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第66話 『満点の星空 その1』






 ――――――目が覚めると、見知らぬテントの中で、横になっていた。隣を見ると、ルキアが寝息を立てて眠っている。――――安堵する。更に、その横でカルビが丸くなっていた。


 …………良かった。私達……助かったんだ。



「っつ……痛いっ!」



 起き上がると、ズキンっと頭痛がした。身体も重くて、倦怠感もする。しんどい…………だけど、今どんな状態なのか把握しないと。


 私は重く感じる身体を支えながら、なんとか腰をあげてテントの外へ出た。


 見渡すと、そこはやはり荒野のど真ん中だった。でも、荒野を彷徨っていた時の絶望感などは、全く感じなかった。


 凄く綺麗な夕日に照らされる広大な荒野。その風景が目に飛び込んできた。オレンジ色の空。ガンロック王国の荒野には、クラインベルト王国とは、また別の美しさや厳しさがあるんだと解った。



「おや。気が付いたかね」



 男の声⁉ 咄嗟に剣を掴もうと腰に手を当てたが、帯刀していない。



「まだ、動かない方がいい。君たちは、熱中症になっていたようだから、水と薬を飲ませた。だからもう少し、横になって休んでいなさい。そうすれば、直によくなる」


「あなたは…………」


「はっはっはっは。覚えてないか。暑さと疲労にやられていたんだ、無理もないか」



 ――――思い出した!!



 私は、この荒野で食糧や水も尽きて…………道半ばで倒れて…………この人に運よく会えて、水を飲ませてもらって助けてもらったんだ。じゃあ、このキャンプは、この人の…………

 

 男は私に握手を求めてきたので、応じた。



「ナジーム・フムッドだ。ナジームでいい。行商人をやっている。君たちの持っていた荷や武器はテントの中に置いてあるから、あとで確認するといい。ちゃんと全部あるはずだよ」


「私達の荷物も、ちゃんと運んでくれていたなんて! 何から何までありがとう。ナジーム」



 ナジームは、にこりと微笑むと焚火の前に座った。私も、その隣に座る。



「私は、アテナ。冒険者で仲間と旅をしているの。テントの中にいるのは、その仲間のルキアとカルビ」


「ほう、ルキアとカルビ。獣人の女の子の方が、ルキアだな」


「ええ。そしてもう一度ちゃんと、言いたいんだけど、私たちを助けてくれてどうもありがとう!! ナジームには、本当にいくら感謝しても、し足りない程に、感謝しています。あのままナジームや他の誰かとも会えなかったら、きっと私達…………」



 ナジームは、急に笑い出した。



「え? な……なにか?」


「はっはっはっは! い……いや。すまん。カルビってあのウルフの名前だろ? 随分、美味しそうな名前だなと思ってな」



 なるほど。私たちはもう、慣れちゃっていたけど、やっぱりカルビの名前を初めて聞く人は、面白いって思うんだよね。確かに凄く、美味しそうな名前。でも、名付け親はルシエルだから、問題があるならルシエルのセンスに問題があるって事だよね。まあ、もう私達はカルビの事は、カルビって事で当たり前になっちゃったけど………まったく、ルシエルが…………



 ………………



 え⁉



 ――――ルシエル!!!!



 私は、青ざめた。ルシエルは、どうなったんだろう。あれから、だいぶ時間が経っている。あの時、ルシエルは、言った。自分が一番元気だから、ちょっと行って水と食糧を探して戻るって言っていた。だけど…………


 もしも。もしも水も食糧も手に入らず、こんな荒野をあのまま彷徨っていたら、今もまだずっと彷徨っていたら……まず助からないんじゃ………


 ――――でも、こんな荒野、どうやってルシエルを…………今いる場所だって把握していないのに!



 …………ルシエル!! 



 そんな、ありえない。ルシエルともう会えないなんて、そんなのは、ありえない!! そんなの絶対に嫌!!


 考えると胸が張り裂けそうになった。ルシエルとのこれまでの思い出!! 


 ルシエルと、初めて出会った時の事を思い出す。ギゼーフォの森でくだらないジョークを聞かれて、背負い投げした。改めて思い返すと、可笑しくてたまらない。そういえばあの時、ルシエルは栗鼠を獲ってきてくれて、それを使って私がつみれのスープを作ったんだっけ。二人で美味しく食べた。それから一度別れたけど、エスカルテの街で再会して、正式にパーティーを組んだ。そこからは、ずっと――――


 クラインベルト王国や、ガンロック王国での旅や冒険の日々が頭を駆け巡る。


 やっぱり、嫌だよ!!


 ルシエルはもう、私にとって家族みたいな仲間だもん! 絶対に失いたくない!!


 気が付くと、目から沢山の涙が溢れてこぼれ落ちていた。


 私は、改めてルシエルの事が本当に大切な存在だったという事を思い知らされた。目を閉じると、綺麗な輝く黄金の長い髪の彼女…………自信たっぷりの表情で、力いっぱい弓矢を引き絞るルシエル・アルディノアの姿が浮かび上がる。



「うわあああーーーー」


「ど……どうした? 何かあったのかね?」


「ルシエル……ルシエルが!! ナジーム! お願い!! 重ね重ね本当に申し訳ないんだけど、助けてください!! ルシエルを!!  まだ、あの子……うっ……まだあの子、この広い荒野で独りで彷徨っ……うっうっ……きっと私の助けを待っているはずだから!! お願い! 力を貸してください! お願いします!!」



 私は、取り乱していた。だけど今は、ナジームの力を借りるしかない。


 私は必死になって、縋るように懇願した。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ナジーム・フムッド 種別:ヒューム

髭を蓄え、恰幅の良い身体をしている行商人。頭にはターバンを巻いている。ガンロックの荒野で力尽きかけたアテナ一行を見つけて救った。アテナは、ナジームにこれ以上無い位に感謝の気持ちを伝えようとするが、単身水と食料を探しに出たルシエルの事も心配で、ナジームに助けて欲しいと懇願する。ナジームはアテナの願いを聞き届けてくれるのか? また、ルシエルは見つかるのか?


〇クラインベルト王国 種別:ロケーション

アテナ、ルキア、カルビのいた国。アテナはこの国の第二王女だった。草木が生い茂り、森や湖も多いこの国はガンロック王国とはまさに対照的だった。


〇ギゼーフォの森 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある、木漏れ日差し込む穏やかな森。様々な薬草も自生していて、それを採取しにやってきたアテナはそこで偶然にルシエルと出会った。


〇エスカルテの街 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある、栄えた大きな街。この街の冒険者ギルドにはバーン・グラッドがギルマスとしており、アテナの友人のミャオもこの街で店を営んでいる。アテナはこの街でルシエルと再会し、仲間になった。この時にローザという王国騎士とも出会い、友人になった。


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