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第665話 『ボディーケア その2』



 部屋の入口、そこに設置された置き看板には、リフレッシュルームと書かれていた。中に入ると、従業員と思われるとても綺麗なお姉さんが現れた。


 お姉さんは、まず私達に人数を聞いた。シェルミーが手馴れた感じで即答する。



「お客様は、5名様ですね」


「はい、そうでーす」


「かしこまりました。それではコースですが、どう致しましょう? おすすめは全身マッサージと……」


「全部でお願いします。フルコースっていうので」



 ええ!! フルコース!! 


 シェルミーの言葉に私達だけでなく、従業員のお姉さんも驚いていた。お姉さんは、シェルミーだけでなく私達全員の顔色を伺うようにして言った。



「それは、誠にありがとうございます。ですが、当ホテルのここ、リフレッシュルームにてフルコースにされますと……かなりのお値段になりますが……しかも5名様分となりますと……」


「ノープロブレム。ちゃんと、お金は持ってますし、お支払いします。お金に糸目は付けないから、最高のコースでお願いします」



 シェルミーのその言葉を聞いても、ファーレは微笑んでいるだけ。


 本当にお金……大丈夫なんだ。セシリアだけでなくローザまで浮かれてしまって、セシリアと手を合わせて飛び跳ねて喜んでいる。


 ううーー、シェルミーやファーレとは、このリベラルにやってきて初めて知り合った。シェルミーとファーレがいくらお金持ちだからといっても、こんなにしてもらっていいのだろうかと不安になる。



「あ、ありがとうございます。それでは、それぞれに1名スタッフをつかせて頂きまして、早速ケアを始めさせて頂こうと思います」


「お願いしまーす」


「あれ? 料金は支払わないんですか? それともここは後払いなんですか?」


「こういう所は、ホテルをチェックアウトする時にまとめて請求されるものなの。それじゃ、行こう!」



 部屋の奥に進むと、また別の小部屋がいくつもあった。その前には、それぞれ女の人が立っていて、私達を待っている。そのうちの一人の女の子と目が合うと、その子が私の方へ近づいて来て頭を下げた。



「今日、これからお客様のご担当をさせて頂きますスキルラと申します」


「え? あの! はい、私はテトラと申します!」



 慌てて名乗り返すと、スキルラさんはとても可愛らしく笑った。褐色の健康的で、ハリのある綺麗な肌をしている女の子。こんな子がケアをしてくれるなら、とても説得力があると思った。



「それではフルコースという事になっておりますので、早速始めさせて頂きます。テトラ様、こちらにどうぞ」


「は、はひい!」



 駄目だ! な、なれてない。私の普段は、王宮メイド。それも下級メイドで、こういった誰かにケアをしてもらうなんてしたこともない。


 そう言えばかなり前だけど、王宮メイドの仕事が慣れてきた時に、重いものをよく運んでいたせいか肩が痛くなった時があった。あの時に、同室だったシャノンが私を心配して、私の肩を少し揉んでくれた。


 シャノン……ルーニ様を誘拐する為に私をだまして利用し、トゥターン砦では槍も交えた。だけど……だけどシャノンとの思い出は、それだけではない……


 あんな事になるまでは、私は少なくともシャノンとは良き同僚で、友人であると思っていた。


 ……トゥターン砦を攻めて、ルーニ様を救出した後、シャノンの姿はなかった。今頃何処でどうしているのか、気にならないと言えば嘘になる。


 そんな事を考えてボーーっとした表情でいると、スキルラさんが私の手を取って小部屋の中へと案内してくれた。その部屋の床は、タイル張りになっており排水溝がある。まるでお風呂みたいだった。


 そして部屋の真ん中には、寝台。スキルラさんは、私にそこで今着ている館内着を脱いでうつ伏せになるように言った。



「ええええ!! は、はは、裸になるんですか!?」


「はい。その方が、より良質なケアの効果を得られます。それに女同士ですし、それ程恥ずかしくはないと思われます」


「ははは、恥ずかしくないって言ったって……」


「後程、大浴場の方へ行かれるのでは? お風呂では皆様、とうぜん裸ですよ。心配されなくても、ここは女性専用のサービスルームですので、殿方はいらっしゃいません。それに私は、職業柄見慣れておりますので、特に問題はありません」



 と、特に問題はないと言われても……でも確かにスキルラさんの言っている事は理解できた。女同士だし、お風呂に入る時は裸になるのだ。ルーニ様を救出した後、王国に戻って王宮の大浴場に皆で浸かった。それと同じだと思えばいい。


 だけど……やっぱり、普段の私の専門分野はメイド。人に奉仕をする立場の私が、他の誰かに奉仕されるというのはとても変な感じで何かしら抵抗があった。



「さあ、それでは服を脱いでください。お手伝いしますね」


「ひ、ひいい!」



 突っ立って動こうとしない私の事を見かねて、スキルラは私の着ている館内着を脱がした。


 下着はロッカールームで既に脱いできているので、これで真っ裸になってしまった。女同士でも、こんな改まった感じでは、なんだか恥ずかしいので、もちろん両手で隠すところは隠した。


 そしてそのまま、寝台の上に上がってうつ伏せになった。


 それでようやくスキルラさんが、小部屋の端に準備していた何かを持って私の隣にきた。桶と、何かが入ったツボ。


 慣れている人は、このまま身を任せるんだろうけど、私は寝台にうつ伏せになりながらもキョロキョロとスキルラさんにこれから何をされるのか……落ち着きがなくなっていた。

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