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第664話 『ボディーケア その1』



 ううーーー、やっぱり下着をつけていないと、なんだか落ち着かない。だけどこれがここでは普通なんだとシェルミーは言うし、セシリア達もそれに従っているので仕方がない。


 ローザが近づいてきて、恥ずかしそうに小声で言った。



「なんだか……落ち着かないな」


「は、はい。私もなんだかちょっと……」


 ミョンッ


『きゃああっ!!』



 恥ずかしがっている私とローザの館内着、ズボンの腰回りのゴムを、セシリアが後ろからいきなり引っ張ったので悲鳴をあげてしまった。


 私達も驚いたけれど、ローザが私と同じく「きゃああ」っと悲鳴を上げた事には、二重でびっくりした。だけどふと考えてみれば、ローザも私達と同じくらいの女の子。


 王国騎士団という立場で、常に私達の前でも凛としている。旅人や村人などを襲う盗賊達や魔物を耳にすると、そこへいち速く駆けつけてやっつけているイメージが強かった。だから、余計に意外に思えたのかもしれない。


 でもドレスを着ている時は、確かに何処かのお嬢様……ううん、お姫様にだって見えた。それを考えると、不思議ではないのかもしれない。



「フフフ、テトラは兎も角、ローザもそういう可愛らしい一面があるのね」


「こ、こらー! いきなりやめてくれ! いくら私でも恥ずかしいものは恥ずかしい」


「ごめんなさい、もうしないわ…………多分」


「え? 多分ってなんだ? 多分ってなんなのだ?」



 そう言ってセシリアの肩を掴んで、揺らすローザ。私は、仲の良い二人を目にしながら、シェルミーに聞いてみた。



「そ、それで何処に行くんですか? お風呂ではないんですよね?」


「お風呂も行くけど、まずは別の所にいくよー。脱いだ下着はちゃんと、ロッカーにしまってね。じゃないと、盗まれるかもしれないよ」


「だ、誰も盗まないですよー」


「あははは、ほら皆早く。こっちこっちー、こっちだよー」



 ロッカールーム。部屋に表記が書いてあったけど、ここは更衣室だったみたい。お風呂に入る場合は、ここで裸になって大浴場の方へ向かうみたい。それも通路にある案内板に表記されていた。


 私達は、シェルミーについて行く。


 更衣室からまたフロントの方へ出る。すると、その隣に幅の広い通路があって、そちらの方へまた歩いていく。すると通路に入ってすぐに、喫煙所があった。こんなものも、設置されているなんて……そして驚いたのは、ちゃんと分煙されていた事だった。



「誰か煙草を吸っていく?」



 私は当然吸わないし、セシリアやローザも吸わない。エスカルテの街のギルドマスター、バーンさんがここにいたら、寄って行くんだろうなってちょっと想像して微笑ましくなった。



「皆、吸わないんだね。もちろん私も吸わないけど、もし吸いたい人がいるなら、そこで吸えるからねーって思ってね。それじゃ行こうか」



 シェルミーはそう言って、ファーレと共に更に通路の奥へと進む。その先、奥にいくつかの部屋に繋がる扉が現れた。



「こ、ここはいったい……」



 子供のような無邪気な顔をするシェルミーとファーレ。入ろうとしていた部屋の扉の前に、置き看板が設置されていて何かが書き込まれていた。


 おそらく部屋の中で、何が行われているか説明が書いてあるんだと思うんだけど……セシリアが近づいてマジマジと読む。



「……マッサージを有料で受けられるという内容と、その料金が書いてあるわね」


「ピンポーーーン、大正解!」


「ええーー、こ、これからもしかしてマッサージを受けるんですか? そ、そんな時間……」



 シェルミーは、にっこりと笑った。



「あるわよ、そんな時間はあるわよ」


「えーー!?」


「マッサージを受けても受けなくても、明日このホテルを出る時間帯は同じ。それに私達は、この交易都市に潜む『狼』を見つけ出してやっつけるという使命があるでしょ」


「そ、それはそうですが……」


「それなら尚更、今のうちに身体をリフレッシュさせておくという事は大事だと思わない? だってその方が、頭も冴えるし身体の調子も良くなる。もしかしたら、今日このマッサージを受けた事によって、コンディションが向上して、それでもし『狼』と戦いになった時にも、それが決め手になって勝てるかもしれないわよ」


「そ、そんなに上手くいくのでしょうか? それにマッサージなんて私、生まれてこの方一度もしてもらったことなんてないです」



 そう言えば、妹は尻尾がちゃんと9本あって両親にも可愛がられていた。いつもお母さんに膝枕してもらって、耳掃除をしてもらって気持ちよさそうにしている妹を眺めて羨ましく思っていた。そんな遠い記憶を思い出す。


 そんな昔の事と、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』との戦い。メルクト共和国に、平和を取り戻すという活動の真っ最中なのに、こんな高級ホテルに泊まってマッサージまで受けて……そんな事をしていていいのかと葛藤してしまう。そんな私の両肩を、セシリアとローザがそれぞれでポンと叩いた。



「いいんじゃないかしら。シェルミーの言う通りよ。もっと、合理的に考えましょう。ここでリフレッシュしても、それはこれから私達が果たす使命のプラスになりこそすれ、決して弊害になどなり得ないわ」


「セシリアの言う通りだ。不謹慎と言ってしまえばそうかもしれないが、一番大切な事は何かという所だろ。どちらにしても、明日の予定に関して同じであれば、ここは少しでも我々のコンディションをあげて士気を向上させておくこそが、活路を開く重要な鍵となりうるに違いないだろう」



 二人とも、もう何がなんでもマッサージを受けたいのだ。それは、理解した。



「そ、そこまで二人が言うんでしたら……わ、わかりました。この際ですもんね、しっかりと明日に備えてリフレッシュしましょう」



 セシリア、ローザ。二人とも、とてももっともらしい事を言っている。それもあって、同意する事にした。


 でも二人の目は、あきらかに超高級ホテルのマッサージをとても楽しみにしているような……そんな目をしている事は確実だった。

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