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第659話 『グランドリベラル その7』



 シェルミーの座る席の隣に腰かけると、ウェイターがメニューを持ってきてくれた。シェルミーは「ありがと」と短く言って、ウェイターからメニューを受け取ると、それを私達に差し出した。



「なんでも好きなものを注文していいよ、ホテルでの全ての支払いは私のおごりだからね」


「で、でもそんなの……」


「いいからいいから。私、お金持ちだから気にしないで。それにもしも私が、それじゃあやっぱり皆、自分達の分は自分達でって言っても、きっと支払えない金額だと思うし」



 そう言って、にこにことするシェルミー。


 確かにシェルミーの言う通りだと思った。セシリアが、シェルミーの目を見つめる。



「今一度、確認しておきたいのだけれど」


「いいよ、何度でも」


「シェルミー、あなたの目的は、私達と同じだという認識でいいのね」


「うん、いいよ。私はレジスタンスで、メルクト共和国を悪の組織から救う為にやってきた。だからメルクト共和国に賊達を送り込んで、暴れさせている元凶である『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の幹部を倒す為に、その幹部が潜伏しているという交易都市リベラルにやってきた。セシリア、テトラ、ローザ、あなた達と目的は同じよ」


「そう、解ったわ。シェルミー、あなたはその目的の為に、今もこうやって私達をホテルに泊めてくれくれたり食事をさせてくれる。リベラルに入る時に手を貸してくれたのは、メルクト共和国を救う為に繋がるからという事なのね」


「そうだね。クラインベルトのメイドが二人、それにローザは見るからに騎士だよね。私も剣の心得は、それなりに解るからそれはだいたい解る。だから、力になってくれるかもと思ったの。あと……」


「あと?」


「皆とは、悪を倒す為の協力関係っていうだけでなく、きっといい友達になれる。そう思ったからかな」



 シェルミーの言葉を聞いてセシリアは、納得したようだった。だけど今度はローザが聞いた。



「私からも一つ質問したい。いいかな」


「もちろん、どうぞ」


「シェルミー、あなたと冒険者アテナとの関係だ。もう一度聞かせて欲しい」



 シェルミーは、にこりと微笑むとローザの目を真っすぐに見つめて答えた。



「冒険者アテナと私は、親友よ。アテナもそう思ってくれていると思っているし、私も……そして私の妹もそう思っているわ」


「い、妹……」


「兎に角、私は敵じゃないからそれは信じてほしい。悪を倒したいというのも、本当よ。まあそんな訳でとりあえずウェイターを呼んで、好きなものを頼んで食べて」



 シェルミーはそう言うと、席を立って歩き始めた。



「ちょ、ちょっとシェルミー」



 私は彼女が何処に行くのかと思って、呼び止めようとする。でも彼女には、私の声はまったく届いてない様子で、気が付くとシェルミーはラウンジの中央にあるグランドピアノの前に移動していた。


 そしてピアノの前に設置してある椅子に座ると、美しい音楽を演奏している水色のドレスを着ている女性と親しげに顔を合わせた。



「ご注文は、お決まりでしょうか?」


「え? あっ? ええ?」


「ちょっと、落ち着きなさいテトラ」



 シェルミーの、いきなりの理解できない行動に取り乱す私。シェルミーの方を指さして、困惑しているとセシリアに怒られた。



「あ、あの! あの赤髪で赤いドレスを着た女の子なんですが、私達の連れなんですけど……」



 ウェイターにそう言っていた。



「ああ、あの方は……」



 ウェイターが何か言おうとした所で、ラウンジ内の照明が全て消えた。ピアノの演奏も止まる。辺りが真っ暗になって、他のお客さん達もざわざわと動揺を見せる。



「セ、セシリア!! これは!!」


「いえ、お客様。特に問題はございませんので、そのままお座りになっていられても大丈夫です。引き続き、優雅なひとときをお楽しみ下さいませ」



 真っ暗のラウンジ。ウェイターが私達にそう言った所で、一カ所に灯りが射した。赤色のドレスを着たシェルミーと水色のドレスを着た、先程までピアノを弾いていた綺麗な女の子。そしてグランドピアノが、天井から射している光に照らし出されている。



「セ、セシリア。もしかしてこれって……」


「シッ! 静かにしなさい、テトラ」


「え? あ、はい」



 唐突の暗闇にざわついて、不安な声をあげていたお客さん達も、今はこれから起こる何かを期待して、固唾を呑んでシェルミー達に注目をしている。するとシェルミー達の前に、一人のタキシードを着た男性が現れた。



「レディースアンドジェントルメン!! 本日はこの交易都市リベラルが誇る最上級のホテル、グランドリベラルにお越しくださいまして、ありがとうございます! 私の事は、皆さんもう既にご存じかもしれませんが改めて自己紹介をさせていただきますと、この交易都市リベラルの発展にできる限りの尽力を務め貢献をして参りましたミルト・クオーンです」



 沢山の拍手が、ミルト・クオーンと名乗るタキシードの男に向けられている。



「ありがとう、ありがとう! 私の仕事は、ご存じの方も多いと思いますが……っと言うか、今夜ここにいらっしゃっている方々なら、ご存じいただいている方も多いと思いますね、ははは。普段は、コンサルタント業を営んでおります。ですが実は今日、特別にもう一つの仕事をさせて頂いております」



 コンサルタント業? 聞いた事もない仕事。それと、ミルト・クオーンが言うもう一つの仕事というのも気になった。今日は特別にって言う事は、言葉通りの今日だけの特別な仕事という事だろうか。



「そう、私は今日は、なんとこのグランドリベラルの一日支配人をやらせて頂いております。なので今夜はそう、私の特別な一日支配人最後の仕事となりますので、本日このラウンジにお食事にいらっしゃいました方々には、ささやかながら私、そして天使のように美しい彼女たちから皆様に贈り物をさせて頂きたく思います」



 また、拍手。そして水色のドレスを着た女の子が再びピアノを弾き始めると、シェルミーがグランドピアノの前に立つと大きな声で、美しいピアノの演奏に合わせて歌を披露し始めた。



「シェルミー&ファーレの美しい最高のピアノ演奏と歌声。今夜はどうぞ、それらをお聞き頂きながらお酒やお食事をお楽しみください。それでは、どうぞ!」



 物凄い拍手。気づくと私達もシェルミー達に拍手を送っていた。そしてもうお腹がペコペコなのに、暫くシェルミーの美しい歌声と、ファーレという女の子の素晴らしい演奏に目も耳も……そして心さえも奪われてしまっていた。

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