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第65話 『焼けつく大地』 (▼アテナpart)





 ――――――ガンロック王国。旧マハリの村南東の荒野。



 ――――私達は、完全にこの国の事を嘗めていた。嘗めきっていた。だってしょうがないじゃない。クラインベルト王国以外の国になんて、幼い頃にちょこっと一度行ったくらいしかないんだから。


 …………新しい世界へ足を踏み出した喜びで、完全に皆舞い上がっていた。


 容赦なく照り付ける太陽。辺りの温度が上昇し、大地はひび割れ空気が歪む。


 旧マハリの村で補給した、水や食糧もとうに尽きてしまっている。辺りはずっと、荒地荒地荒地…………。もう……いや……



「あっっつーーーい!! もう駄目だーーーー!! 水―――――!!!!」



 私は、たまらず叫んだ。しかし、その声は何処までも続くこのだだっ広い荒野に溶けていく。空は、こんなに青く晴々して天気も良いのに。…………今は、少しでも雨が降るのを望んでいる。


 クラインベルト王国を旅している時は、いつも雨なんか降らないでって思っていたけど、今は違う。こんなに雨が恋しく思える日がくるなんて。叫んだせいで、カラカラになった喉がさらに渇いた。



 ………………



 ぼやいていても仕方がない。カッサスの街へ無事に辿り着かないと――――


 そう言えば、意識もボーっとするし歩くのもやっとで、先ほどから後ろを見ていない。そんな余裕もない。暑くて暑くて、もうただただ暑さに耐えながら荒野を前進していたから――――でも急に気になった。



「みんな……大丈夫…………?」



 後ろを振り返る。すると、遥か後方に猫耳の少女とウルフが1匹倒れていた。



「うそおおおおおお!!!! ルキアアアアアアアア!!!! カルビィィィィィ!!!!」



 飛び上がる程、びっくりした。知らない間にこの炎天下で、ルキアもカルビも力尽きている。急いで二人に駆け寄った。



「ちょっと、大丈夫!! しっかりして!! ルキア!! カルビ!!」


「う……ん……」



 良かった! 二人とも生きている!! ルキアは、気を失っていたようで、パチパチと瞬きした。



「ルキア! 気が付いた? カルビも……大丈夫⁉」


「水…………水が飲みたい……です……」


「ごめんね!! 水はもうないの!! 今、ルシエルが水と食糧を探しに行っているから、もう少し我慢して! ルシエルの事だから、きっとなんとかしてくれるはずだよ」


「は……はい……」



 うううう! ごめんね! ルキア! 


 私は、そう言ったあと、ルキアとカルビを掴んで、なんとか近くにある大きな岩の陰まで引きずって行った。熱中症や脱水症状になっている。なんとか、涼しいところで休ませないと。それと、水…………水を飲ませて、身体を冷やしてあげないと…………


 岩陰から顔を出して、日向の方を覗くと太陽の激しい熱で、大地がじりじりと熱気を帯びているのが解る。大地が焼けている。このままじゃ、ルシエルがなんとかする前に、私達みんな、ミイラになっちゃうよ。



「ミイラ…………」



 一瞬、ルキアとカルビのミイラ姿を想像してしまった。それは、可愛い尻尾の生えた猫耳少女の包帯姿と、ワンコの包帯グルグル巻きだった。



「アテナさん! 私、暑さでミイラになっちゃいました…………」


「ワンワンワン」



 …………一瞬、そんなミイラなら凄く可愛いくて、いいなあって妄想してしまった。頭をブンブンと振って妄想を振り払う。そんな妄想をしてしまう程、私も限界なのかも。



「こんな時に、何を考えとるんだ……私は」



 こんな荒野のど真ん中で、ただ干からびるのは忍びない……何かないだろうか。何かいい手を探さないと…………


 周囲を見回した。すると、少し離れた所に人影のようなものを見つける。幻……ではない。



「あれは? もしかして。ルキア、カルビ! ちょっと、ここで待っててね」



 私は、ルキアとカルビをおいて、人影の方へ向かって歩き出した。



「ああ。 やっぱり、人だ。人がいる。おおーーーーい!! そこの人!! 助けてーーーー!!」



 私はその人に助けを求めて走り出した。喉もカラカラ。でも叫んだ。喉が焼ける。でも、最後の力を振り絞らないと…………



「お……おねがい……まって…………」



 その人にどんどん近づいていくと、向こうもこちらに気づいてくれたようだ。しかも、馬のような生き物を連れている。目がぼやけてきて、ちゃんとよく見えない。頭もぼーーーっとする。顔も熱いし……



「ちょ……ちょっと待ってください。わ……私、旅をしている冒険者です。助けて下さい。もう、水も食糧も……仲間も倒れて…………そこにいます……」



 その人は、恰幅が良くてターバンを頭に巻いた、立派な髭を蓄える男だった。


 糸が切れた。私は、この絶望の中、荒野で人に会えた事での安堵と疲労の限界で、気が抜けて膝から崩れ落ちた。すると、咄嗟にその男は、私を支えてくれた。



「おーおーおー。大丈夫かね。これは、いかん。さあ、水を飲みなさい」



 男は、私をその場にゆっくりと座らせて、持っていた水筒の水を飲ませてくれた。



「うっうっうっうっ……はあ……はあ……」


「水は、まだあるから、ゆっくり飲みなさい。つらかっただろうが、もう大丈夫だ。この先に、俺のキャンプがある」


「キャンプ……」


「そうだ。そこへ行けば、ゆっくりと休めるから、もう少し我慢しなさい」



 視界がぼやけていた。男は、連れていた馬のような生き物の背に、私を乗せようとした。私は、男の手を両手でしっかりと握って頼んだ。



「お願いします。あそこの岩の陰に仲間がいます。獣人の女の子と、使い魔のウルフです。お願い……どうか、一緒に助けて……」



 私の言葉に、男は少し考えるそぶりをみせた。



「私にできる事ならなんでもします……だから…………だから、あの子たちを助けてあげて…………」



 男は、頷く。



「…………解った。安心しなさい。俺が、その子たちも助けてあげよう。もう、安心していい」


「…………良かった……ありがとう…………」



 長い間、暑さと疲労にやられ、水も食糧もとらず歩き続けて、もはや限界だった。



 私は、ルキアたちの事を男に頼むやいなや、気を失った。


 








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。趣味は、旅と食事とキャンプ。二刀流使いで、魔法も使いこなす。生まれて初めてのガンロック王国の旅。初っ端からファイヤーリザードの群れと遭遇し戦闘へ発展。ファイヤーリザードの肉を手に入れ、カレーを作って美味しく食べるという順調な滑り出しのような展開を見せるが……


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。現在アテナ一行は、既に廃墟と化したマハリの村からカッサスへ向けて移動していた。しかし、荒野の広がるガンロック王国の照り付ける太陽にひび割れた大地は非常に過酷な旅となる。一番体力を残していたルシエルは単身で先行して、水や食料を探しに出た。


〇ルキア 種別:獣人

Fランク冒険者。猫の獣人。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気遣いのできる優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンから特別なナイフを貰い、アテナからは魔物に関する本を貰う。文字も教えてもらう約束をして、ルキアは戦闘技術だけでなく知識もモリモリと成長していく。ガンロック王国へ入国後、アテナやルシエルと旅を続けていたが、容赦のないガンロック王国の厳しい環境に耐えきれず、ついに倒れる。


〇カルビ 種別:魔物

子ウルフ。アテナと別行動していたルシエルが出会った子ウルフ。ニガッタ村での騒動を経て、アテナのパーティーの正式な4人目の仲間となる。(※あえて匹ではなく4人とカウント。)ルシエルの使い魔でもあるが、アテナやルキアにもよくなついている。今回、ガンロック王国で可愛らしいミイラになりかけたらしい。


〇髭を蓄えたターバンの男 種別:ヒューム

アテナがガンロック王国入国後に初めて出会った人間。ガンロック王国の厳しい環境をあまく見ていたアテナ一行は、水も失い喉の渇きに加え空腹や照り付ける太陽で、全滅を免れない事態へと陥った。そこで現れたのが彼である。


〇ガンロック王国 種別:ロケーション

アテナ一行が現在、旅をする国。何処までも荒野が広がっているような国。日中は太陽が照り付けて大地を焼き、夜は急激に気温が下がる厳しい世界。まるで、砂漠。


〇旧マハリの村 種別:ロケーション

昔いた冒険作家のリンド・バーロックの本を参考に、アテナ一行がガンロック王国へ入国し最初に水や食料の補給や、この国の情報を仕入れようとした村。既に150年の時を刻んでおり、村は廃墟と化していた。

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