第667話 『ボディーケア その4』
「はい、お疲れ様でした。それでは、こちらへどうぞ」
「ううーー、はい……」
寝台に乗せられてオイルマッサージ。うつ伏せから、最後は仰向けにされた。もう、恥ずかしいなんてものじゃなかったので、マッサージ中は両手で顔を覆おうとしたけれど、スキルラさんに両手を掴まれて下に下げられた。
気持ちいいけど、恥ずかしい。もうどうする事もできず、仕方がないのでもうどうにでもなれと思って、両目を閉じて別の事を考えるようにしていた。
すると気が付くと、ルキルラさんのオイルマッサージのお陰で、恥ずかしくてもリラックスできたのか、いつの間にか眠りについてしまっていた。
今日初めて会った人の前で、全裸で寝てしまうのだから、相当疲れがたまっていたのか……それともケアが効いたのか……もしくは両方だと思った。
私は、スキルラさんに寝台から起き上がらせられ立たされると、手を引かれて小部屋の奥にある、更に小さな部屋へと案内された。そこは、シャワー室だった。
スキルラさんは両手に何かスポンジと言うか厚手の手袋のようなものをはめると、シャワーノズルを握って私の方を向いた。
「それではこれから身体のオイルを流させて頂きます」
「は、はひい!」
ジャーーーーーッ
容赦なく放水されたので、変な返事をしてしまう。だけスキルラさんは、特に気にもせず坦々と私の身体に付着しているオイルを洗い流してくれる。またスポンジのような手袋は、かなり特殊なもののようで、それで身体を摩ると大量の泡が出てきた。それで落ちにくそうなオイルも、簡単に洗い流されていく。
「あっ! ちょっとそこは!」
「駄目です、動かないでください。そして手を挙げてください。全部洗い流しますからね。大丈夫ですよ、足も開いて」
「ううう……」
スキルラさんに全てをゆだねると、彼女は私の身体の隅々に至るまで丁寧に洗ってくれた。驚きを隠せないような、大事な所も……
人に身体中を洗ってもらう事なんてないので、まるで自分が大きな赤ちゃんにでもなったかのように思えた。
綺麗さっぱりになった所で、ふわっとした乾いた気持ちの良いバスタオルで身体を拭かれる。胸や脇の下、首元にお尻とか股の辺りを拭かれるのは、流石にビクッとしてしまったけれど、綺麗に身体を洗ってもらったので、意外にもさっぱりした気分にもなれた。
「はい、頑張りましたね。それでは次に参りましょう」
「つ、次ですか!? こ、これで終わりなんじゃないですか!?」
「いいえ。シェルミー様からのご注文で、フルコースでケアをさせて頂く事になっています。それでは、次のお部屋にご案内させて頂きますので、こちらへどうぞ」
「ええーー、ま、まだ終わらないんですね! で、でもこのまま……裸のままこの部屋を出て移動するんですか?」
「こちらにバスローブもご用意しておりますし、バスタオルを巻いて移動して頂いてもいいですよ。ですが、今度はたっぷりと汗をかいてもらいますので私はそのままでよろしいかと」
「ええー、でも裸で移動するのは恥ずかしいですよ」
「それでしたらご心配ありませんね。先にご説明しました通り、このルフレッシュルームのエリアは、女性専用となっておりますので殿方はおりませんから」
「いえ、でもその、あのちょっと!!」
スキルラさんは、そう言って私の返事に耳を傾けずに、裸のままでいる私の手を引いて小部屋の外に出た。
通路に出ると、傍を歩いていた人達……確かに女性ばかりだけど皆私の事を見てくる。それもそのはず。通路で見かける人たちは皆、館内着、もしくはバスローブなどに身を包んでいるのに対して、私は真っ裸。手で大事な所を隠しているだけの状態だったから。
――皆、笑っている。
「ひいいいい!! ちょ、ちょっとスキルラさん!! さっきの部屋に戻りませんか!? そ、その……このまま移動するのはちょっと!! 皆何か着ていますし、私も裸のままでフロアを移動するのは……」
「いいえ、このまま移動します」
「ええーー、そんなあ!! な、なぜなんですか?」
「そんなのは、決まっています。どうせまた脱ぐことになりますし、少しでもテトラ様に裸のままいて欲しいというのは、勝手ながら私の願望でもありますので」
「ええ!? が、願望って……そ、それってどういう事ですか?」
「テトラ様はとても可愛らしく、それだけでなく豊満なボディをしておられます」
「へ? ええ、そ、そんな、何を!!」
「それに4本のフサフサの尻尾はとても可愛らしいです。ですから私が、少しでも多くの人にテトラ様の素晴らしい身体を見せつけたいと思いました」
「そそそそ、そんな! そんなの恥ずかしいですよ!」
「実に美しいものをお持ちなのに、それを独占されるのは罪な事なのです。私は少しでもテトラ様の身体のその美しさ、可愛らしさを皆さんに分け与えるべき……までは言えませんが、少しでもおすそわけできれば……とても素敵な事ではないかと思っております」
「お、思っております……って恥ずかしいものは恥ずかしいですよ! それに言っている意味が解らないですよ!」
「ウフフフ、とりあえずここで話を続けていても、裸でいらっしゃるテトラ様が風邪をひいてしまわれます。次のお部屋にご案内致しますので、こちらへどうぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください!! せめて、タオルを一枚もらえませんか!!」
そう頼んだけれど、スキルラさんはもうこちらを振り向きもしなかった。
私は周囲の目にさらされながらも、慌ててスキルラさんの後ろに隠れるようについて次の部屋に向かった。




