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第655話 『グランドリベラル その3』



 ローザが部屋に来てくれると言っていたけど、まだこない。


 きっとローザやセシリアも、今頃はこの高級ホテルのゴージャスな部屋に驚いているのだろうなと思った。


 シェルミーから貸してもらった、今着ている踊り子の服。とても露出が激しくて、少し動くだけでも身に付けている下着が見えてしまう。だけどとても可愛くて、普段からメイド服しか着用していないからというのもあるけど、もう少し着ていたいと思った。


 だけどこのホテルでは、踊り子の服でいるのは駄目みたいだった。案内された部屋のクローゼットには、いくつものオシャレで素敵な服や靴などがあって、それに自由に着替えていいという。



「私……こんなドレスみたいなの、着たことがない。でも……このホテルで過ごすなら、これに着替えなくちゃいけない」



 クローゼットの中から、一番気になったドレスを手に取った。下着は、なんだか際どいものが多くて、そのまま自分の着ているものを使用しようと思った。


 靴……靴も色々とある。パンプスやハイヒールもあるけれど、私はサンダルを選んだ。選んだドレスを着ても可笑しくないと思える装飾の施された素敵なサンダル。私は、こういう方が好き。


 ドレスアップを終えると、鏡台の前に座ってみた。鏡に映る、自分の顔をマジマジと見る。私は、可愛いのだろうか? 少し、微笑んでみる。


 セシリアやローザが美人っていうのは、見た瞬間に誰しもがそう思うと思ったけれど、自分自身というのはなかなか評価しづらいものがある。


 目線を鏡台の上に落とすと、そこには小さな箱がある。手に取って開けてみると、化粧道具が入っていた。この部屋に案内してくれたメイドが言っていたけど、この部屋にあるものは、自由に使っていいとの事だった。


 折角ドレスアップしてとても素敵なサンダルを身に着けているのに、顔はすっぴんのままっていうのも……何か寂しい気がする。


 これでも一応女の子だから、お化粧に興味がないと言えば嘘になる。だけど今まで自分でした事は、生まれてこの方ない。


 私は一応クラインベルト王国の王宮メイドではあるけれど、私のような下級メイドがお化粧なんてしていたら、きっと指摘されるし何を考えているんだと怒られてしまう。


 同じ王宮メイドでも、お化粧をしたり多少着飾っても許されているのは、セシリアのような上級メイドだけ。彼女たちは、他の国の大使様や大臣、はたまた国王が貴族などと謁見したりするそういう場で、仕事をしたりする。だからお化粧をする事は許されているのだ。


 でも……でも今日は、私もお化粧ができる。


 小箱からまず口紅を取り出して、それを自分の唇に塗ってみた。自分の唇が情熱的な赤の色へと変わる。それだけでいつもの自分の顔が一瞬、別の誰かに見えた。



「ほう、これはこれは。口紅一つ、塗るだけでも別人のように変わるものですね」



 いきなりの声!! 鏡を見ると、私の後ろに見える窓にとまるボタンインコの姿が見えた。私は驚いて、彼の名を呼びながらも振り返る。でも着慣れないドレスで足がもつれて、その場に盛大に転んでしまった。



「ア、アローー!! っきゃああ!!」


 ドドーーーン


「あいたたた……」


「全く、そそっかしいですね。気をつけなさい、レディー。とても素敵なドレスですが、それきっと高いですよ。もしも今ので破れたりすれば、あなたの持ち合わせでは到底弁償できない代物ですよ」


「うっうーー、確かにそうですね。でも幸いドレスは、大丈夫なようです」



 立ち上がってくるりと回る。そして裾から上まで破損していないか確認した。



「それにしてもアロー、ここまで来てくれたんですね! よくここが解りましたね!」


「僕はこう見えても【ウィザード】ですからね。しかも探索などは、得意とする所。テトラ達の後を辿るなんて事は、得になんでもありませんでしたよ。ですがリッカーの住処からこっそりと脱出してくる事の方が大変でしたかね」


「こっそりって事は、またリッカーのもとへ戻るんですか?」



 アローは、窓からこちらの方へ羽ばたいてテーブルの上に移動した。テーブルの上には、色とりどりの美味しそうなフルーツが専用の籠に盛り付けられていた。アローは、それを凝視している。


 きっと食べたいのだろうと思った私は、その果実の中から葡萄をとる。そして実を一粒引っ張って取ると、アローに食べさせた。



「ムグムグムグ……ほう、これは甘くて美味ですね! ふむ、この葡萄はかなりレベルが高い」


「レ、レベルが高いって?」


「森とかそういう場所で、採取してきた野生の果実ではないという事ですよ。これはしっかりと美味しくなるように管理されて、調整された葡萄です。そのように商品開発されているからか、糖度が極めて高い。ちょっと他の果実も食べさせてもらっていいですか? きっと他の果実もこの葡萄と同じく美味に違いない」



 私はアローの言ったように、他の果実もアローに与えた。大きな実で皮があるものなどは、部屋に用意されている果物ナイフで、ちゃんと剥いてあげた。アローは、幸せそうに果物を次々と啄んで食べる。


 本当に美味しそうに食べるので、私も食べてみた。すると果実はとてもみずみずしくて、甘くて美味しかった。こんな果実、初めて口にする。


 夢中になって果物を食べていたアローのお腹が、大きく腫れてくる。するとアローは、「ふうーー」っと満足した声を漏らして、お腹を羽で摩りながらもこちらを向いた。


 ボタンインコは、もともと丸っとした形をしている鳥だけど、お腹いっぱいに果実の詰まったアローはいつも以上に丸く見えた。



「ご馳走様でした。とても美味しい果実でした」



 じっと私の顔を見るアロー。私は、アローがこの街に潜伏する『狼』の正体を掴んだのかどうか聞いてみる事にした。


 リッカーのもとを抜け出して、ここまでわざわざやってきたのだから、それに関する情報も掴んでいるかもしれない。


 もしくは、レティシアさんの事かも――

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