしてくれるの? 嬉しいわ」


「あっ!!」



 今ので気づいた。レティシアさんの声がラビッドリームから聞こえてきていたんじゃない。ラビッドリームの口が動いている。



「ウフフ、そう言う事よ。ラビッドリームの身体を私が借りているの。だから今、私の意識はラビッドリームにあるわ。つまり今テトラちゃんが私を抱っこしてくれているって事ね。ああ、テトラちゃんの胸……大きくて柔らかくて癒されるわ。それになんだかいい匂いがするわね。これは何かしら……蜂蜜やワインの香り……それに何かアーモンドオイルのような匂いもするわ。クンカクンカ」


「も、もう! や、やめてください!!」



 やめてとは言ったものの、胸に抱きしめているラビッドリームはモコモコで可愛らしく、私の胸に顔を埋めて、その愛らしい鼻を動かしている姿は抱きしめたくなる程だった。だけど中身はレティシアさんなのだと自分に言い聞かせて、気持ちを抑えた。



「そ、それでこれはなんなんですか? 夢の中ですよね?」



 ラビッドリームの長い両耳がピコンと勢いよく立つ。



「あっ、そうそう。そうだったわね。テトラちゃんから何かいい匂いが凄くするから、思わずそれに夢中になってしまったわ。ごめんなさい。ウフフフ。その件については、再会した時にでもまたゆっくりと匂いを嗅がせて頂戴ね」


「そ、それは駄目です! そ、それで」


「ウフフフ。実はね、アローからもう聞いているかもだけど、私とアローはテトラちゃんに頼まれた通り、この交易都市リベラルに潜伏する『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の幹部を探っているわ」



 そう、私が二人に頼んでしまった。レティシアさんとアローには、申し訳ないと思っている。モロロント山で偶然出会っただけなのに、こんな事まで頼んでしまって。


 だけどレティシアさんの実力は計り知れないものだと思った。Sランク冒険者だと聞いたけれど、それは本物――


 メルクト共和国に、一刻でも早く平和を取り戻したい。それを可能にする力が、レティシアさんには備わっていると知って、それを彼女に頼まずにはいれなかった。


 だけど……だけどレティシアさんは女神様のように微笑んで、「ガルーダ討伐の報酬を受け取りにいく用事があるから、ついでよ。いいわ」と言って、危険な事をまるでついでに何か買ってくるといった軽い様子で引き受けてくれたのだった。


 レティシアさんとアローには、本当に感謝しかないと思った。王都に戻った際に、陛下にこの事をお話すれば、レティシアさんやアローにもそれなりの恩賞が与えられるかもしれない。その時は是非そうしようと思った。


 レティシアさんは、続けた。



「とりあえず、アローからテトラちゃん達がお友達と一緒にリベラルに到着したって聞いたから、コンタクトをとってみたのよ。後は『闇夜の群狼』について得た情報の途中報告って所かしらね。大してまだ有力情報は得ていないから、期待されてもちょっとあれだけど」


「それなら私達も既に色々ありまして――」



 私とレティシアさんは、私の夢の中でリベラルについてからの行動など、お互いに知っている『闇夜の群狼』の幹部である『狼』に関しての情報交換を行った。

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