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第656話 『グランドリベラル その4』



「レディー、よろしいですか? 僕はまたリッカーのもとへ直ぐに戻らねばなりません。あまり長居していても、リッカーに気付かれてしまいますしね」


「に、逃げ出してきた訳ではないんですね?」

 


 私の言葉を聞いて、アローは苦笑した。私は何となく、馬鹿にされた気がしてスッとテーブルの上に腕を伸ばすと、アローの身体を掴んで抱き寄せた。アローのモコモコとした感触は、肌に触れるととても気持ち良かった。



「あの……ちょっと?」


「またリッカーのもとへ直ぐ戻るんですよね? じゃあ別にいいじゃないですか! ちょっとくらい」


「あのね、レディー。ちょっと位いいじゃないですかってね、僕はヌイグルミじゃないのですよ?」


「駄目です、少しの間だけヌイグルミです。それで! それで、なぜここへ来たんですか?」



 アローを抱きしめたまま、話をそらした。でも逸らしたけど、一番重要な事こそこっちの話だった。



「そうでした。実は現状をちゃんと話しておかなかったので、その事と……あとテトラ達が知りたがっている情報を入手したので、それを伝えにやってきました」


「情報……もしかして、『狼』の正体を掴んだんですが!?」


「『狼』の正体はまだつかんでいません。ですがそれに関する有力情報は、既にリッカーから掴んでいます。レティシアも同様のようですよ」



 そう言えばレティシアさん……私達が情報屋であるリッカーから、『狼』の情報を引き出そうとして彼の住処に乗り込んだ時に、アローが私達に言っていた事を思い出す。


 確かこのリベラルの街にいるリベラル十三商人と呼ばれる商人達、その一人……興行師のボム・キングという男の護衛についていると言っていた。


 そこから導き出される答えは、アローと同じ。レティシアさんとアローは、私がお願いした通りに『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の情報について今も調べてくれている。


 そしてついに、メルクト共和国を乗っ取ろうと計画している幹部の手がかりを掴んだんだ。だからその事を知らせる為に、アローがここへやってきてくれたのだ。



「それで、その有力情報ってなんでしょうか?」


「さっき言ったように、僕はもう戻らねばならない。リッカーに気づかれたら、折角信用させたのに全てが水の泡になってしまう。だから要点だけ伝えます」


「は、はい! お願いします!」


「現在メルクト共和国を乗っ取る為に暗躍している『闇夜の群狼』の幹部――僕らは『狼』と呼んでいますが、その『狼』はこの交易都市リベラルに潜伏しています」


「や、やっぱり……そうなんですね」


「ええ、断言できます。そしてその正体はまだ掴んではいませんが、この街にいる相当な権力者である事も解りました」



 え? そ、それってリベラル十三商人の事じゃ……もしくは、市長。



「因みに市長ではありませんよ。はっきり言って、彼は小物です。そしてついでに言うと、リベラル十三商人の中に『狼』はいます。つまり、十三人の中の誰かがジョーカーだという事です」



 まさか……そんな大物だったなんて。

 

 はっとした。だからアローは、私達がリッカーの住処から抜け出す時に、たまたまそこにやってきていたリベラル十三商人の名前を、わざわざ私達に教えるように言った。リッカーに怒られたとしても、私達が十三商人の名前と顔が解るように、情報を流した。



「アローとレティシアさんは、その十三商人の誰が『狼』か、見当をつけているんですか?」



 唸るアロー。あまり唸っているボタンインコなんて、見たことがないので口には出さなかったけれど、物凄く可愛らしいと思った。



「うーーん、まだ解らない。そんな大物が簡単に尻尾を出すとも思えないですしね。もしかしたら、リッカーがそうもしれないし、レティシアが今護衛しているボム・キングがそうかもしれない。今日リッカーと商談するつもりであの住処にやってきた面々だって、可能性は大いにある」



 防具専門の商人、ダニエル・コマネフ。それにあの場にいたのは、太った髭の男――武器商人ババン・バレンバン。薬屋のイーサン・ローグに、交換屋(トレーダー)のゴケイ。ゴケイには、リベラルに入る時に盗賊団同士で揉めていたヌンチャクの男、スイコが一緒にいた。


 そう、あとはとても綺麗なドレスに身を包んだ女性が一人いた……フルーツディーラーのデューティー・ヘレント。あれ? もしかして……


 私はあることに気が付いて、テーブルに乗っているさっきまでアローが夢中になって食べていた果実が沢山盛ってある籠に目をやった。



「も、もしかして! この物凄く美味しい果実って」


「フルーツディーラー、デューティー・ヘレント。彼女の取り扱っている商品さ。交易都市リベラルに流通する果実のほとんどが、彼女の商品でその半分以上が彼女が自分で所有している果樹園でとれた果実なのです」


「す、凄いです!! そうなんですか!!」


「別に凄くはないですよ。これだけ巨大な都市で、最も権力を持っている十三人の一人ですからね。もちろん、言うまでも無い事かもしれませんが、彼女が『狼』という可能性も十分にあります」


「ど、どうすれば解るんですか?」


「一人一人地道に調べるしかないですよね。僕がリッカーを調べ、レティシアがボム・キングを調べているように。でもテトラの仲間達や、ビルグリーノと言っていたコルネウス執政官の兵隊達、彼らが首都グーリエに迫ってもいるでしょうから、それまでに敵の頭を叩いて大打撃を与えておきたいのであれば、当然できるだけ急いだ方がいいのでしょうね」



 どうしよう! アローの言う通りだ。


 私はレティシアさんに、『闇夜の群狼』の事を頼んだ。するとレティシアさんもアローも、私が頼んだ事以上に頑張って情報を集めてくれている。


 そう思うと、アロー達が潜入捜査をしてくれているのに、私達はこんな高級ホテルで宿泊し、ゆっくりとしていてもいいのかと罪悪感にも似た不安に襲われた。


 でもアローは、そんな私の心を見透かしているようにニヤリと笑う。そして何かを言おうとした所で、私の部屋のドアを、コンコンと誰かがノックした。ローザだと思った。

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