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第660話 『グランドリベラル その8』



 シェルミー&ファーレ。綺麗な歌声と、心地いいグランドピアノの演奏がラウンジ内に響き渡る。


 1曲目が終わると、物凄い拍手が彼女達姉妹に降り注いだ。


 シェルミーとは出会ってまだ間もないけれど、同じ目的があり一緒に行動している彼女が、沢山の人達に称賛されているのを見て、なんだか私も嬉しくなった。そう、まるで自分が沢山の人達に褒められている……そんなムズムズした嬉しい思い。


 彼女たちは立て続けに3曲も披露した所で、1日支配人のミルト・クオーンがまた登場して話を始めた。そこで私達は、メニューを見て食べたいものを選ぶとウェイターを再び呼んで、注文をした。


 暫くすると、テーブルに注文したものが運ばれてきて順々に並べられる。食事はコースになっていて、その注文と別にムール貝のワイン蒸しや、レバーパテに特性ディップ、ポテトやオニオンリングなど、皆で取り分けられるサラダなども頼んだ。どれも、物凄く美味しくて食べると頬っぺが落ちそうだと思った。


 セシリアとローザは飲み物に、赤ワインを注文していたけど、私はアルコールはそれほど強くもないのでオレンジジュースを注文した。綺麗なグラスに注がれて運ばれてきたオレンジジュースは、とても冷たくて搾りたてのようでびっくりする位に美味しかった。


 食事が終わる位の所で、ミルト・クオーンの長かったトークが終わる。他のお客さんから、シェルミー達の曲をもう一度聞きたいとアンコールされたので、シェルミーはもう一曲ならと快く返事をした。



「それでは夜はまだまだ続きますし、引き続きお楽しみ頂きたいですが、彼女たちの曲はこれで最後になります。どうぞ、お聞きくださいませーー」



 ミルト・クオーンのその言葉の後に、シェルミー達は今夜最後の音楽を披露した。


 最後の曲は、しっとりとしたバラード。透き通るようなシェルミーの歌声と、ピアノで奏でられる繊細で優しく、それでいて切ないメロディーが私の心を揺さぶる。目を閉じて、耳だけでなく心でシェルミー達の曲を聴く。



「テ、テトラ!?」


「え? あっ」



 再び目を開けると、目から涙が溢れた。凄い。音楽ってこんなにも人の心を動かす事ができるだなんて。


 セシリアが、「はい、使いなさい」と言ってハンカチを貸してくれたので「ありがとう」と言うと、「先に言っておくけれど、鼻はかまないででね」と言われてしまった。


 曲が終わると、盛大な拍手。シェルミーともう一人のピアニストの女の子ファーレは、二人そろってラウンジにいる全員に頭を下げた。


 そして別の男性が登場すると、ファーレと入れ替わりピアノを弾き始めた。音楽は、今度はとても軽快でノリのいい感じ。これは、ジャズっていう音楽だと思ってセシリアにそう言った。



「こ、この曲もいいですね」


「あら、絵の次は音楽? すっかりリベラルに来てから、色々なものに興味津々ね」


「え? だ、だって」


「まあ、別にいい事だと思うわ」


「で、ですよね。私、シェルミーのお陰で音楽にも興味がわいてきちゃって……今、あの男性が弾いている曲は、確かジャズって言うんですよね」


「そうね。でも、軽快でノリがいいでしょ? 正確にはスイングジャズっていうのかしら」


「……スイングジャズ」



 シェルミーともう一人のピアニストの女の子、ファーレの演奏ですっかり興奮してしまった私は、食事を続けるローザと共に、セシリアとそういった会話で夢中になっていた。


 すると目の前の先程までシェルミーが座っていた椅子の隣に、もう一つ椅子が置かれる。そしてそこへシェルミーと、ピアニストのファーレが並んで座った。


 え? どういう事!? セシリアやローザも驚いている様子。だって、先程までラウンジの中央でピアノを弾いていた女の子が、今は私達と同じテーブル席についている。


 ……ま、まさかこの美人ピアニストはリベラル十三商人の一人!? そんな考えが頭をかすめた所で、シェルミーが否定した。



「先に言っておくけど、この子はリベラル十三商人ではないからね」



 ローザが言った。



「じゃ、じゃあなぜ同じテーブルに連れて来たのだ? 私達にとうぜん紹介するつもりで連れて来たように見えるが」


「うん、そうだよ。じゃあファーレ、皆さんにご挨拶」



 シェルミーの言葉にファーレは、頷いて私達の方を向いて自己紹介をした。



「初めまして。私は、臨時でこのホテルのピアニストをさせてもらっているファーレです。大きな声では言えませんが、シェルミーの妹であり、同じ思いを胸に一足早くこの街へ入り込んで調査を続けていました」


「ええええ!! ファーレさんがシェルミーの妹!?」



 大声をあげた所で口をローザに抑えられ、太腿をセシリアにつねられた。ごめんなさい。


 周囲にいた人達や近くのテーブル席の人達が何事かとこちらを振り向いたので、私は頭を下げて謝罪した。シェルミーは続ける。



「まあ、そういう訳なので、ロドリゲスや他の私の部下……というか、仲間達の他に妹のファーレも加わるのでよろしく」


「わ、解りました。こちらこそよろしくお願いします。ファーレさん」


「私の事はファーレって呼び捨てにしていただいて結構です。ですので今後は、ファーレとお呼びください」


「は、はい、ファーレ。それじゃ私の事もテトラと呼んでください」


「はい、テトラ」



 全員自己紹介を済ませると、ローザが言った。



「妹がいるとは言っていたが、この高級ホテル40階のラウンジにいるピアニストがそうだったとは正直驚いた。それでファーレは、なぜここでピアニストを? もしかして『狼』に関する事で何か情報を掴んだのか?」



 ローザの質問に、シェルミーも妹に目をやる。しかしファーレは首を横に振る。



「残念ながら、敵幹部の有力情報はまだ得られていません。でもこの街の権力者である、リベラル十三商人の中に幹部が潜んでいると私は確信しています。だから姉のシェルミーと合流するまでに、一人でも十三商人を探っておこうと考えて」


「どういう事だ。それじゃまるで、その十三商人の一人がこのホテルにいるみたいだな」



 ローザの言葉にファーレは、今度は首を縦に振る。そして目立たないように、指を動かして今このラウンジに来ている客のうち、二人を指し示した。


 一人は女性。ぜんぜんこの場にいる事に気づかなかったけれど、あの人は確かリッカーの住処でアーマー屋ダニエルといた女性。フルーツディーラーのデューティー・ヘレント。


 そしてもう一人は、なんとこのホテルの一日支配人ミルト・クオーンだった。

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